再建医療とスーパーマイクロサージャリー 手指や乳房の再建術とは

顕微鏡をのぞきながら、極細の血管や神経をつなぐ超微小外科

失った体の部位を復元し、感覚や機能の復活も可能にする手術テクニック。QOLの改善で失った笑顔も復活

直径0.3~0.5mm前後の超微小の血管や神経をつなぐワザ

 形成外科の領域では、病気治療の結果やけが、あるいは生まれながらにして、欠損した部位を復元・修復することを目的に、さまざまな技術が開発され、再建医療が実践されています。マイクロサージャリー(微小外科)の技術の進歩で、現在では、より安全で患者さんの満足度もさらに高い再建医療が可能になっています。
 マイクロサージャリーとは、顕微鏡を見ながら直径1.5~3.0mm前後の血管あるいは神経をつなぐ技術で、技術レベルは日本が世界のトップであり、新しい手術法を欧米に輸出し続けています。
 最近ではさらに、直径0.3~0.5mm前後の超微小の血管や神経をつなぐ技術が進み、スーパーマイクロサージャリー(超微小外科)にレベルアップしています。

 スーパーマイクロサージャリーは、高度な手技を必要とする技術ですが、「この技術を使えば、末梢の血管にも血液が行きわたるので、比較的大きな皮膚や骨、筋肉、脂肪などを、体のある部位から別の部位に移植した際にも、組織の壊死(えし)を高確率で回避することができます。また、細い神経をつなぐことができるので、感覚の麻痺を防ぐことや、すでに麻痺した感覚を取り戻すことも可能です」というのは、スーパーマイクロサージャリーの第一人者である光嶋勲・東京大学医学部教授です。

スーパーマイクロサージャリーは、応用ケースが広範囲

 再建医療が行われ出したのは1970年代。切断された手足の指をつなぐ手術が出発点でした。現在では、本人の足の指を手の指に移植したり、足指の爪を生きたままで手指の爪の欠損部に移植することも可能になりました。

 マイクロサージャリー、そしてスーパーマイクロサージャリーの登場で、再建医療の応用の幅は、大きく広がっています。
 ここでは、スーパーマイクロサージャリーが活用されている例をご紹介しましょう。

●指末節完全切断後の再接着
 事故などにより指先を切断してしまった場合、切断された指先を元の指に接着する技術です。切断後、早急に形成外科で治療を受ける必要があります。切断された指先は冷凍せずに、4度Cくらいで保存し、形成外科に持参することが大切です。光嶋教授の実績では、72時間(3日間)冷蔵保存された指先の再接着に、成功した例があるといいます。
 スーパーマイクロサージャリーでは超微小血管をつなぐことで、接着後の組織の壊死を防ぐ成功率が高いうえ、細い神経をつなぐことで、指先の感覚や運動機能を取り戻すことも可能になります。

●乳房切除術後の乳房再建術
 乳がんで乳房切除術を受けて乳房を失った場合に、乳房を作る技術です。乳房再建術は、シリコンなどの人工物を挿入する方法と、本人の組織(皮弁)を用いる方法に大別されます。皮弁法では、腹直筋皮弁(下腹部の筋肉、脂肪組織、皮膚)を利用する方法、広背筋皮弁(背中の筋肉、脂肪組織、皮膚)を利用する方法などがあります。
 従来の腹直筋皮弁を利用する方法は、「有茎腹直筋皮弁法」といい、「腹直筋」と「脂肪組織」と「皮膚」を一緒に切り取り、腹壁の下をくぐらせて胸部に移植する方法です。腹直筋の上端は胸部につなげたままなので、血流を確保することができます。ただし、移植した組織の一部で血流が悪くなったり、2本ある腹直筋の1本を犠牲にせざるをえないという課題があります。

 スーパーマイクロサージャリーでは、下腹部の「脂肪組織」と「深下腹壁動脈と伴走静脈」と「皮膚」を一緒に切り取り、胸部に移植する「深下腹壁穿通枝皮弁法」を可能にします。細い血管同士を吻合する(深下腹壁動脈と伴走静脈を、胸動脈や皮静脈につなぐ)ことで、筋肉を付けなくても十分な血流が得られ、かつ、筋肉を犠牲にする必要がないので、患者さんにとっては心身の負担が少ない手術といえます。

●前腕皮弁による陰茎再建および虫垂移植による尿道再建法
 たとえば陰茎がんで、陰茎の切除術によって陰茎を失った場合や、大量の放射線を浴びて陰茎の機能を失った場合に、陰茎の形と機能を取り戻すための技術です。
 前腕の筋肉と皮膚に、「前腕橈骨(とうこつ)」、「橈骨動脈と伴走静脈」、「外側前腕皮神経と前腕皮静脈」をつけて切り取り、陰茎を作ります。また、切り取った虫垂を使って尿道を作ることで、復元した陰茎から排尿もできます。
 神経をつないだ感覚のある陰茎なので、マスターベーションも性交も可能で、精巣や前立腺の機能が十分であれば、パートナー(女性)との間で、子どもを授かることも可能です。
 この技術の応用として、性同一性障害に対し、両側鼠径部皮弁(太もも内側の筋肉、皮膚、血管、神経)と盲腸を用いた陰茎と尿道の形成術も行われています。

●リンパ浮腫の完治を目指すリンパ管細静脈吻合術
 乳がんや婦人科がん(子宮がんや卵巣がん)などの手術で、関連のリンパ節を切除(リンパ郭清)することがあります。この結果、乳がんの場合は腕、婦人科がんの場合は脚にむくみが生じることがあり、これを「リンパ浮腫(ふしゅ)」といいます。
 いったんリンパ浮腫が起こると、元どおりのサイズに戻ることは難しく、治療は圧迫療法やリンパドレナージと呼ばれる医療マッサージを続けることで、むくみを改善することが中心となります。
 リンパ浮腫の完治を目指し、これまでいろいろな手術法が開発されてきましたが、再発や悪化という課題も残りました。そこで開発されたのが、スーパーマイクロサージャリーによる「リンパ管細静脈吻合術」です。顕微鏡をのぞきながら、直径0.5~0.8mmの超微小なリンパ管と同サイズの血管(静脈)との吻合手術を行うことから、「顕微鏡下リンパ管細静脈吻合術」といいます。

体を取り戻し、感覚を取り戻し、笑顔を取り戻す医療

 前述の例のほかにも、顔面麻痺になった人に、背中の筋肉を神経と血管を付けたまま顔に移植し、無表情だった顔が動くようになったケースもあります。
 鼻や口蓋のがんなどで顔面を大きく切除せざるを得なかった人に、下腹部の「脂肪組織」と「深下腹壁動脈と伴走静脈」と「皮膚」を使って顔面再建を行い、顔を取り戻し、自分の思いどおりに顔を動かせるようになったケースもあります。
 舌がんで舌を切除した人に、腕の筋肉を使って舌を作ったり、脚の骨を使って、欠損の大きいあごや手足の骨を復元したり……と、例を挙げきれないほど、さまざまなケースにスーパーマイクロサージャリーは、力を発揮しています。
 また、スーパーマイクロサージャリーが活用されるケースが多岐にわたるため、形成外科だけで手術にあたるのではなく、脳外科、耳鼻咽喉科、口腔外科、消化器外科、整形外科、泌尿器科、産婦人科、皮膚科など、ほかの診療科と合同で手術にあたる、新しい医療形態も始まっています。

 再建医療の技術は、日進月歩。現在では、これまで不可能とされていた欠損部の大きな治療、あるいは脊髄損傷などによる神経麻痺の患者さんの治療も可能となりつつあります。さらに欧米では、免疫抑制薬の発達によって、腕、喉頭、顔面、腹壁、乳房の移植などの場合に、亡くなった人や親族からの身体パーツの移植が行われています。

 「再建医療の使命は、欠損部位の形を復元することに加え、神経をつなぐことで感覚や運動機能を取り戻すこと、そして患者さんの笑顔を取り戻すことだと考えています。体のどこかの部位が欠損した人の、心のダメージは計り知れません。再建医療により、患者さんのQOLが回復し、笑顔の回復もかなったとき、私たち医療者も一緒に喜び合えるのです」という、光嶋教授の言葉が印象的でした。

(編集・制作 (株)法研)

【取材協力】
光嶋 勲(こうしま いさお)先生


東京大学医学部形成外科・美容外科教授
東京大学医学部附属病院副院長
1976年鳥取大学医学部卒業後、東京大学医学部形成外科、筑波大学臨床医学系形成外科講師などを経て、90年川崎医科大学形成外科助教授。96年ハーバード大学留学。2000年岡山大学医学部附属病院形成外科教授、04年に現職(教授)、10年に副院長就任。09年国立シンガポール大学教授。日本形成外科学会評議員、日本リンパ学会理事、日本手外科学会理事、世界微小外科学会組織委員ほか要職多数。国際穿通枝皮弁ライブ手術講習会設立者(委員)として、海外でのライブ手術件数は1997年から約30件。主な著書に『エキスパート形成再建外科手術』『私の常用する新形成再建外科手術』など。

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