深呼吸のリラックス効果と健康効果

心身をリラックスさせるだけでなく、生活習慣病予防にも

肺全体を使った呼吸を習慣にして、イキイキと健康な生活を送ろう

副交感神経の働きが高まってリラックス

 仕事や家事で疲れたとき、大きく息を吸ってゆっくり吐くと、体全体のこりがほぐれてゆったりした気分になります。こうしたリラックス効果は、深呼吸のもつ大きなメリットの一つです。

 深呼吸をするとリラックスできるのは、自律神経のうち交感神経の働きが弱まり、副交感神経の働きが強くなるからです。心身が活動状態にあるときは交感神経の働きが副交感神経よりも強まり、逆に活動を休んでいるときは副交感神経の働きのほうが優位になることはよく知られています。

 例えば、朝目が覚めて体を動かし、心身が活動しているときは交感神経の働きが強く、自律神経はいわば戦闘状態にあります。日中の活動を終えて夜になり、入浴して寝るころには副交感神経がより活発になり、全身の余分な力が抜け、ゆったりと落ち着いた状態になります。こうした活動状態からリラックスした状態へのスイッチの切り替えを、深呼吸は可能にしてくれるのです。

 また副交感神経の働きが優位になると、体の末端の血流がよくなって、冷え症の改善や美肌づくりに効果があります。

生活習慣病の予防にもつながる

 深呼吸のもたらす作用は、それだけではありません。高血圧を改善し、動脈硬化や血栓を予防して生活習慣病の予防にもつながることもわかっています。これは、呼吸をしたときに、肺から出る「プロスタグランディンI2(アイツー)」という物質による作用です。

 「プロスタグランディンI2」は医薬品にも使われている物質で、血管を拡張させて血圧を下げたり、血管を収縮させるホルモンの分泌を抑制する働きがあります。また、動脈壁にコレステロールなどの血中脂質がしみ込むのを防いで動脈硬化を予防したり、血栓ができるのを防ぐ作用があります。
 深呼吸をしたときには、ほかに「プロスタグランディンE」という物質も出て、これも高い血圧降下作用を発揮します。

 プロスタグランディンI2やEの作用を十分に発揮させるには、肺全体を使った呼吸が理想的です。なぜなら、これらの物質は、肺を構成している肺胞(はいほう)というたくさんの小さな袋が大きくふくらんだとき、肺胞をとり巻く毛細血管の壁でつくられるからです。したがって、肺全体を使った呼吸をして肺胞を大きくふくらませるほど、これらの物質が多く分泌され、その働きも期待できるわけです。

腹式呼吸と胸式呼吸を交互に行う全肺呼吸で細胞イキイキ

 しかし、実際に肺全体を使って呼吸をしている人は少なく、たいていの人は肺の呼吸機能の70~80%しか使っていません。肺という臓器が縦に30~40cmと長く、下のほうは血液の重みによって肺胞がつぶれがちなことや、デスクワークなどで背を丸めた姿勢を続けるために肺の上部も圧迫されていることが原因です。

 こうしてつぶれがちな肺胞を広げ、呼吸機能を十分に使うには、腹式呼吸と胸式呼吸を交互に行う全肺呼吸がおすすめです。腹式呼吸は、肺の中心部から下のほうまで十分に広げる呼吸、胸式呼吸は肺の中心部から上のほうまで十分に広げる呼吸です。
 具体的には次のやり方で、腹式呼吸と胸式呼吸を5回ずつ交互に行いましょう。

●腹式呼吸
(1)背すじを伸ばし、リラックスして立ちます。へその下に両手を当て、おなかがへこむのを確かめながら、息を吐ききります。
(2)おなかがふくらんでいくのを確認しながら1、2、3と3段階に分けて鼻から息を吸います。一瞬息を止め、さらに1、2、3と息を吸い足し、もう一度同様に、息を止めて吸い込み、9段階で思い切り息を吸い込みます。
(3)口をすぼめ、息を細く長く吐きます。ろうそくの火が消えないほどのイメージで。

●胸式呼吸
(1)背すじを伸ばし、リラックスして立ちます。少しずつ肩をすぼめながら息を吐ききります。
(2)両腕を少しずつ広げ、胸を張りながら腹式呼吸の時と同様に、1、2、3と3段階に分けて鼻から息を吸います。一瞬息を止めてからさらに1、2、3と息を吸い足し、もう一度同様に、3段階で息を吸い足し、9段階で思い切り息を吸い込みます。
(3)口をすぼめ、息を細く長く吐きます。腹式呼吸のときと同じように吐いていき、だんだん肩をすぼめて(1)の姿勢に戻ります。

 浅い呼吸では動脈血への酸素の取り込みが十分行えず、酸素不足になってしまいます。これでは全身の細胞はイキイキと働くことができません。全肺呼吸で効率よく酸素を取り込み、細胞をイキイキさせてあげましょう。

 深呼吸は、時間や場所を選ばず、お金もかかりません。朝起きたとき、夜寝る前、あるいは仕事や家事で疲れたとき、イライラしたとき、車の運転中に赤信号で止まったときなど、意識して行うとよいでしょう。深呼吸、とくに全肺呼吸の習慣は、心身をリラックスさせるだけでなく、生活習慣病の予防など、健康な生活のためにも役立ちます。


(編集・制作 (株)法研)

【監修】
北村 諭先生


南栃木病院院長
自治医科大学名誉教授、埼玉県立大学名誉教授
東京大学医学部卒業後、同大第三内科入局。米国ヴァージニア医科大学留学、テキサス大学ダラス分校留学、東京大学医学部第三内科講師等を経て、1985~99年自治医科大学呼吸器内科教授。1999~2003年埼玉県立大学教授。2000年~南栃木病院院長。2006年~中間法人日本呼吸器疾患研究基金代表理事。ベルツ賞、日本胸部疾患学会熊谷賞、国際胸部医学会日本支部賞、内視鏡医学研究振興財団顕彰等を受賞。第18回日本呼吸器内視鏡学会総会会長、第36回日本呼吸器学会総会会長、第17回日本炎症・再生医学会会長、第74回日本結核病学会総会会長、第50回日本アレルギー学会総会会長等を務める。著書多数。

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