地域によって異なる『地域包括ケアシステム』-都会の仕組みは?

地域の特性に応じた「地域包括ケアシステム」が求められる

支援が必要な人の早期発見、在宅医療の推進など、さまざまな取り組みが始まっている

地域住民と専門家がつながり、高齢者を支え合う町づくりが求められている

 たとえ介護が必要になったとしても、住み慣れた地域で自分らしい暮らしを続けたい。その願いを実現するために、医療・介護・予防・住まい・生活支援が一体的に提供される「地域包括ケアシステム」が動き出しています。(『高齢者の暮らしを支える「地域包括ケアシステム」』参照)

 地域の特性に応じて、「地域包括ケアシステム」の取り組みも異なってきます。急速に高齢化が進み隣近所の助け合いが得られにくい大都市、サービス量や情報、交通手段が少なく孤立しやすい過疎地域など、地域の特性はさまざまです。高齢者にとって必要な住まい、医療、介護、生活支援サービス、介護予防も、包括する方法もそれぞれでしょう。
 しかしいずれの地域でも、地域住民と地域で働く医療、保健、福祉等さまざまな担い手が広くつながり、高齢者を支え合うシステム作り、町づくりが求められています。ここでは、急激な高齢化への対応が急務となっている都市における取り組みについて2例ご紹介しましょう。

都市型地域包括ケアシステムの取り組み例

■多様な社会資源が手を結び、支援が必要な人を早期に発見する「ふれあいサロン」
「おおた高齢者見守りネットワーク みま〜も」東京都大田区


 東京都大田区は人口約70万人。区内に20カ所ある「地域包括支援センター」への相談件数は年々増し、1カ月10,000件もの相談に応じています。
 大田区では、地域包括ケアシステム構築に向けて、高齢者の活動の場、および交流の場を創り広げることを目的として、「ふれあいサロン」の整備事業を推進し、地域が主体となって取り組む活動を支援しています。

 その一つ、「おおた高齢者見守りネットワーク」では、地域の病院、介護保険事業所、一般企業などが協賛金と人材の提供を行いながら、次の3つの活動を行って地域のネットワークを広げ、支援が必要な高齢者の早期発見につなげています。

(1)地域づくりセミナー
 だれでも参加できる話し合い形式の市民講座を開催。テーマはさまざま、講師は「ネットワーク」に参加する病院や警察、消防、地域密着企業の職員などが務める。
 地域の馴染みの百貨店で開催することで、地域包括支援センターには縁のない元気な高齢者とセンターや地域を支えてくれる人材との顔の見える関係づくりがスムーズにできている。

(2)大田区高齢者見守りキーホルダー
 外出先で倒れたときなどに本人確認が迅速に行えるように、希望者は個人番号の入ったキーホルダーを携行する。名前や住所、かかりつけ医療機関、服薬や認知症の有無などの個人情報を登録し、いざというとき関係機関にこの情報を提供する仕組み。「ネットワーク」の活動が大田区の事業へと広がり、名称も「SOSみま~もキーホルダー」から変更された。
 地域に暮らす65歳以上のすべての人が対象。不安を抱えながらも地域包括支援センターには行ったことのない高齢者が登録のためにセンターを訪れ、支援が必要な人に早い段階からつなげることができている。

(3)みま〜もステーション
 商店街と協働し、空き店舗を拠点に高齢者が役割を持って活動できるサロン事業を展開。ミニ講座や祭り、公園の花壇の手入れなどを行う。「みま〜もサポーター」として年会費を支払い、応援者としても活動する高齢者も多い。

 このような活動によって、高齢者が元気なうちから地域とつながり、地域包括支援センターや専門家などとつながることで、見守り、異変に気づき、支え合うネットワークができあがっています。住民参加型の明るい地域包括の取り組みといえるでしょう。

■在宅医療・多職種連携の推進と「地域ケア会議」の開催
「柏市豊四季台地域高齢社会総合研究会」千葉県柏市豊四季台


 千葉県柏市は人口約40万人の都市。2009年に柏市、東京大学高齢社会総合研究機構、UR都市機構の産官学による「柏市豊四季台(とよしきだい)地域高齢社会総合研究会」が発足し、高齢社会の安心で豊かな暮らし方・まちのあり方を議論、実践しています。

 なかでも注目されているのは、在宅医療の体制整備を中心とした取り組み。地域包括ケアシステムには、自宅で医療を受けられる在宅医療の充実が必須です。柏市では医師会と市(介護保険者)が中心となって医療・介護などの多職種団体が連携し、在宅医療を推進しています。

【在宅医療推進の取り組み】
●かかりつけ医のグループ形成によるバックアップシステムの構築
 在宅医療従事者の負担を軽減するため、多くの診療所が少しずつ支えることで多くの患者を支える(主治医、副主治医制)
●在宅医療を行う医師等の増加、および多職種連携の推進(在宅医療多職種連携研修の実施)
●情報共有システムの構築
 タブレット端末、パソコン等により、関係職種がリアルタイムで情報を共有できる
●市民への啓発・相談・支援(市民説明会、意見交換会、在宅ケア市民集会などの開催)
●上記を実施できる中核拠点(地域医療拠点)の設置

 また、在宅で暮らし続けるうえでサービス担当者だけでは課題解決が困難な事例については「地域ケア会議」を開催し、地域住民、医療・介護の専門家やインフォーマルサービスの担い手が集まり検討することにより、それぞれのサービスを有機的に結びつけ、課題を解決しています。

 豊四季台団地(4666戸)の中心部には医療・看護・介護サービスをトータルに提供する複合施設やサービス付き高齢者向け住宅が整備され、24時間対応の地域包括ケアシステムを推進する最新のモデルとして全国から注目を集めています。
【参考】厚生労働省「地域包括ケアシステム構築へ向けた取組事例~千葉県柏市の取組~」http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/chiiki-houkatsu/dl/model04.pdf

 専門家が介護保険制度の枠組みの中で個別のケースに対応するだけでは、高齢者が安心して暮らすことはできません。住民、医療・介護など多職種が連携して対応できる体制を広げることで、高齢者が点ではなく面で支えられ、住み慣れた町の中で安心して暮らすことができるのです。

みなさんの町の「地域包括ケアシステム」は?

 今回ご紹介した事例以外にも、定期巡回サービスの導入や介護予防に重点をおいた埼玉県和光市、地域認知症ケアコミュニティを推進する福岡県大牟田市など、地域の問題を把握したさまざまな先進的事例があります。
 みなさんのお住まいの地域では、どのような地域包括ケアが生まれているでしょうか。

 私も自分の故郷の状況を調べてみました。静岡市由比蒲原圏域では地域包括支援センターや民生委員、地区商工会などが中心となって、見守りの意識を高める取り組みを行っています。地域の移動青果店や小売店が高齢者の異変に気づいたときに、民生委員や地域包括支援センターにつないでいます。

 厚生労働省は『事例を通じて、我がまちの地域包括ケアを考えよう「地域包括ケアシステム」事例集成〜できること探しの素材集』(http://www.kaigokensaku.jp/chiiki-houkatsu/)を公開しています。高齢化率や人口規模からも事例を探すことができ、それぞれに特色があります。ぜひご参考になさってみてください。

(編集・制作 (株)法研)

【執筆】
川上 由里子先生


ケアコンサルタント
ケアマネジャー、看護師、産業カウンセラー、福祉住環境コーディネーター2級。1984年より13年、大学病院、高齢者住宅などで看護師として勤め、三井不動産(株)ケアデザインプラザの立ち上げに参画。現在はUR都市機構ウェルフェア研究室室長や各企業の高齢者、介護関連のアドバイザーとしても活躍し、シニアライフに関するコンサルティングの他、講演、執筆多数。高齢者支援のみならず、支える人を支えるメッセージを各方面に発信。希望は心と心を結ぶケアを広げていくこと。著書に『介護生活これで安心』(小学館)。2008年より6年間、自身も父親の遠距離介護を体験する。在宅での最期を看取り、多くの学び、想いを得る。

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