信頼性の高い「HbA1c検査」で糖尿病の早期発見・早期治療

食事や運動の影響を受けず高い信頼性をもつ指標HbA1c

日本独自の値から国際標準値へ。0.4%高い数値となるため、病状の誤解などがないよう医療機関に確認を。

過去1~2カ月の血糖の平均的な状態がわかるHbA1c

 日本では成人の5人に1人が糖尿病または糖尿病予備軍といわれています。糖尿病は、インスリンの分泌不足や働きが悪くなることによって血糖値の異常に高い状態(高血糖)が続く病気。放置すれば合併症を起こし命にかかわることもあります。

 「血糖値」とは「血液中にブドウ糖がどれくらい含まれているか」を示す値です。血液中のブドウ糖は全身の組織に取り込まれて、体を動かすエネルギー源などになりますが、ブドウ糖を十分に取り込めなくなると、使われないブドウ糖が血液中にあふれるようになります。これが高血糖で、血糖値は糖尿病の診断の重要な指標となっています。
 ただ、血糖値は検査直前の食生活などの影響を受けやすいため、普段は高血糖が続いていても、検査直前の数日間、糖質を控えたり、しっかり運動すれば血糖値は低めに出ることがあり、せっかく検査を受けながら早期発見のチャンスを逃してしまうことがあります。

 これに対して、HbA1c(ヘモグロビン・エイワンシー)という血液成分を測る検査では、過去1~2カ月の血液中のブドウ糖の平均的な状態を知ることができます。HbA1cは赤血球のヘモグロビンに血液中のブドウ糖が結合したもので、ヘモグロビン全体に対する割合で表します。ブドウ糖が多いほどヘモグロビンとたくさん結びつくため、HbA1cの数値も高くなります。
 一度できたHbA1cは赤血球が死ぬまでなくならず、赤血球の寿命は約4カ月で、赤血球が半分入れ替わるのに約2カ月かかることから、HbA1c値は過去1~2カ月の血糖の状態を反映していると考えられています。
 HbA1cは、検査前数日間の食事や運動などの生活習慣の影響はほとんど受けず、「ごまかしが効かない」検査値といえます。その分、高血糖、さらには糖尿病を早期に発見できる可能性が高い、信頼性の高い指標といえるのです。しかも、血糖値のように空腹時に測る必要もなく、食事に左右されずにいつでも検査ができる利点もあります。

 そこで日本糖尿病学会では、2010年7月に糖尿病の診断基準を改訂し、従来は血糖値の補助的な扱いだったHbA1cを“格上げ”しました。すなわち、最初の検査で血糖値とともにHbA1c を測定し、血糖値が「糖尿病型」であることに加え、HbA1cが6.1%以上で「糖尿病型」であれば、それで「糖尿病」と診断してよいことになったのです。従来は、血糖値が「糖尿病型」であることを別の日に再検査し、再び確認してはじめて「持続性高血糖」すなわち「糖尿病」と診断していました。
 「持続性高血糖」の指標であるHbA1cを診断の第一段階に導入することにより、できるだけ糖尿病を早期に診断し、早期に治療を始める必要があると判断されたのです。

診療では国際標準値(NGSP値)に日本独自の値(JDS値)も併記

 上記のHbA1c 6.1%以上の場合の6.1%は日本糖尿病学会(JDS)による測り方の数値であり、正確にはHbA1c(JDS)6.1%と書きます。わざわざこのように書くのは、HbA1cにはこのほかに国際標準値(NGSP値)があるからです。
 HbA1cの極端に低い値(4.9%以下)と高い値(10.0%以上)を除き、ほとんどはJDS値に0.4を加えるとNGSP値に換算することができます。つまり、HbA1c(JDS)6.1%は、NGSP値では6.5%になります。

 さて、日本以外の諸外国で広く使用されているのはNGSP値であるため、このところNGSP値に統一する動きが活発になってきており、日本でも学術分野ではすでにNGSP値を使用するようになっています。日常診療においても、日本糖尿病学会は厚生労働省や日本糖尿病協会など関係団体と協議を重ね、「2012年4月からNGSP値を用い、当面の間はJDS値も併記する」という方針を発表しました。
 このため、すでに診療では両方の値が使用されています。しかし、特定健診・特定保健指導(いわゆるメタボ健診)では2013年3月までは従来通りのJDS値のみでよいことになっており、2013年4月からNGSP値で行われる方向で検討が進んでいます。

 当面心配されるのは、NGSP値はJDS値より0.4ポイント高値であることから、病状の誤解などの混乱を招きかねないということです。たとえば自分のHbA1c値が悪くなったと勘違いしたり、診断基準が緩くなったと誤解することがあるかもしれません。
 そこで日本糖尿病学会では、ポスターやリーフレットなどを医療機関に配布し、HbA1c国際標準化の周知を図っています。また、学会HPに国際標準化に関する『よくあるご質問とその回答』を開設、「大切なのはHbA1c がJDS値なのかNGSP値なのかということ。判断に迷うときは検査を受けた病院や健診機関で確認を」「糖尿病の状態を実際以上に悪く(良く)判断し、薬の量や飲み方を変えたりすると大変危険であるため、医師と相談して自分の糖尿病の状態を正しく理解して」などと注意を呼びかけています。

「HbA1cを測る」習慣で危険な合併症を防ぐ

 日本糖尿病学会による、HbA1cを用いた糖尿病関係の各種の診断基準や血糖コントロールの目標値、メタボ健診での判定値は表の通りです。

 現在血糖関係で特に異常を指摘されていない人なら、これからも診断基準や判定値を超えないように、すでに糖尿病の治療を受けている人なら目標値を達成・維持できるように、食事、運動、睡眠(ストレス)などの生活習慣を見直しましょう。

 このためには、まずHbA1cを定期的に測る習慣が大切です。職場や地域の健康診断、そして人間ドックなども利用してHbA1cを測ってください。日本糖尿病協会などがHbA1c検査の普及活動を展開しており、そのイベントを利用して測ってもらうのもよいでしょう。

 糖尿病の怖さは、細い血管が傷ついて発症する目の網膜や神経、腎臓などの障害、さらには大血管が傷ついて発症する心筋梗塞や脳卒中など、さまざまな合併症が起こりやすいことです。しかも、ほとんど自覚症状もなく進んでしまいます。「HbA1cを測る」習慣で血糖の異常を早めに見つけ、これらの合併症を確実に防ぎましょう。

(編集・制作 (株)法研)

【監修】
門脇 孝先生


東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科教授
東京大学医学部附属病院病院長
1978年東京大学医学部卒業。同大同学部第3内科入局後、米国国立衛生研究所(NIH)糖尿病部門客員研究員、東京大学医学部第3内科講師などを経て、2003年同大大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科教授。05年東京大学医学部附属病院副病院長、11年病院長に就任(兼務)。日本糖尿病学会理事長、日本糖尿病協会理事、日本内分泌学会理事、日本肥満学会理事などを務める。専門分野は糖尿病・肥満、インスリン抵抗性の分子機構の研究。著書に『健診で血糖値が心配ですよと言われた人の本(監修)』(法研)など多数。

コラムに関連する病名が検索できます。

この記事を見ているひとはこんな記事も見ています

糖尿病の早期発見に健康診断が有効‐メタボリック症候群も要注意

2012年の国民健康・栄養調査によると、わが国の糖尿病患者は有病者だけでも約950万人、予備群は約1100万人で、合計約2050万人と推計されます。これは日本人の人口推計値約1億2700万人からすれば、約6人に1人が糖尿病あるいは糖尿病予... 続きを読む

健康診断の結果の見方-前年との推移も確認しよう

健康診断の中でも人間ドックは検査項目が多く、報告書が手元に届いてすべての項目が問題なしという人は少ないでしょう。しかし、それぞれの検査項目は前回の「賢い健診講座2」で示したように重要度が異なっています。今後それぞれの検査項目についてみてい... 続きを読む

血糖値の上昇を抑えるシジュウム茶ダイエット

シジュウム茶
痩せるだけでなく美肌効果も高いダイエットとして注目を集めているのが、シジュウム茶ダイエットです。
シジュウム茶は南アメリカ大陸の熱帯原産の植物で、現地では薬草として多くの民間療法に用いられています。シジュウム茶の健康効... 続きを読む

死亡リスクの高い糖尿病・肥満・痛風-検診データを活用して予防

糖尿病は、血液中のブドウ糖を低下させるホルモン、インスリンの不足によって、血液中のブドウ糖濃度=「血糖値」が高くなった状態です。血液中のブドウ糖は、食事をすると一時的に増えるものの2~3時間ほどでまた元に戻ります。血液検査では、(1)随時... 続きを読む

メタボリックシンドロームってなに? 心筋梗塞や脳卒中の危険因子に

腹部肥満、高血圧、高脂血症、高血糖が重なると、一つひとつは軽度であっても心筋梗塞や脳卒中などのリスクが高まることは、1980年以降、国内外で注目されてきました。また日本では、「3つ以上の危険因子をもつ人の心筋梗塞等の発症率は、1つもない人... 続きを読む

「食後高血糖」とは? 通常の検査では分からない危険因子


高血糖が長く続いた状態が糖尿病であり、そのままにしておくと目や神経、腎臓などを傷め、さらには動脈硬化から脳卒中や心筋梗塞といった命にかかわる病気も引き起こします。高血糖とは、私たちの体を動かすエネルギー源である炭水化物などの栄養素が体内... 続きを読む

がんにならない生活‐分かりやすい6つの予防法

9月は「がん征圧月間」です。日本人の死因の第1位を占めるがんに、まったく無関心の人はまずいないでしょう。「できれば、がんなんかにかかりたくない」という人に今回ご紹介するのは、日本人向けにまとめられた発がんの危険因子と予防法です。厚生労働省... 続きを読む

婦人科検診を受けるときの服装は? 準備しておいて便利な物

婦人科の病気が疑われる症状のなかで、「おりもの」や「不正出血」は自分だけが気づくことができるものです。ですから、そんな症状があれば積極的に相談に来ていただきたいのです。でも、やっぱり恥ずかしくて気後れするのが婦人科の診察だと思います。
... 続きを読む

日本人は糖尿病になりやすい?予防は生活習慣から

「糖尿病は太っている人や男性がかかる病気」と思っている人は多いのではないでしょうか。確かにそういった人に糖尿病が多いのは事実ですが、やせている人や女性で糖尿病にかかる人も決して少なくありません。
今年の『全国糖尿病週間』(11月11日~... 続きを読む

糖尿病は万病のもと!合併症による命の危険も

世界中で糖尿病の患者が増加し、深刻な問題として捉えられています。一説には10秒間に1人が糖尿病の合併症で亡くなるといわれており、日本でも、患者と予備群を合わせると1,870万人と推測され(平成18年「国民健康・栄養調査」)、国民病といって... 続きを読む