ピロリ菌の除菌治療を効果的に行うために

胃に棲みつくピロリ菌が胃・十二指腸潰瘍、胃がんの原因に

日本人の半数が感染。抗菌薬に耐性を持つピロリ菌が増加。乳酸菌の併用で耐性ピロリ菌の除菌率が向上
(2010年10月26日)

「ピロリ菌感染症」すべてについて除菌することが望ましい

 ヘリコバクター・ピロリ(以下、ピロリ菌)は、長年にわたってヒトの胃に棲みつく細菌で、胃粘膜に炎症を起こし、慢性胃炎、胃・十二指腸潰瘍、胃がんの原因になることがわかっています。
 感染率は先進国で低く、発展途上国で高い傾向にありますが、日本は例外的に高く、国民の半数が感染しているといわれ、とくに50歳代以上の年代では70~80%の人が感染していると推測されています。ピロリ菌の感染のほとんどは小児期に起こるとされ、小児期に上下水道の整備が十分でなく衛生環境が悪かったことが、50歳代以上の高い感染率の原因とみられています。

 ピロリ菌は抗菌薬を服用することで除菌することができます。ピロリ菌除菌の保険適用は、2000年に胃潰瘍、十二指腸潰瘍に対して認められ、2010年6月には、胃マルトリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、早期胃がんの内視鏡治療後の再発予防、などが追加されました。
 保険適用の拡大に先立つ2009年1月、ヘリコバクター学会は、ピロリ菌除菌についての診療ガイドラインの第3回改訂を行いました。この改訂では、ピロリ菌の感染によって引き起こされる病気が胃粘膜の病気だけではない(ITP、鉄欠乏性貧血など)ことから、「ピロリ菌感染症」という概念を取り入れ、これを全身に対する感染症と捉えました。また、「ピロリ菌感染症」すべてについて、「除菌を行うよう強くすすめられる」としています。

 今後は、胃・十二指腸潰瘍や胃がんへと進行する可能性があって最も患者数が多い「慢性胃炎」の、ピロリ菌除菌の保険適用が課題になるでしょう。東海大学医学部の高木 敦司教授はこの点について「一次予防効果のデータに乏しいため、慢性胃炎の保険適用は難しいとされますが、日本で慢性胃炎の人に除菌した場合、胃がんの治療に使われている医療費2000億円が700億円に減ると推測されます。ちなみにヨーロッパでは、<胃がんの家族歴>があれば、<慢性胃炎をピロリ菌除菌対象に推奨>としています」と言います。

ピロリ菌の除菌治療は3種類の薬を1週間服用する

 ところで、胃の中は強酸性の胃酸が分泌されるため酸性度が非常に高く、「細菌は棲息できない」のが長い間常識とされてきました。このことが、ピロリ菌の発見が遅れた原因にもなっています。ピロリ菌は、胃粘膜の中の尿素からアルカリ性のアンモニアを作り、胃酸を中和して自分の身を守っているのです。ピロリ菌の有無を調べる検査のうち、迅速ウレアーゼ試験や尿素呼気試験は、ピロリ菌がもつ尿素分解酵素(ウレアーゼ)を利用したものです。

 ピロリ菌の感染が確認され、ピロリ菌を排除する場合は、除菌治療を行います。除菌治療では、以下の3種類の薬を1日2回、1週間続けて服用します(1次除菌)。
・胃酸の分泌を抑えるプロトンポンプ阻害薬
・ペニシリン系抗菌薬のアモキシシリン
・マクロライド系抗菌薬のクラリスロマイシン

 除菌中は1~3割の人に軟便、下痢、味覚障害などの副作用が現れますが、たいていは一時的な症状です。1次除菌から1カ月以上経過してから、除菌が成功したかどうかを判定する検査(主に尿素呼気試験)が行われます。除菌できなかった場合は、抗菌薬の1種類を別の薬に替えて2次除菌を行い、それでも除菌できなかった場合は、3次除菌が検討されます。

1次除菌に乳酸菌をプラスすると、耐性ピロリ菌の除菌率が高まる

 1次除菌の成功率は、2000年の80~90%から、最近では70%に低下しています。除菌に失敗した10%は、副作用が出たり薬の服用が指示どおりに行われなかったことなどが原因。残り20%は、クラリスロマイシン(CAM)に耐性を持つピロリ菌が増加したためと考えられています。前者の理由で失敗した場合、その人のピロリ菌はCAMに耐性を獲得することが多いため、薬の服用は指示どおり行うことが大切です。

 この除菌率の低下を食い止めるために、さまざまな研究が行われています。高木教授らの研究では、除菌前にヨーグルトを食べることで耐性ピロリ菌の除菌率が高まることが確かめられました。

 高木教授らは、除菌を実施する患者を無作為に2群に分け、一方の群では3剤による1次除菌を行い、もう一方の群では、ピロリ菌の活性を抑える効果をもつLG21乳酸菌(ラクトバシラス属乳酸菌の一種)を1次除菌に併用して摂取しました。乳酸菌併用群では、除菌前の3週間と除菌中の1週間の計4週間、LG21乳酸菌を入れたヨーグルト120gを1日2回摂取しました。

 その結果、全体では乳酸菌併用群でピロリ菌除菌率がやや高い傾向がありましたが、有意差はありませんでした。次にCAM耐性菌のみで比較したところ、乳酸菌併用群の除菌率が有意に高かったのです。さらに、乳酸菌併用群では、除菌中にみられる軟便や下痢といった症状が減少することもわかりました。

 2次除菌、3次除菌と抗菌薬を使用することは、副作用や耐性菌の増加につながることが懸念されます。安心して食べられるヨーグルトのような食品を1次除菌に併用することで、2次除菌を受ける人を減らし、抗菌薬の使用が抑えられることが期待されます。

(編集・制作 (株)法研)
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【取材協力】
高木 敦司先生

東海大学医学部内科学系総合内科学教授
1978年大阪医科大学医学部卒業後、1980年京都大学大学院医学研究科にて消化性潰瘍の研究に従事。1993年東海大学医学部内科講師を経て、2002年より現職。日本内科学会評議員、日本消化器病学会評議員、日本ヘリコバクター学会評議員など、多数の学会の要職兼務。主な著書に『消化性潰瘍診療ガイドライン』(共著)など。

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