卵巣がんの基礎知識 8つの危険因子|主な検査方法

見つかりにくいサイレントキラー。発症のピークは50代

いろいろな腫瘍ができ見極めが難しい。40~50代では「おなかが太った」などの変化でも婦人科チェックを

卵巣がんの現状

 卵巣は子宮の両側に1対ある直径2~3cmほどの小さな臓器で、卵子を育て女性ホルモンを分泌するなどの働きがあります。卵巣がんはもともと日本女性には少なく欧米で多いがんですが、過去数十年にわたって日本での発症数は増加傾向にあります。

 国立がん研究センターがん対策情報センターの「最新がん統計」によると、我が国で1年間で新たに卵巣がんと診断される方は約8,300人(2005年データ)、卵巣がんで亡くなる方は約4,600人と推測されています(2009年データ)。生涯で卵巣がんにかかるリスクは、女性93人に1人(2005年データ)、卵巣がんで死亡するリスクは、女性189人に1人(2009年データ)と発表されています。
 年齢別に見ると罹患率は40歳代から急増して50歳代前半にピークがあり、その後ほぼ横ばいとなりますが、70歳代後半以上でまた増加しています。死亡率は40歳代から50歳代前半にかけて増加してその後横ばいとなり、70歳代前半からまた増加しています。

卵巣がんの特徴

 卵巣は表層上皮、卵細胞(胚細胞)、ホルモンを分泌する細胞や間質の組織からできており、それらの組織からさまざまなタイプの腫瘍ができます。卵巣にできる腫瘍の85%は良性ですが、中には悪性腫瘍(がん)や、良性から悪性に変化するものもあり、その鑑別が難しくなっています。
 卵巣がんの約90%は表層上皮層にできる上皮性腫瘍で、40歳代から50歳代に多く発症しています。一方、10~20歳代の若い世代では、卵子のもとになる胚(はい)細胞から発生する卵巣胚細胞腫瘍が多くみられます。
 また、卵巣には胃がんや大腸がんなど消化器がんからの転移によるがんも発生することがあります。

 以前と比べて、初期の卵巣がんは完治率も高くなってきました。しかし、卵巣がんは早期発見が難しく、痛みもなく大きくなり、腹水が溜まりおなかが張ることでやっと気づく場合が多く、進行するまでなかなか見つからないケースがほとんどです。進行した場合の完治率は、依然低いと言わざるを得ません。

卵巣がんの危険因子

 卵巣がんは種類がさまざまで発生のメカニズムも単一ではなく、そのすべてに強い関連性を示す要因はありません。以下のように複数の要因が関係していると考えられていますが、卵巣がんの確立したリスク要因は遺伝的要因であるとされています。しかし、遺伝的に要素があったとしても必ず卵巣がんになるわけではありません。
 逆に、経口避妊薬(低用量ピル)の使用で卵巣がんのリスクは減少すると考えられています。

【卵巣がんのリスク要因】
・家族に卵巣がんになった人がいる
・妊娠回数が少ない
・出産経験がない、または少ない
・授乳経験がない、または少ない
・乳がんを経験した
・肥満
・排卵誘発剤の使用
・ホルモン補充療法の長期使用
など

卵巣がんの主な検査

 卵巣がんは、厚生労働省のガイドラインによる「がん検診」の対象にはなっていません。卵巣は骨盤の奥深くに位置することから痛みやしこりを感じにくく、腫瘍ができても自覚症状がなかなか現れません。また、卵巣がんの有用な検診法は今のところ見つかっていないため発見が遅れがちで、卵巣がんの約半数は進行した状態で発見されています。このため、定期的に婦人科検診を受けることが大変重要です。

 卵巣がんの初期には便秘の症状や子宮の良性腫瘍(子宮筋腫)と似たようなおなかの張りを感じることがあります。また、転移しにくいタイプの卵巣がんでは、進行すると人の頭大までになり周囲の臓器を圧迫するほどの大きさに腫れることがあります。
 体の他の部分は太らないのに腹部だけがぽっこりふくらんでいる、腹部に圧迫感がある、閉経後に性器からの出血がある場合などは、直ちに婦人科の診察を受けることをおすすめします。

●問診
 まず下腹部の痛みや張った感じ(膨満感)などがないかを問診によって確認します。

●触診(内診・直腸診)
 内診では腟内に片方の手指を挿入し、他方の手をおなかの上に置き、子宮と左右の卵巣の大きさや形、位置、腫れの状態を診ていきます。超音波検査ではわからない腫瘍の硬さや、腫瘍が動くかどうかなどの状態もわかります。
 また、手袋を着用して潤滑剤を塗った指を肛門から直腸の中に挿入し、子宮や卵巣の状態を診る直腸診が行われる場合もあります。
 これらの触診と同時に、経腟超音波検査も行います。

●経腟超音波検査
 体内に超音波を送り、はね返ってくる反射波(エコー)を検出することで体内の情報を画像化するしくみです。細長い超音波検査具(プローブ)を腟内に挿入し、子宮内や卵巣のようすを至近距離から映像で見ることができます。
 体への侵襲性はなく、婦人科では日常的に行われる検査です。

●細胞診・組織診
 卵巣は子宮頸管などを通じて外部と接触していないため、検査器具を挿入して内部の細胞や組織をとる検査は行うことができません。腹水がたくさん溜まっている状態では、細い穿刺針を用いて、子宮と直腸との間(ダグラス窩)の液体を経腟的に採取したり、あるいはおなかの上から経腹的に液体を採取することで、腹水細胞診検査を行う場合があります。
 確定診断をつけるためには、原則として開腹による卵巣の摘出手術を行い、病理検査によって卵巣がんの確定診断を行います。これによってがん細胞のタイプや広がりの程度がわかり、その後の治療方針が決まります。

【血液検査】
●腫瘍マーカー
 体内にがんが存在すると血液中に大量に増える物質のことで、卵巣がんでは最も多い上皮性腫瘍の漿液性(しょうえきせい)腺がんというタイプが産生するCA125という糖タンパクを腫瘍マーカーとしてチェックします。
 転移のある卵巣がんでは、CA125陽性となる人が多く、しかも非常に高値となるため、腫瘍マーカーは卵巣がんの発見に有効とされます。ただし、早期の卵巣がんではCA125陽性にはなりにくく、一方、若い女性の中にはがんがなくても軽度陽性を示す人もいて、CA125は卵巣がんの早期発見にはあまり有用ではないとされています。

 また下腹部にしこりがある若年者で、血中のAFP(アルファ・フェトプロテイン)、LDH(乳酸脱水素酵素)の値が高い場合は、卵巣胚細胞腫瘍の可能性があります。

【画像検査】
 診察で卵巣がんが疑われる場合は、以下のような画像検査を行い、子宮の腫瘍か、卵巣腫瘍か、腫瘍の内部の構造、転移の有無などを詳しく調べます。検査によって良性か悪性かを推定することができます。

●腹部超音波検査
 腹部エコー検査ともいいます。腹部に超音波検査具(プローブ)を当てて超音波を発信し、そこから返ってくる反射波(エコー)を画像化して診断します。
 婦人科の検診や診察では、主に経腟超音波検査を行いますが、内科など別の疾患で受診して腹部超音波検査を行い、偶然に卵巣が腫大している状態を発見することがあります。

●CT検査
 コンピューター断層撮影検査ともいいます。X線を体の外周から照射し、いろいろな角度から体内の詳細な像を連続的に撮影します。組織に吸収されたX線量をコンピューターで処理することによって、体内の断層像(輪切り像)を描き出していきます。肺や肝臓などへの遠隔転移、またリンパ節の転移などの有無、胸水や腹水の溜まりの程度など検索することができます。

●MRI検査
 磁気共鳴画像検査ともいいます。体に強い電磁波を作用させることで、電子が共鳴して放出したエネルギーをコンピューターで処理し、画像化する検査です。画像の鮮明さでは内視鏡やCTより優れているため、がんの広がり(浸潤)を詳細に見ていくのに適しており、手術の範囲や治療方法を決めるためにも有用な検査となっています。

●胸部単純X線検査
 一般の診療や健診などでもよく行われる検査で、レントゲン検査とも呼ばれます。特にがんの場合は肺への転移の有無や胸水の溜まりなどを調べるために行う検査です。ただし、この検査だけで小さな病変を見つけることは難しく、CTなどの画像検査や血液検査、組織診などを併用する必要があります。

●PET/CT検査
 PETとは、がん細胞があると糖の吸収・分解(代謝)が活発になることを利用した検査で、がんがあるかどうか、リンパ節などに転移があるかどうかなどの診断に用いられます。これに、CTの画像を同時に合わせることで、より精度の高い画像が得られます。
 デジタルデータ化されるので、さまざまな角度の断面を表示することが可能で、目的に応じた画面を観察することができ、卵巣がんの再発など小さな病変を見つけることができる場合があります。

(編集・制作 (株)法研)

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【監修】
鈴木 直先生


聖マリアンナ医科大学産婦人科学教授
同大学病院婦人科部長
1990年慶應義塾大学医学部卒業。93年同大学大学院入学(2001年医学博士取得)。1996~98年米国カリフォルニア州バーナム研究所留学。慶應義塾大学医学部産婦人科学助手を経て、2005年聖マリアンナ医科大学産婦人科学講師に就任。09年准教授、11年より現職、12年より同大学病院腫瘍センター副センター長(緩和医療部会長)ならびに講座代表。専門分野は婦人科腫瘍、緩和医療、がん・生殖医療(若年乳がん患者の卵巣機能温存など)。日本産科婦人科学会専門医、日本臨床細胞学会細胞診専門医、日本婦人科腫瘍学会専門医、日本がん治療認定医機構認定医、日本緩和医療学会緩和ケアの基本教育に関する指導者。

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