生活に支障をきたす汗は「多汗症」かも-症状によっては保険も適用

重度のわきの多汗症の治療には、ボツリヌス療法が保険適用に

国民の7人に1人が多汗症と推測されるが治療を受けている人はわずか。治療は重症度に合わせ段階的に行う

7人に1人が汗で日常生活に支障を来している

 汗が気になる季節になりました。スポーツやサウナでかく汗は別として、普段は嫌われることの多い汗ですが、暑いときに発汗して体温の上昇を防ぐなど、体にとって大切な役割を果たしています。
 しかし、それほど暑くもないのに皮膚の表面がぬれてしまうほど大量の汗をかき、日常生活に支障をきたしているなら、それは多汗症という病気かもしれません。

 汗を出す「汗腺」には「エクリン腺」と「アポクリン腺」の2種類があり、多汗症に関係しているのは主にエクリン腺のほうです。エクリン腺は全身に分布し、その数は数百万個に上ります。しかし、エクリン腺のすべてが汗を出す機能をもつ汗腺(能動汗腺)ではなく、能動汗腺の数には個人差があります。汗の量は能動汗腺の数に影響され、多汗症の人は通常の人の2倍程度の割合の能動汗腺があるといわれています。

 平成22年度厚生労働科学研究班の多汗症疫学調査によると、国民の約14%(7人に1人)が汗のため生活に何らかの支障を来していることが推測されます。そのうち、医療機関を受診する人は6%とわずか。「体質だから仕方ない」とあきらめたり、生活の質(QOL)の低下だけでは受診しない人が多いことがうかがえます。
 さらに、受診したのにもかかわらず特に治療が受けられなかった人が78%もいました。医療機関を受診しても適切な診断が得られず、放置されている患者さんが多いといえるでしょう。

 多摩南部地域病院皮膚科医長で東京医科歯科大学でも「発汗異常外来」を担当する藤本智子先生は、「適切な治療によって症状が改善するので、多汗症の治療を行っている皮膚科を受診してほしい」といいます。

局所性多汗症は精神的緊張などに影響されやすい

 多汗症には、原因となる病気があって起こる続発性多汗症と、明らかな原因がない原発性多汗症があります。続発性多汗症の場合は、まず原因となる病気を治療する必要があります。
 また多汗症には、全身の発汗が増える全身性多汗症と体の一部(局所)の発汗が増える局所性多汗症があります。局所性多汗症は、わきの下(腋窩:えきか)や手のひら、足の裏など、汗腺が密集している箇所に多くみられます。

 藤本智子先生は、「いわゆる汗っかき(全身性多汗症)は温熱による刺激に影響されやすいのですが、局所性多汗症の場合は、温熱刺激だけでなく、精神的緊張などに影響されやすいのが特徴で、その分治療が難しいのです」といいます。

 たとえば、わきの多汗症の人はシャツの汗染みができて人目が気になったり、手の多汗症の人は触れるものが汗で濡れて書類が破れたりすることから、勉強や仕事に集中できない、人前に出たくないなど、QOLの低下や対人関係の悪化などで悩む人が少なくありません。しかも、汗を気にして意識するともっと汗が出るという悪循環に陥りやすいのです。
 多汗症は若年から中年の社会的活動の盛んな世代に多くみられるため、社会生活への影響も大きいといえます。

 先の厚生労働科学研究班の調査で、日本では原発性局所多汗症の人が多いこと、その半数近くがわきの多汗症(腋窩多汗症)であることがわかっています。原発性腋窩多汗症の人は国民の約5.7%(719.8万人)にも上ると推測されます。

 次に示すのは原発性腋窩多汗症の診断基準です。わきの下に原因不明の過剰な発汗が6カ月以上続き、診断基準の2つ以上に該当すると、原発性腋窩多汗症と診断されます。

●原発性腋窩多汗症の診断基準
・初発年齢は25歳以下
・両ワキに同じくらい多く汗をかく
・家族にも同じ症状がみられる人がいる
・汗で日常生活に支障が生じている
・睡眠中はひどい発汗は止まっている
・週1回以上多汗の症状があり、困っている

外用薬の効かない重度の腋窩多汗症に、ボツリヌス療法が保険適用になった

 腋窩多汗症の治療には、次のような方法があります。

●外用薬(塩化アルミニウムの塗り薬)
 塩化アルミニウムには発汗を抑える効果があります。塩化アルミニウムを成分とする溶液をわきの下に毎日塗り続けることで、軽症の人の約7割に効果がみられます。使用法が簡便で、健康保険の適用があり、治療費は比較的安価です。
 ただし、効果の持続時間が数日から数週間と短めです。かぶれやひりひり感など軽度の副作用が出る人もいます。

●イオントフォレーシス療法
 特殊な装置を用いてわきの下に微弱な電流を1日15分(片わき)流すことで発汗が抑えられます。健康保険の適用があり、治療費は比較的安価です。
 ただし、この装置を導入している医療機関は少なく、あっても主に手足の多汗症の患者さんのために用いられる機械です。効果の持続時間が数日から数週間と短めです。

●ボツリヌス療法
 ボツリヌス毒素には、発汗を促す交感神経から汗腺への刺激をブロックして発汗を抑える作用があり、これをわきの下に直接注射します。
 1回の注射で4~9カ月間効果が持続します。副作用は注射時の痛み以外ほとんどありませんが、治療には文書による同意が必要です。

●外科的手術
 胸部に挿入した内視鏡から交感神経を高周波で凝固する交感神経遮断術や、汗腺を除去する手術があり、発汗を長期にわたって抑えることができます。交感神経遮断術は保険適用があります。
 他の治療法に比べると手術なので体への負担もあり、副作用として、代償性発汗(体のほかの部位からの発汗が増える)がみられます。

●その他
 神経ブロック、レーザー療法、精神(心理)療法などがあります。

 診療ガイドラインでは、塩化アルミニウムの塗り薬が第一選択とされ、塗り薬で効果が出ない場合、ボツリヌス療法が第二選択とされています。そして、重症かつどちらの方法でも効果がみられない場合に外科的手術が検討されます。
 このように、治療は体への負担や副作用が比較的少ない方法から始め、重症度に応じて段階的に行われます。

 2012年11月、重度の原発性腋窩多汗症へのボツリヌス療法が保険適用となり、注目されています。以前は全額自己負担で1回の治療(両わき)に10万円近くかかった治療費が、3万円弱の自己負担(3割負担の場合)ですむようになりました。

 ボツリヌス療法は、ボツリヌス菌がつくる天然のたんぱく質でつくった薬をわきの下に直接注射するもので、交感神経から汗腺へと発汗を促す情報伝達を担う物質(アセチルコリン)の放出を、ボツリヌス毒素が遮る性質を利用しています。
 ボツリヌス療法が保険適用になったことで、塗り薬では改善が見込めなかった重症の患者さんにとって、体への負担が少なく十分な効果が実感できる治療法を選択できるようになりました。

 ただし、まだボツリヌス療法で治療できる医療機関は限られるため、受診する際は事前に確認する必要があります。なおボツリヌス療法には、発汗量は抑えても、ワキガ(腋臭症)などのにおいを抑える効果はありません。ワキガはにおい成分を分泌するアポクリン汗腺が原因ですから、治療法も異なります。
 最後になりますが、発汗量を減らそうと水分を控えるのはやめましょう。体温調節ができなくなり、熱中症になる恐れがあります。人知れず汗で悩んでいる方は、ぜひ信頼できる皮膚科に相談してみてください。

(編集・制作 (株)法研)

【取材協力】
藤本 智子先生


多摩南部地域病院皮膚科医長
東京医科歯科大学医学部臨床講師「発汗異常外来」担当
2001年浜松医科大学医学部卒業。茅ヶ崎徳洲会病院皮膚科、川口工業病院皮膚科、武蔵野赤十字病院皮膚科、東京医科歯科大学皮膚科助教などを経て、2011年より現職。東京医科歯科大学臨床講師として発汗異常外来も担当している。専門は皮膚科一般、多汗症。2011年度難治性疾患克服研究事業(研究推奨分野)の原発性局所多汗症研究班メンバー。多汗症、無汗症などの発汗異常について多くの経験を持つ。日本皮膚科学会専門医。所属学会はほかに日本発汗学会、日本皮膚アレルギー・接触皮膚炎学会、日本アレルギー学会など。

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