前立腺がんの基礎知識 3つの危険因子|前立腺がんの主な検査方法

急増中の前立腺がん。50歳になったら定期的な検査を

血液採取で簡単にできるPSA(前立腺特異抗原)検査は、前立腺がんを早期に発見できる有効な手段

前立腺がんの現状

 国立がん研究センターがん対策情報センターの「最新がん統計」によると、わが国で1年間に新しく前立腺がんにかかる人は約42,997人(2005年データ)、1年間に前立腺がんで亡くなる人は10,036人(2009年データ)と発表されています。年次推移では、1990年代ごろから罹患率・死亡率ともに急激に増加傾向にあります。
 生涯で前立腺がんにかかるリスク(2005年データ)を見ると、16人に1人(臓器別罹患数第3位)、前立腺がんで死亡するリスク(2009年データ)は、73人に1人(臓器別死亡数第6位)とされています。

 年代別の罹患率をみると、50歳代から増え始め、60歳代で急増し、高齢になるほど増加しています。また、年代別の死亡率をみると、60歳代後半から増え始め、70歳代後半で急増し、やはり高齢になるほど増加しています。
 米国では男性のがんで最も多いのが前立腺がんです。日本でも、罹患者数が急増しており、2020年には、1995年の約6倍に達し、肺がんに次いで多くなると推計されています。

前立腺がんの危険因子

 前立腺は男性の骨盤の奥深いところで、膀胱の出口から尿道を取り巻くように存在する男性特有の生殖器官で、精液の一部となる前立腺液を分泌しています。
 高齢になるほど罹患者数が増えることから、加齢によるホルモン環境の変化が前立腺がんの原因の一つと考えられています。

【前立腺がんのリスク要因】
・高齢
・前立腺がんの家族歴
・高脂肪食・動物性たんぱく食といった食習慣の欧米化 など

前立腺がんの主な検査

 前立腺がんは、厚生労働省のガイドラインによる「がん検診」の対象にはなっていません。しかし、前立腺がんの罹患者数が急増していることもあり、自治体実施の住民検診や、職域検診で、「前立腺がん検診」(またはPSA検診、PSA検査)を取り入れている場合もあります。また、個人で受ける人間ドックなどで、オプション検査として「PSA検査」を受ける人も増えているようです。

 初期にほとんど自覚症状がない前立腺がんを早期発見するために、日本泌尿器科学会では、50歳になったらPSA検査を受けることをすすめています。
 2010年に発表されたスウェーデンでの研究報告によると、「PSA検査を受けることで、前立腺がんによる死亡率が40%も低下する」ことが示されました。
 一方、早期がんや治療の必要のない前立腺がんに過剰な治療を行う可能性を危惧する意見もあり、世界的にはPSAスクリーニングの有用性についての結論は未だ得られていません。

【血液検査】
●腫瘍マーカー(PSA検査)
 腫瘍マーカーとは、体内にがんが存在すると血液中に大量に増える物質をいいます。PSA(前立腺特異抗原)は、前立腺で作られるたんぱく質で、前立腺に異常があると血液中の値が上昇します。
 一般に4ng/ml(ナノグラム・パー・ミリリットル)以上であると、前立腺がんが疑われ、「要精密検査」と判定されます。50歳になったら検査を受け、1ng/ml以下なら3年に1回、それ以上なら年に1回の検査がすすめられています。

 PSAは前立腺肥大症や前立腺炎によっても高値を示しますが、血液検査という簡単な方法で前立腺の異常をとらえることができるので、がんの早期発見に有効な検査といえます。
 なお、前立腺がんの一部にPSA値が上がらないタイプもあるので、直腸診や経直腸的超音波検査を併用することが大切です。

【触診】
●直腸診
 医師が手袋をはめた人差し指を肛門から挿入し、直腸越しに前立腺に触れて状態を診断する検査です。前立腺の大きさや形、硬さなどを調べ、前立腺がんや前立腺肥大症の有無を確認します。経験を積んだ医師は、的確に判断ができるとされますが、前立腺の直腸側の状態しかわからないため、最終的には、血液検査や病理検査、画像検査なども行い、総合的に診断します。

【病理検査】
●前立腺生検
 PSA検査が基準値(通常4.0 ng/ml)を超えて高値となった場合、「前立腺生検」を行います。局所麻酔を行い、前立腺に細い針を刺し、組織の一部を採取します。針は12~14カ所に刺します。採取した組織を顕微鏡で観察して、良性か悪性か、悪性であればその性質や悪性度を詳しく調べます。
 実際には、プローブという器具を肛門から挿入し、超音波画像(経直腸的超音波画像)を見ながら直腸壁越しに針を刺し、病変部を含む前立腺組織の一部を採取します。外来や1泊入院で実施することが可能です。直腸内の細菌が前立腺に感染するのを防ぐために直前に抗菌薬を服用あるいは静脈から投与します。

【画像検査】
 針生検で前立腺がんであることがわかると、がんが存在する部位をより正確に確定したり、臨床病期(がんの進行状態、広がり具合)などを総合的に判断します。必要に応じて、以下のいずれかの画像検査が行われます。

●経直腸的超音波検査(経直腸的エコー検査)
 プローブという器具を肛門から挿入し、超音波を前立腺に発射し、反射してきた超音波を検出して画像化する検査です。ほとんどの場合、画像検査の最初に行われます。前述の針生検の際に併用される画像検査です。

●CT検査(造影CT検査)
 コンピューター断層撮影検査ともいいます。X線を体の外周から照射し、組織に吸収されたX線量をコンピューターで処理し、体内の断層像(輪切り像)を描き出す画像検査です。リンパ節や他の臓器への転移の有無を把握することができます。

●MRI検査
 磁気共鳴画像検査ともいいます。体に強い電磁波を作用させることで、電子が共鳴して放出したエネルギーをコンピューターで処理し、画像化する検査です。前立腺内のがんの存在する部位や被膜への浸潤の有無あるいはリンパ節や他の臓器への浸潤の有無を把握することができます。

●骨シンチグラム検査(アイソトープ検査)
 前立腺がんは骨に転移しやすいので、骨への転移の有無を調べます。ごく微量のアイソトープ(放射性同位元素)を血液内に注入し、それが組織に集積する様子をガンマ線カメラで撮影します。骨折や炎症、がんの転移などで、骨の再生が活発に起きている箇所にアイソトープが集積します。その部分は黒く写り、一度に全身の骨のチェックが可能です。

●PET/CT検査
 PETとはがん細胞で糖の分解(代謝)が活発になることを利用した検査で、がんがあるかどうか、他の臓器や骨、リンパ節など前立腺以外に転移があるかどうかなどの診断に用いられます。これに、CTの画像を同時に合わせることで、より精度の高い画像が得られます。
 また、デジタルデータ化されるので、さまざまな角度の断面を表示することが可能で、目的に応じた画面を観察することができます。

(編集・制作 (株)法研)


【監修】
橘 政昭先生


東京医科大学泌尿器科学教室主任教授
1976年慶應義塾大学医学部卒。同大学医学部にて研修ののち、80年泌尿器科学助手、83年米国ニューヨーク医科大学泌尿器科研究員などを経て、86年慶應義塾大学病院診療科医長、88年同大学医学部専任講師、99年同大学医学部助教授に就任(いずれも泌尿器科)。2000年東京医科大学主任教授(泌尿器科)に就任し、現在に至る。日本泌尿器科学会(評議員・指導医・幹事)、日本ヒト細胞学会(理事・評議員・編集委員)、日本透析医学会(認定医)、日本腎臓学会(認定医)、日本癌治療学会(代議員)、日本癌学会、日本ロボット外科学会(理事)、国際泌尿器科学会、アジア泌尿器科学会などに所属。

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