沈黙の臓器 肝臓の働き

有毒物を解毒し、栄養分を貯蔵・再合成する体内の化学工場

心臓と同様重要だから「肝心かなめ」。主な働きは代謝、解毒、胆汁の分泌。肝炎が長期化すると肝硬変になる
(2010年05月18日)

生命維持の重要な働きをする人体最大の臓器

 肝臓は人間の体の中で最も大きな臓器で、重さは成人で1.2~1.5kg。三角形に近い形をしていて、右葉と左葉という2つの部分に分かれます。右脇腹の肋骨の内側に位置しています。

 肝臓の中には3,000億個以上もの肝細胞が詰まっていて、その間を毛細血管が流れています。肝臓には、酸素を供給する肝動脈と栄養分を運ぶ門脈という2本の太い血管から、1分間に1.5リットルもの血液が流れ込んでいます。肝動脈と門脈は枝分かれして毛細血管となり、肝細胞の一つひとつに酸素と栄養を届けています。
 門脈が運ぶさまざまな栄養成分は、数百種類もの酵素を使って代謝され、体の各部で使いやすいように合成し直されます(再合成)。その化学反応が1万種類以上にもなることから「体内の化学工場」と呼ばれるほどです。

 肝臓は私たちの生命を維持するのに心臓と同じくらい重要な臓器であるといってもよく、このことから、一番大切なもののたとえとして「肝心かなめ」と表現されているのです。肝臓の主な働きは、代謝、解毒、胆汁の生成の3つに分けられます。

(1)代謝 食事でとった食べ物は胃や腸で消化されて吸収しやすい成分に変わり、門脈を流れる血液によって肝臓に運ばれます。肝臓はそれをいったん貯蔵し、体内で利用できる形に変換・合成して、必要に応じて体内のあちこちへ送り出すのです。この一連の働きを「物質代謝」といいます。

(2)解毒 体内に入ってきたアルコール、薬、食品添加物などの化学物質や体内でつくられたアンモニアなど、体に有害な物質を分解して無毒化し、尿や便として体外に排出します。

(3)胆汁の生成 胆汁は脂肪の分解や、あぶらに溶けやすい脂溶性ビタミンの消化・吸収を助ける働きをします。肝臓が分泌した胆汁は、胆管(胆道)でつながっている胆のうに蓄積されて濃縮され、胃から十二指腸に食物が流れてくるとその消化・吸収のために十二指腸内に放出されます。

肝臓病の80%はウイルス性肝炎

 肝臓の働きに異常がないかどうかは、主に血液検査によって調べます。異常がある場合、血液の中には肝臓の働きと関係のある酵素やたんぱく質が増えてきます。

 定期健診や人間ドックなどで見つかる異常で多いのは、肝臓に中性脂肪がたまる脂肪肝。原因はほとんどが脂肪分や糖分の多いものの食べすぎですが、アルコールの飲みすぎによっても起こります。ですから脂肪肝は、食事をはじめとする生活習慣を改善すれば治りやすい病気なのです。また最近は、アルコールを飲まなくても起こる脂肪肝(NASH=非アルコール性脂肪肝)が問題になっていて、肥満の女性に多いのですが、放っておくと肝炎、肝硬変から肝臓がんに進む危険性もあるので、脂肪肝といえども軽く見ることはできません。

 しかし、日本人の肝臓病で何といっても多いのは、ウイルスの感染によって肝臓が炎症を起こすウイルス性肝炎で、肝臓病全体の約80%を占めています。肝炎の原因となるウイルスで現在知られている主なものは、A・B・C・D・E型の5種類。このうち日本でとくに問題になるのは血液や体液から感染し、慢性化しやすいB型とC型の肝炎ウイルスです。

 B型肝炎ウイルスは、肝細胞で増殖して血中に放出され、血液や体液を介して感染します。その主なルートは出産時に母親の産道で赤ちゃんが感染する母子感染ですが、その他、輸血や性交渉などでも感染します。このうち母子感染と輸血については、感染予防策が講じられてきているので心配はなくなりました。現在新たに感染するケースで問題になっているのは、性交渉や、薬物乱用者の注射針の使い回しによるものです。B型の慢性肝炎患者は、約130万人いると推定されています。

 C型肝炎も血液を介して感染しますが、感染力はB型ほど強くはなく、主な感染ルートは輸血などで直接血液に触れる場合です。しかしこれも防止対策が講じられて新たに感染することは少なくなってきました。むしろ問題なのは、自覚症状がなかなか現れないために感染に気づかないこと。このため感染者の70%が慢性化し、症状が目立たないまま肝硬変、肝臓がんへと進行しがち。こうしたことから、日本の肝臓がんの70%以上はC型肝炎が原因になってしまっています。現在日本には約150万人のC型肝炎の感染者がいるとされていますが、そのうち半数近くは感染に気づいていないといわれます。

異常があっても気づきにくい“沈黙の臓器”

 肝臓には再生する能力があります。たとえ半分以上の肝細胞が壊れて死んでしまっていても、ほかの肝細胞がカバーして肝臓としての機能を維持することができます。このことから、よほどの事態にならないと症状が現れないために“沈黙の臓器”などと呼ばれています。肝臓が病気になると現れる症状として、次のようなことがあげられます。

 だるい・疲れやすい/食欲がない/お酒が飲めなくなる/おなかの上のほうが痛む/皮膚や白目が黄色くなる(黄疸:おうだん)

 しかしこのような症状が出るころには、肝臓はもう相当ひどい状態になっているはず。こんなことになる前の、肝臓がまだ“沈黙状態”のうちに異常を見つけることが重要で、そのためには、毎年定期的に健康診断を受けて肝機能検査をしてもらわなくてはなりません。何も自覚症状がないからといって、油断をしないことが“肝心”なのです。

(編集・制作 (株)法研)

【監修】
西崎 泰弘先生

東海大学医学部准教授
同大付属東京病院副院長・同消化器肝臓センター長
1986年東海大学医学部卒業。慶應義塾大学医学部大学院、UCLAリサーチフェローを経て、1997年東海大学医学部講師、2004年より現職。専門は消化器肝臓病学、予防医学(抗加齢医学、総合健診、産業保健)。日本肝臓学会専門医・指導医、日本消化器病学会評議員・専門医・指導医、日本アルコール医学生物医学会員。

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