子どものアトピー性皮膚炎を予防-早期ケアと皮膚バリア機能を高めよう

アトピー性皮膚炎の原因は皮膚のバリア機能不全

皮膚のバリア機能が低下した結果、アレルゲンが皮膚内に容易に侵入し、アレルギー反応が起こりやすい

アトピー性皮膚炎はフィラグリン遺伝子の異常が原因だった?

 子どもの皮膚病の大半を占めるといわれるアトピー性皮膚炎は、皮膚の乾燥とかゆみを伴う湿疹を特徴とする病気です。ほとんどは乳幼児期に発症し、よくなったり悪くなったりをくり返しながら、成長とともに自然に治っていきます。しかし最近では、大人になっても治らず重症化したり、いったん治っても大人になって再発するケースも増えています。

 東京慈恵会医科大学皮膚科の上出良一教授は「アトピー性皮膚炎の患者さんの多くは“アトピー素因”と呼ばれるアレルギー体質を持っています。このことから、かつては“アレルギー体質”であることがアトピー性皮膚炎の最大の要因と考えられていました。しかし近年は、さまざまな研究によってそれを覆すような事実が発見されています。また最近、フィラグリン遺伝子がアトピー性皮膚炎の発症に関与しているという新しい事実が明らかになりました」と話します。

 尋常性魚鱗癬(じんじょうせいぎょりんせん)という、全身の皮膚が乾燥して皮膚の表面が厚くなり、魚のうろこのように見える病気があります。この病気では約半数にアトピー性皮膚炎の合併がみられ、アトピー性皮膚炎にもまたこの病気の合併がみられます。尋常性魚鱗癬の原因がフィラグリン遺伝子の異常にあることが発見されたことから研究が進み、アトピー性皮膚炎患者もまた、欧米で約50%、日本で30%近くがこの遺伝子異常を持つことが明らかになったのです。
 フィラグリンは、皮膚の水分を保持する天然保湿因子(NMF)の元となる物質です。この遺伝子に異常があることで、アトピー性皮膚炎を発症しやすくなるというのです。

皮膚は外部環境から体を守り、生体の恒常性を保つ「臓器」

 上出教授は、「皮膚というのはただの薄い1枚の皮ではなく、体の最も外側にあって外部環境から体を守り、生体の恒常性を保つ重要な役割を持つ“臓器”です。そして皮膚にはそのための構造と非常に繊細な機能が備わっています」と話します。
 健康な皮膚には、外からは刺激や異物が入ってこないように、そして体内からは水分が抜けていかないようにして体を守る「バリア機能」があります。皮膚は外側から表皮、真皮、皮下脂肪組織の3層に分かれており、表皮の外側部分は角層(角質層)と呼ばれる組織で、皮脂膜でおおわれています。健康な角層では角層細胞がきれいに積み重なり、天然保湿因子(NMF)や角層細胞間脂質(セラミド、コレステロール、脂肪酸からなる)が角層の水分保持力を担っています。

皮膚のバリア不全によってアレルゲンが容易に侵入、アレルギー反応が起こる

 天然保湿因子(NMF)の元となるフィラグリンの遺伝子に異常があると、NMFの量が減って水分保持力が損なわれ、肌のバリア機能が低下してしまいます。そうすると水分が失われて皮膚が乾燥し、外部から刺激物質(病原菌、化学物質など)やアレルゲン(花粉、かび、ダニ由来の物質など)が皮膚を通して体内に侵入し、アレルギー反応が起こりやすくなります。
 つまり、皮膚のバリア機能が壊れた結果、アレルゲンや異物が皮膚内に容易に侵入してアレルギー反応が起こり、アトピー性皮膚炎の症状が起こっているのです。

 フィラグリン遺伝子に異常があると、次のようなことが起こりやすいことがわかっています
・2歳未満の乳幼児期にアトピー性皮膚炎を発症しやすく、成人になるまで持続しやすい
・アレルギーマーチ(アトピー性皮膚炎から気管支ぜんそくやアレルギー性鼻炎を次々に発症すること)になりやすい
・単純ヘルペス、とびひなどの感染症を起こしやすい
など

皮膚のバリア機能を高めるスキンケアが大事

 これに対して上出教授は、「早期からのスキンケアで肌をすべすべにして皮膚のバリア機能を整え、アトピー悪化原因の侵入を防ぐことで、アトピー性皮膚炎やそれにつながるアレルギーマーチを予防できる可能性があると考えます。それには、赤ちゃんのときからしっかりしたスキンケアと治療を行うことが大切です」と話しました。

 アトピー性皮膚炎の治療では外用薬(塗り薬)が第一選択となります。そのうちステロイド薬に対しては、かつての報道などによって「ステロイドは怖い」というイメージが植えつけられてしまい、いまだに抵抗感を持つ患者さんが少なくありません。
 上出教授は、「それは医師が患者さんにステロイドの性質や使い方について詳しい説明をしてこなかったことにも原因があります。また、外用薬の効果が上がらないので薬の塗り方を尋ねると、患者さんが必要な量を必要な期間塗っていなかったということもあり、外用薬の使い方について“何を、どこで、どのように、どのくらい、いつまで”というように、詳しい指示を行うことが大切です」といいます。

 また、アトピー性皮膚炎は症状が落ち着いているときに、スキンケアでその状態を保つことが大変重要です。皮膚をよい状態に保つには、清潔と保湿をこころがけたスキンケアを行ってバリア機能を正常に保つこと。外用薬が処方されていれば、それに重ねて保湿クリームを塗り、外用薬を塗る指示がないときも保湿クリームを塗り続けることが大切です。クリームは医薬品でも市販品でもよいので、自分に合ったものを使います。

 しかし、このようなノウハウを伝えるには、外来の診療では空間的・時間的に制約があるため、テクニック指導には限界があります。そこで、東京慈恵会医科大学皮膚科では本院と第三病院で交互に月1回の「アトピーカフェ」を開催し、患者さんと話し合いながら必要な情報や最新情報を伝えています。

 上出教授がアドバイザーを務める敏感肌研究所の調査によると、自分を「敏感肌」と感じる人が増えています。自分が「敏感肌」かどうかというのはきわめて主観的な問題になりますが、敏感肌の特徴は、肌あれや感覚過敏、バリア機能低下、皮膚の炎症を起こしやすいといった状態です。肌の状態に「健康」と「病気」の2極があるとすれば、「敏感肌」は、東洋医学でいう「未病」(健康状態の範囲だが病気に近い状態)といえるでしょう。
 「未病」から「病気」に移行させないためには「予防的スキンケア」を行うことが大切です。上出教授は、「予防的スキンケアとは、まず未病の状態を認識すること。それには日々の観察で変化をとらえ、その裏にある要因を考え、対処することが必要です」と、肌が悪くなってからでなく予め対処すること、普段から皮膚バリアを正常に保つことが重要であることを強調しました。

(編集・制作 (株)法研)

【取材協力】
上出 良一先生


東京慈恵会医科大学皮膚科学講座教授
同大学附属第三病院皮膚科診療部長
1973年東京慈恵会医科大学卒。81年より2年間ニューヨーク大学メディカルセンターならびにカリフォルニア大学サンディエゴ校メディカルセンター皮膚科研究員として光線過敏症の研究に従事。2005年東京慈恵会医科大学皮膚科学講座教授。07年より現職。専門分野は光皮膚科学、特に光線過敏症、アトピー性皮膚炎(アトピーカフェ主宰)、心身医学、褥瘡・スキンケア。学会活動は日本皮膚科学会(代議員)、日本研究皮膚科学会(評議員)、日本光医学・光生物学会(理事)、太陽紫外線防御研究委員会(理事)、光皮膚科学研究会(代表世話人)、日本褥瘡学会(常任理事)など。

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