うつ病に似ている「職場不適応症」とは-出勤前の抑うつがサイン?

職場を離れると楽しむこともできる「場面限定的」な抑うつ

職場は「ストレス要因の除去」を積極的に。本人は「誰かに相談」「ストレス解消、疲労回復」が効果的

ストレス要因が職場にある場合の適応障害が「職場不適応症」

 近年「職場不適応症」が急増しています。「職場不適応症」は、「新型うつ」という呼び名でメディアなどでは紹介されていますが、国際分類では「適応障害」に相当します。
 適応障害とは、生活上の負担や環境にうまく適応できず、心身にさまざまな症状が表れてくるため、社会生活に支障をきたす心の病のこと。「職場不適応症」は、「ストレス要因が職場にある場合の適応障害」ということになります。したがって原因は、上司や同僚との人間関係、職場の異動、過重労働が続くこと、などが挙げられると思います。

 適応障害の症状は、抑うつを示すような軽度のストレス反応の段階から、強い不安や焦燥感、怒り、情緒障害や行動の障害を示す病的な段階までさまざまです。
 たとえば、朝どうしても起きられない、それで遅刻・欠勤する、会社に行こうとすると体が重くなったり頭痛がするとか、身体的な症状では食欲不振、吐き気、頭痛、めまい、動悸(どうき)がみられるなど、「うつ病」と非常に似ているところがあります。

 しかし、従来型のうつ病は、仕事熱心でまじめな人に過労のような形で現れることが多いのに対して、「職場不適応症」の場合は気軽に医療機関を訪れ、積極的に自らの症状を訴え、診断書の作成と休養の要求をするケースが多く見られます。また、うつ病が曜日に関係なく憂うつであるのに比べ、「職場不適応症」は、職場から離れた休日などは旅行に行って楽しむことができるが、いざ出勤しようとすると抑うつ状態になるなど、場面限定的な抑うつである点など、いかにも「なまけ」「わがまま」「未熟」と誤解されやすいところが特徴的です。

 さらに「職場不適応症」は、発症の契機(きっかけ、原因)がはっきりしている点がうつ病と違うところ。うつ病でも誘因と呼ばれる契機が存在している場合もありますが、適応障害の場合、より明白に「ある時点」より急に発症することが多いのです。

上司の一言がきっかけで職場不適応状態となった女性の一例

 ここで事例を示します。全国19の労災病院では、「勤労者こころの電話相談とメール相談」を無料で行っています。私は、メール相談の回答者として、最近では年間約7000件の勤労者からの相談を受けていますが、その中から「職場における適応障害、職場不適応症」と思われる相談事例を紹介します。なお、相談者のプライバシーを考慮し、脚色を加えています。

●相談事例
 「はじめまして、私は30代の女性です。運輸関係に勤めて15年になります。転勤が多く、新しい人間関係が築けてきたなと思うたびに転勤になるため、どうして自分ばかり転勤させられるのか? という憤りを感じていました。でも、自分なりに異動は自分自身の成長になると考え、頑張って、これまでは楽しくやってきました。
 しかし現在、3カ月前に着任した現場で、決算期の忙しい時期にお客様がらみの失敗をしてしまったとき、直属の上司から『もう仕事しなくていい!!』と怒鳴られ、手から書類を奪い取られました。言葉にできないほどのショックで、それ以来仕事へのやる気をなくし、何をするのにも自信がなくなってしまいました。休日も家にこもっていることが多くなり、人と会うのがすごく嫌です。何か良いアドバイスをください」

 まずメールには、「上司からの一言がショックで、仕事へのやる気をなくし、何をするのにも自信がなくなってしまった」とあります。つまり、はっきりとある時点(この場合は上司の一言)から「うつ気分」が出てきていることがわかります。したがってこの事例は、「うつ病」ではなく、「適応障害」と考えられるわけです。

 私の返信メールは、このようなものでした。

 「上司に言われたこと、その行動も含め、かなりきつかったのですね。あなたも分析しているように、たぶん上司もそのとき忙しくて大変な状況だったのでしょう。人間、ストレス状況にあると、他人のことをあまり気にしない言動をしてしまいますね。私も時々、同じようなストレスに悩むことがあります。そんなときに、私の愚痴を聞いてくれる仲間がいることですごく救われています。
 あなたの場合、職場の上司との人間関係に悩み、さまざまなストレス症状が起きているようです。このメール相談でもいいですし、電話相談でもよいでしょう。まずはあなたの愚痴や悩みを相談してみましょう。そして、ぜひ職場の中にあなたの話しを聞いてくれる人をたくさん見つけてください。今まで困難な状況の中でも人間関係を切り開いてこられたあなたなら必ずできます。
 また、あなたもおっしゃっていますが、会社を一歩出たら、仕事のことはなるべく忘れて、思い切り自分の時間を楽しむことも必要です。いわゆるオンとオフの切り替えです。自分に合ったストレス解消法を実践することでストレス症状は軽快します」

 1カ月後、彼女からの2度目のメールは、次のようなものでした。

 「『上司もストレスがたまっていたのでしょう』という言葉にハッとさせられました。上司が忙しいことは理解していたつもりでしたが、改めて『そうか、上司も同じ人間なんだ。責任も自分と比べれば何十倍だし、ストレスもたまるだろう』と目からうろこが落ちました。自分のことしか考えていなかった自分に気づきました。また、先生の『あなたならできます』という言葉で自信を少し取り戻すことができました。
 現在は笑顔を取り戻し、仕事も頑張れるようになりました。最近、仕事帰りにスポーツジムで汗をかいています。気分爽快です。もっと前から始めていればよかったです。本当にありがとうございました」

ストレスにさらされたときの「闘争・逃走反応」と捉えると、解決策が

 職場不適応状態が一往復のメールのやりとりで軽快した一例を紹介しました。それでは、なぜこれほど簡単に軽快したのかを、脳のストレス反応の面から考えてみたいと思います。
 あるできごとを、本人が「強いショック」「恐怖」と認識してしまった場合、脳は原始的な自己防衛本能である、「闘争・逃走反応(fight or flight reaction)」を生じさせます。つまり、「アドレナリンを分泌させ、交感神経を興奮させ、怒りや恐怖の情動を起こさせ、心拍や血圧、体温を高めて筋肉を緊張させ、外敵との戦闘態勢を整える」というわけです。これがストレスにさらされたときのストレス反応、「闘争・逃走反応」です。

 まず、職場不適応症は、事例からもわかるように、発症の契機がはっきりしている点が特徴です。この「契機となるできごと」から「うつ気分」が出てきていることがわかり、このできことを「強いショック」「恐怖体験」と本人が捉えたため、一種の「逃走反応」が生じて、「人と会うのがすごく嫌」となったのだと考えられます。
 職場不適応症の場合、本人は「出勤したいが出勤できない」といった葛藤が強く、出社しようとすると、脂汗が出たり頭痛がしたりすることもあります。これなども、職場からの「逃走反応」が生じている、と考えられます。
 また、メールの文章量からは、全般的にエネルギーの低下したうつ病患者の印象ではなく、上司への不平不満の気持ち、つまり「闘争反応」がにじみ出ています。

 こういうときには、総合的な判断力や意志の力で、「これは恐怖ではない」と適切な司令を出せれば問題にはなりにくいのでしょう。しかし長年ストレスにさらされ続け、疲労が蓄積していると、そうした本来持っている判断力など認知処理機能も低下し、うまく働かないということになりがちです。
 したがって、職場不適応症をよく知れば、職場としては、発症の契機となった「ストレス要因の除去」を積極的に行うことが最も効果的だとわかります。本人としては、誰かに相談することで、事例の女性のように「ショック体験」を、「上司もストレスがたまっていたんだ、上司も同じ人間なんだ」と思い直せたことが効果的でした。日頃からのストレス解消、疲労回復を怠らないことも、当然必要だということが理解できるでしょう。

 しかし一方で、適応障害には強い不安や抑うつ気分、情緒障害や行動の障害を示す重い病態もあることを知っておいたほうがよいでしょう。その場合は、早めに精神科医などの専門医に相談することをおすすめします。

 さまざまなできごとや対人関係を、どれだけ自己肯定的、楽観的に意味づけすることができるのかといった「認知的方略」は、ストレス耐性を高めるうえでも効果的です。さらに気晴らしや運動など、自分に合ったストレス解消法を見つけて、ぜひ有意義な人生を過ごしていただきたいと思います。

(編集・制作 (株)法研)

【執筆】
山本 晴義先生


横浜労災病院勤労者メンタルヘルスセンター長
1972年東北大学医学部卒業。2001年より現職。医学博士。神奈川産業保健推進センター相談員、文京学院大学講師、駒沢大学講師ほか。著書に:『ストレス一日決算主義』(NHK出版)、『ビジネスマンの心の病気がわかる本』(講談社)、『心とからだの健康教室(共著)』(新興医学出版社)など。CD監修:『うつ予防のためのCD』『働く人のメンタルヘルス・ミュージック』(DELLA)など。DVD監修:『元気な職場をつくるメンタルヘルス』(アスパクリエイト)、『心療の達人』(ケアネット)など。

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