健康診断はあてにならない?検査項目には科学的根拠が乏しい

健康診断の検査項目は科学的根拠に基づいているか?

健康診断の検査項目は、検査の有用性だけでなく、検査に伴う不利益も考慮に入れて設定する必要がある

一般健診の検査項目でさえその半分以上が科学的根拠に乏しい?

 前回は、人間ドックは一般健診に比べ、がん検診の項目が多く含まれていることを説明しました(「賢い健診講座1 一般健診と人間ドック」)。がんの検査以外でも一般健診に比べ、より多くの検査項目が含まれていますが、それらはエビデンス(科学的根拠)に基づいているのでしょうか?

 日本では、一般健診の検査項目は労働安全衛生法により、労働者に受診が義務づけられています。毎年多くの人が健診を受けていますが、実はその検査項目でさえ半数以上は十分な科学的根拠に乏しいことが、2005年に報告されました。その報告とは、2004年度までに実施された厚生労働科学研究班(主任研究者:福井次矢京大教授(現・聖路加国際病院長))の「最新の科学的知見に基づいた保健事業に係る調査研究」です。
 この研究では、米国のUSPSTF(U.S. Preventive Services Task Force)(政府機関であるAHRQの協力の下、政府とは独立した立場で予防医療や一般診療に定期的にガイドラインを発信している)の指針を参考にして他の先行研究や論文を解析しています。

 表に、わが国の一般健診の検査項目についての米国のUSPSTFの評価と、上記の研究で報告された評価を示します。

 米国での指針では検査を勧める上で、Aは十分な根拠がある、Bはまずまずの根拠がある項目ですが、Dは反対に無効または害が利点を上回るとされた検査項目です。Iは現時点では十分なデータがなく判定不能としています。
 一方日本の研究班の報告では、質の高いエビデンスが得られているものを1、専門家の意見だけによるもので、まだエビデンスが十分でないものを6として、評価の高いものほど数字が低くなっています。1*は米国のUSPSTFのDに相当するもので、検査をすることが不適当だとする十分なエビデンスがあるとされたものです。また1**の血糖検査は、検査をするだけでは不十分で、生活習慣改善などの何らかの介入がなければ有効ではないとされています。

 たとえば、よく健康診断で実施されている心電図検査ですが、安静時の心電図だけでなく運動負荷心電図でも、スクリーニングとして行うにはともに非効率的で、虚血性心疾患の早期発見や早期治療にはつながらないとされています。胸部X線写真も、肺がんの早期発見には有効でなく、毎年胸部レントゲンを撮影する科学的根拠は乏しいとされました。

これから受けていくべき健康診断の検査項目とは?

 このように、法律で義務づけられている健康診断の検査項目さえ科学的根拠が十分ではないことが示されたことで、当時、毎年健康診断を受けている受診者だけでなく、健康診断を行っている医療機関からも大きな反響がありました。しかし、その後法律が改正される動きはありませんし、健診を実施する医療機関も特に検査項目を減らすところはないようです。

 実際、健康診断の心電図で無症状の不整脈(心房細動など)が発見されたり、胸部レントゲン写真で無症状の肺がんや結核が発見されたりするのも事実ですし、受診する個々の人にとっては、健康診断をきっかけにこれらのことが初めてわかることもあります。
 したがって、検査による“発見”がそれぞれの受診者の生命の長さ(予後)を延ばすことができたかということだけでなく、その後の日常生活の質(QOL)がどうであったかも評価すべき大事なことです。

 しかし、米国のUSPSTFや日本の研究班の報告では、目標達成点(疫学研究ではエンドポイントと言う)を、その検査項目が明らかに死亡率や罹病率の減少効果につながったかどうかだけ評価することとし、かなり厳密な基準を設定していたため、各検査項目が予想以上に低い評価となったのかもしれません。
 ただし、それぞれの検査の有用性だけでなく検査に伴う不利益(再検査に伴う金銭的・時間的負担や結果に対する精神的不安など)も考慮に入れて今後の健康診断の検査項目を設定する必要があることをUSPSTFのガイドラインや日本の研究班の報告は教えてくれますし、一般健診の検査項目だけでなく人間ドックで実施されている検査項目についても、それらの検査の医学的あるいは科学的根拠について考えてみる必要があります。

 実際にそれぞれの検査は年齢、男女差だけでなく背景にあるリスク因子(たとえば喫煙歴、高血圧、糖尿病の有無など)によって毎年検査をした方がよい場合と、数年あるいは5年くらいの間隔でもよい場合があります。たとえば米国のUSPSTFの新しいガイドラインでは、脂質の検査は35歳以上の健康な男性ではAの推奨レベルですが、20~35歳の男性と20歳以上女性ではCの推奨レベルです。

 また米国と日本とでは疾患の頻度も異なります。たとえば米国では胃がんの罹患率が低くUSPSTFには胃がんの予防に関するガイドラインはありません。一方日本でも増え続けている大腸がんに対する早期発見のスクリーニングについては、米国のUSPSTFのガイドラインが大変参考になります。

 次回以降、まず米国のUSPSTFでも十分な科学的エビデンスがあるとする検査項目から、それぞれの検査項目の有用性、課題などについて具体的に検討していきましょう。

(編集・制作 (株)法研)


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【執筆】
石川 隆先生


丸の内クリニック理事長・院長
1981年東京大学医学部医学科卒。1983年東京大学医学部附属病院、都立駒込病院などで臨床研修の後、88年東大病院第三内科文部教官助手。90年カルフォルニア大学サンフランシスコ校ポストドクトラルフェロー。94年に帰国し、東大病院第三内科。99年東京大学保健センター講師。2011年丸の内クリニック理事長・院長に就任。専門は内科学・消化器病学・肝臓病学・健康管理など。著書に『生理学の基本がわかる事典』(監修)(西東社)、『わかっちゃう 図解 ウイルス』(監修)(新紀元社)。
丸の内クリニックのHP:http://www.marunouchi-c.org/

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