親知らずは抜いたほうがいいの?

問題が起こっているとき、起こる可能性が高いときは抜歯を

特に問題がなければ抜く必要はないが、生え方の異常で歯ブラシが届きにくく、さまざまな問題を起こしやすい

生える生えない、生え方、生える時期など、個人差が大きい親知らず

 大人になった頃、あごの一番奥に生えてくるいわゆる「親知らず」は、子どもの歯が生えてきたときのように喜ばれることもありません。反対に、「抜かなきゃいけないのか」と不安がられたり迷惑がられたりする始末。「腫れて痛い思いをした」とか「抜くのにひどく手こずった、1時間以上もかかった」などという声が聞こえてきますが、そもそも、親知らずとは抜かなければいけないものなのでしょうか?

 親知らずは、第3大臼歯(だいきゅうし)の俗称で、「智歯(ちし)」とも呼ばれます。前歯から第2大臼歯までの永久歯は、通常13歳くらいまでに生えそろいますが、親知らずはその後かなり間をあけて、多くは20歳前後に生えてきます。そこで、親に知られることがないとか、親は関知しないという意味で「親知らず」と名づけられたのだとか。

 親知らずの生え方には個人差が大きく、1本も生えてこない人もいれば、上下顎左右側に4本生えてくる人もいます。また、顎(あご)の骨の中に埋もれたままの人もいます。生えてくる時期も、おおむね17歳から30歳くらいまでと幅があります。

痛みや腫れ、う蝕(むし歯)など何らかの問題があれば抜歯が勧められる

 実は、親知らずでも抜かなくてもよいことはあります。たとえば、
●まっすぐに生えていて、歯磨きがきちんとできる
●顎(あご)の骨の中に完全に埋もれていて問題を起こしていない(図1、2)
●痛みや腫れ、う蝕(むし歯)などがない
●ほかの歯に悪い影響を及ぼしていない

 このような場合、抜歯の必要はなく、様子をみることになりますが、残念なことに全く問題がないというケースは少ないようです。

 現代人はあごが退化して小さい人が多く、最後に生えてくる親知らずに残されているスペースは十分ではありません。そのため、親知らずが、斜めや横向きに生えてきたり、歯の一部が歯肉(歯ぐき)に埋もれていたりしていることが多く、歯並びや噛かみ合わせに影響することがあります(図3)。
 また、親知らずは歯列の一番奥にあって歯ブラシが届きにくく、きれいに磨くことが難しいという問題があります。それに加え、上記のような生え方では手前の歯との間や歯と歯肉(歯ぐき)の間に食べかすがたまりやすく、清潔を保つことが難しいため、親知らずも、それと接している手前の歯も、う蝕(むし歯)や歯周病になりやすくなります(図2)。

 次のような場合は、抜歯が勧められることが多いでしょう。
●腫れや痛みがある
●斜めや横向きに生えている
●歯が歯肉(歯ぐき)に一部埋もれている
●親知らずまたは手前の歯がう蝕(むし歯)になっている
●歯肉(歯ぐき)に炎症が起こっている(図2 下顎左側親知らず)
●ほかの歯の歯並びや噛み合わせに影響している(図3) など

生え方によっては抜歯が大変なことも。親知らずが役立つ場合とは

 現在は特に問題がなくても、将来問題を起こす可能性が高い場合も、予防のため抜歯を勧められることがあります。特に妊娠中は歯のトラブルが起こりやすいため、妊娠前には親知らずを抜いておくよう勧められるかもしれません。

 親知らずの抜歯は、局所麻酔をして行います。抜歯にかかる時間は通常30分から1時間ほどですが、歯の生え方に問題がある場合は、歯肉(歯ぐき)の切開、歯や骨を削るといった処置が必要になる分、余計に時間がかかります。また、特に下顎(あご)の親知らずの場合、歯根が神経組織に接近または接触していて、抜歯の際に神経を傷めてしまうことがあります。
 上顎(あご)・下顎(あご)を問わず、親知らずの抜歯は、まずかかりつけの歯科医に相談し、かかりつけの歯科医での対応が難しい場合は、対応できる歯科大学の付属病院を紹介されることがあります。

 「やはり親知らずには出てきてほしくない」と思われたかも知れませんが、そんな親知らずが、ほかの歯の役に立つことがあります。
 一つは、手前の歯(第2大臼歯)が抜けてしまったときのブリッジの土台として。一番奥の歯が抜けてしまった場合、両隣の歯を土台にするブリッジはできませんが、その奥に親知らずが正常に生えていて、問題を起こさないと判断されるとき、親知らずをブリッジの土台として使用できる場合があります。また、矯正治療で、抜けた第2大臼歯のところに移動させて活用できる場合もあります(図4)。
 もう一つは、歯が抜けてしまった部分に自分のほかの歯を移植する「自家移植」という方法で、親知らずを移植できる場合があります。

 これらの方法が行えるのは、問題のない親知らずがある、歯が抜けた(抜けそう)、という二つが重なっているケースですので、当てはまる人は多くはないでしょう。でも、親知らずにもこんな利用方法があることを覚えておいたら、いつか役立つ日がくるかもしれません。

(編集・制作 (株)法研)

【監修】
稲垣 幸司先生


愛知学院大学短期大学部歯科衛生学科教授
同大学歯学部歯周病学講座准教授
1982年愛知学院大学歯学部卒業。86年同大学大学院歯学研究科修了(医学博士)。同大歯学部(歯周病学講座)講師などを経て、2000~01年ボストン大学歯学部健康政策・健康事業研究講座客員研究員。05年愛知学院大学歯学部助教授、07年4月より現職。日本歯周病学会専門医・指導医、日本禁煙学会専門医、日本歯科保存学会認定医。日本歯科衛生学会、アメリカ歯周病学会、国際歯周病学会、日本骨代謝学会、アメリカ骨代謝学会など国内外の所属学会多数。歯周病と全身疾患、特に骨粗しょう症や糖尿病との関係に関する研究、脱タバコ教育、禁煙支援、未成年等における包括的タバコ対策に関する研究などを行う。

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