高齢者の転倒を予防するには-ポールウォーキングで楽しく運動

高齢者の転倒予防に役立つポールウオーキング

両手にポールを持って歩くため、安全に効率的に歩行でき、転倒予防につながる身体機能も改善できる

転倒予防にはアクティビティの高い運動に取り組むのが理想的だが……

 高齢者の転倒は、骨折を引き起こす要因です。特に後方や斜め後ろに転倒すると、足の付け根の大腿骨頸部骨折を引き起こし、寝たきりの原因にもなります。そのため、転倒を予防することは、寝たきり予防のためにもとても大切です。
 転倒に関連する要因はいくつかありますが、身体機能の観点からは、(1)下肢筋力、(2)歩行機能、(3)バランス機能の3つが関連します。これ以外にも、足部や足爪の変形なども転倒を誘発する因子として考えられ、これらはフットケアなどを行うことで改善が可能です。

 足指や足爪は、歩行の際の地面の蹴り出しやバランスを保持する際の、姿勢制御能に関連します。このシリーズではこれまで、安定した歩行機能やバランス機能の維持向上のためのフットケアなどについて解説してきました。これだけでも(1)~(3)について一定の機能向上が期待できます。さらに身体機能を改善し、快適な日常生活を送るためには、積極的に歩行するなどアクティビティの高い運動に取り組むことが理想的です。

 一方で、アクティビティを阻害する身体的要因も明らかになりつつあります。変形性関節症の大規模調査を行った東京大学の「Roadプロジェクト」の報告では、40歳以上の日本人には、変形性膝関節症の患者が2,530万人(男性860万人、女性1,670万人)、変形性腰椎症では3,790万人(男性1,890万人、女性1,900万人)存在すると推定しています。
 さらに問題なのは、痛みがある変形性膝関節症の患者が820万人、変形性腰椎症では1,020万人も存在すると報告されている点です。すでに膝や腰に痛みがある人は、日常生活の活動度や生活の質(QOL)が下がる傾向にあります。まだ痛みがない人に痛みが出るようになると、ご本人もつらいですし、支援する側も負担が増えることが考えられます。

ポールを両手に持つことで安定的・効率的に歩行できるポールウオーキング

 膝や腰に痛みがある、あるいは違和感があるからと外出を控えていると、ますます身体機能は低下します。そこで今回は、ポールを使った歩行運動(ポールウオーキング)を紹介し、身体機能への影響について概説します。
 下の写真は「ポールウオーキング」の様子です。写真1の左のように2本のポールを左右の手で1本ずつ持ち、ウオーキングを行います。ポールを持って歩くというと、杖を持って歩くことをイメージされるようですが、それとは根本的に異なります。まず片手のみにポールや杖を持つと、歩行中や立位中の姿勢が傾くことで歩行時の重心の移動が通常歩行とは異なってきます。また片手に偏った推進力を得ようとしますので、運動としては理想的ではありません。

 それがポールを両手に持つことで、歩行中の両肩の位置に左右の偏りがなくなり、姿勢が安定します。さらに、左右の前方から後方の広い範囲にわたってポールが地面に接地するため、歩行中の支持基底面が広がります。支持基底面とは、安定して重心を移動させることができる面積のことです。
 片手に杖を持つと、歩行中に両肩が左右に大きく振れることで、杖を持つ手や肩、腰部に負担をかけますが、両手にポールを持つと、この左右に振れる力を抑制できます。そのため、歩行中の膝や腰に加わる力を軽減できると同時に、安定的・効率的な歩行が実現できると考えられます。

ポールウオーキングで足圧分布が改善し、足指力やバランス機能も向上

 それではポールウオーキングの身体的な効果について具体的にみていきましょう。今回の対象者(69~92歳)は、健常な高齢者(1次予防対象者)から、間もなく要介護が疑われる高齢者(2次予防対象者)までを含みます。ただし、健常高齢者と言っても、高血圧や糖尿病、リウマチ、骨粗しょう症、変形性膝関節症などさまざまな慢性疾患を抱えています。頻度は週1回で3カ月間、計12回実施しました。毎回ポールを使ったウオーキングを行い、柔軟体操などを取り入れました(写真1 右)。そして運動の初回と最終回には、対象者の身体機能を測定しました。

 まず筋骨格系への効果を見るために足圧分布を計測した結果、以下のことがわかりました(図1)。
 (a)運動前は足指が十分に地面に接地しなかった対象者が全体の75%存在しましたが、3カ月間の運動後には全員が改善しました。
 (b)図1左(実施前)は足指の付け根の荷重が大きくなっていますが、実施後にはそれが改善されています。このように横アーチ(前足部アーチ)が低下していた対象者が実施前には75%存在しましたが、実施後には42%に改善しました。

 次に下肢筋力の観点から足指力を計測した結果、以下のことが明らかになりました。
 (c)ほとんどの対象者の足指力が向上しました。特に、実施前に転倒リスク群(転倒リスクの高いグループ)に該当した対象者の足指力の向上率は1.3倍であり、1名を除き全員が向上しました。低下した1名はひどい外反母趾で、足底部の動きが困難でした。

 さらに、私たちが開発した歩行・バランス機能を計測する装置を用いて歩行機能とバランス機能を調べたところ、歩行中の蹴り出しの力と踵の接地時の荷重が大きくなり、バランス機能に密接に関係する姿勢制御能が高まることがわかりました。

 以上の結果より、足部の筋力向上などの機能性が高まったことで、横アーチの機能改善、歩行中の蹴り出しの力と姿勢制御能が向上したことが推察されました。足指は姿勢制御能のうち前後方向の制御を行っており、転倒を予防するために重要な働きをしています。
 さらに、今回の対象者中で実施前に膝や腰が痛いと回答した者は42%存在しましたが、実施後には25%まで減少しました。このように具体的に身体機能の改善だけでなく、膝痛・腰痛の改善の効果が確認できました。

 歩くことは体によいことは間違いありません。しかし、転倒に密接に関係する下肢筋力、歩行機能、バランス機能が低下している高齢者を積極的に歩かせることは、高齢者自身にも支援する側にも不安があります。その点、両手にポールを持って歩くポールウオーキングならこれらの不安を軽減できますし、歩行中の膝や腰に加わる力を軽減することで安全な歩行が実現できます。
 このように、まだまだ健康だと感じられるうちから、ちょっとした道具を活用して健康づくりをすることができます。チャレンジしてみてはいかがでしょう?

(編集・制作 (株)法研)

【執筆】
山下 和彦先生


東京医療保健大学医療保健学部医療情報学科教授
2005年東京医療保健大学医療保健学部医療情報学科講師、07年准教授を経て、13年から現職。専門分野は医用生体工学、高齢者福祉工学。特に身体機能計測を用いた高齢者の転倒予防指導やメディカルフットケアおよび子どもの身体発達支援、リハビリテーション支援の技術開発など。日本生体医工学会、日本生活支援工学会、日本医療機器学会などに所属。

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