子宮頸がんの予防に向けた世界の動き-日本の受診率は欧米より低い

HPVワクチン接種とHPV‐DNA検査併用検診の第2段階

世界最大級の国際会議「EUROGIN 2012」&「2012 WACC FORUM」レポート

11月は「子宮頸がん征圧月間」。子宮頸がんは、ほぼ100%予防可能

 11月は「子宮頸がん征圧月間」にあたり、子宮頸がんの予防啓発の普及に向けたイベントが全国各地で開催されます。子宮頸がんは、HPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチンの接種と定期的な子宮頸がん検診によって、ほぼ100%予防が可能です。

 日本での子宮頸がん検診受診率は20~30%と低く、自治体では5歳刻みの節目年齢の女性に対する検診無料クーポンの配布をはじめ、さまざまな対策に取り組み、受診率はやや向上していますが、国の目標である50%にはまだまだ及びません。
 そんな中、厚生労働省は今年9月に開催された「がん検診のあり方に関する検討会」において、2013年度から子宮頸がん検診に、従来の細胞診に加え、HPV‐DNA検査を導入する方向で、運営方法などに関して今後検討していく方針を示しました。

 対策は一歩前進したものの、先進諸国の中では出遅れぎみの日本。先を歩いている国々はどのような対策を進めているのか。その内容をうかがい知ることができる、子宮頸がん予防に関する世界最大級の国際会議「EUROGIN 2012」および「2012 WACC FORUM」が、この夏、チェコ共和国の首都・プラハで開催されました。

「EUROGIN」は、子宮頸がんを公衆衛生の観点からとらえ予防重視に

 EUROGIN(ユーロジン:European Research Organization on Genital Infection and Neoplasia:性感染と腫瘍形成についてのヨーロッパ研究機構)は、HPV、子宮頸がんとHPV関連疾患、子宮頸がん検診、子宮頸がん予防ワクチン、子宮頸がん予防政策などについての研究成果を発表し、ディスカッションする国際会議です。
 毎年ヨーロッパのいずれかの国で開催され、世界各国から産婦人科・皮膚科などの臨床医、疫学・腫瘍学・病理学・感染学などの研究者のほか、政策関係者、民間の啓発団体関係者なども含め、子宮頸がんやHPV関連疾患に関心の高い専門家を中心に、多方面の人々が集まります。
 「EUROGIN 」の大きな目標は、子宮頸がんを公衆衛生の観点からとらえ、従来、治療重視であった子宮頸がんおよびHPV関連疾患について、予防重視に変えていくこととしています。したがって研究発表は、HPVワクチンや子宮頸がん検診に関するテーマが多くを占めます。

 個別インタビューに応えてくれた「EUROGIN 2012」の大会実行メンバーの一人、フランシスコ・ザビエル・ボッシュ氏(スペイン)は、子宮頸がんとHPV関連疾患の予防を重視した「EUROGIN」開催の趣旨を述べ、「細胞診とHPV-DNA検査の併用検診が、より多くの国で導入されることを期待します。併用検診の効果により、人口全体の中でがん患者の割合を減らすほどの効果を上げるには、人口の70~75%の人が検診を受けることが必要です。そのためには、教育や啓発が大切で、国をあげて取り組まなければなりません」と強調しました。

細胞診とHPV‐DNA検査の併用検診は、がんになる前の変化も発見できる

 子宮頸がん検診の受診率は、日本では20~30%とまだ低いのに比べ、欧米では70~80%の国も少なくありません。高受診率の国々が子宮頸がん検診において目指すものは、もちろん子宮頸がんの「早期発見」ではなく、「前がん病変(がんになる前の変化)の発見」です。
 細胞診とHPV‐DNA検査の併用検診によって、前がん病変の検出感度が高くなることは、これまで複数の臨床研究などから報告されおり、欧米では多くの国が、子宮頸がん検診にすでに「細胞診とHPV‐DNA検査との併用検診」を採用しています。研究発表も導入後における効率性の評価や、新しい検査機器の評価に関する内容が多く見られました。
 HPV-DNA検査は、100種類以上のタイプがあるHPVの中から、子宮頸がんの原因となる「HPVハイリスク型」を検出するもので、「ハイブリッドキャプチャー2:HC2」と呼ばれる検査法に対する比較試験などの発表が中心でした。また、検査時に痛みの伴うコルポスコピー(腟拡大鏡)の使用回数をいかにして効率的に減らすことができるかの臨床試験結果を踏まえた提案なども行われました。
 併用検診では、「異常なし」についても高感度で判定できます。細胞診・HPV-DNA検査ともに陰性であれば、検診間隔を3~5年に広げることができると考えられ、検診の費用対効果においても併用検診は有用とされます。

HPVワクチン接種は、次なるステップへ

 「EUROGIN」だけでなく、「女性の健康」に力を入れているWHOでも、子宮頸がんとHPV関連疾患について、世界的な視野における公衆衛生学的課題ととらえ、HPVワクチンの接種を推奨しています。
 現在、HPVワクチンは、子宮頸がんに最も関係が強い16型と18型に対する2価ワクチンと、これにコンジローマ(イボができる性感染症)の原因となる6型と11型に対する効果を加えた4価ワクチンの2種類があります。
 どちらのワクチンも、予防効果の持続年数は更新中であるため未知数ですが、20年以上と推計されています。

 感染予防が目的であるHPVワクチンは、性交を経験する前にワクチンを接種するほうがより効果的です。そのため多くの国では、主に思春期の女子を対象に公費助成による接種を推進しています。欧米での思春期女子へのHPVワクチン接種率は、それぞれの国の取り組みによって差が出ていますが、例えばイギリスでは80~90%です。

 日本でも、おおむね中学校1年生から高校1年生の女子を対象(対象年齢は、自治体によって異なる)に、公費助成(国と自治体の全額費用負担)によるHPVワクチン接種が推進されており、その接種率は70%前後とされ、世界と肩を並べる接種率となってきました。自治体によっては、さらに積極的な接種推進活動が功を奏し、接種率が90%以上のところも増えてきました。
 HPVワクチンのセッションでは、自治医科大学附属さいたま医療センター産婦人科教授で子宮頸がん征圧をめざす専門家会議実行委員長でもある今野良氏が、日本の20~25歳女性に対するHPVワクチン接種の効果に関する研究を発表しました。
 この結果、HPV感染既往歴のないグループでは、ワクチンのターゲットとなるHPV16および18型による感染および病変の発生を100%予防しました。HPV感染既往歴のある女性を含めても、77%の予防効果が示されました。さらに、HPV感染既往歴のないグループでは、現行の中学生女子と同様に、HPV型にかかわらず高度異形成や上皮内がんの発生を100%予防することができました。

一般の人々への啓発促進に取り組む国際会議「WACC FORUM」

 「EUROGIN 2012」の会場では、「2012 WACC FORUM」が同時開催されました。WACC(Women Against Cervical Cancer)は、HPVと子宮頸部の疾患について、一般の人々への知識と意識を高めるための啓発を促進し、子宮頸がん予防を女性の健康政策の最優先事項とすることを目的とした国際会議です。
 世界各国から集まった参加者が、子宮頸がんの予防と前がん病変の早期発見のために、子宮頸がんやHPV感染に関する教育の必要性と普及方法、検診受診率やHPVワクチン接種率の向上に向けた、自国の取り組みの現状などを発表しました。

 例えば、2011年に国連で採択された「非感染性疾患(NCDs)に関する国連サミット宣言」の内容を発表したスイスのウルリッヒ氏は、がんに関しては乳がんや子宮頸がんの早期発見やスクリーニングを優先的に推進し、HPVワクチンなどの入手を可能にするために、高所得の国々から低・中所得国に対し、国際協力に努めることなどが記されていることを紹介しました。
 また、日本からは日本赤十字北海道看護大学准教授で、子宮頸がん征圧をめざす専門家会議委員でもあるシャロン・ハンリ氏から、「成人女性のHPVワクチンに対する認知と受容」と題しての発表もありました。
 ほかに、HPVワクチンの接種率の高い国では、医師、看護師、助産師、スクールナース(日本の養護教諭)、そして母親などが、いろいろな場面で、HPVワクチン接種のことや子宮頸がん検診のことを話題にしているという意見もありました。

 日本では1年間に約16,000人の女性が子宮頸がんにかかり、1年間で3,500人の女性が子宮頸がんで亡くなっていると推測されています(国立がん研究センターがん対策情報センターの「最新がん統計」)。予防できるがんで、がんになってはいけない、死んではいけないという思いを強くするとともに、子宮頸がん対策に取り組むには、患者や家族、医療関係者、企業、メディア、行政、議会議員、教育関係者が、いわゆる「七位一体」となって推進することがいかに重要かを、「EUROGIN 2012」および「WACC 2012 Forum」で再確認しました。

(編集・制作 (株)法研/取材:山下ちづる)


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【監修】
今野 良先生


自治医科大学附属さいたま医療センター 産婦人科教授
1959年生まれ。84年自治医科大学医学部卒業。96年東北大学医学部産婦人科講師、2002年自治医科大学附属大宮医療センター助教授、08年4月より現職。1988年から子宮頸がんとヒトパピローマウイルスの研究をはじめ、現在、子宮頸がんとHPV(検診、ワクチン、治療)に関する研究および啓発活動、さらに国内外の共同研究・著作に取り組む。日本婦人科がん検診学会会長ほか各種専門学会に所属。「子宮頸がん征圧をめざす専門家会議」実行委員長。

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