胃がストレスに弱い理由は? 胃を健康に保つにはピロリ菌対策が必要

強力な消化能力をもつ一方、ピロリ菌とストレスには弱い

強酸性の胃液が食物を消化し十二指腸へ送る。ピロリ菌は慢性胃炎から胃潰瘍、胃がんの原因に

胃壁は3層構造になっている

 胃は私たちに最もなじみのある臓器でしょう。食べたものが食道を通って最初に落ち着く場所、消化の第一段階を行うところ。これ以降のさまざまな臓器の働きはいま一つわかりにくいものがありますが、その点、胃の働きに対するイメージは比較的単純。また、「おなかが空いた」とか「胃が痛い」など、普段からその存在を感じやすいこともなじみやすさにつながっているかもしれません。

 まず胃の位置ですが、人間の胴体はみぞおちのあたりから上を胸部、下を腹部といいます。胸部と腹部の境には横隔膜があり、その下左側の空間の大部分を占めているのが胃です。胃の右側には肝臓があって、この2つの臓器で横隔膜のすぐ下の空間をほぼ埋めています。

 胃はよく膨らむゴム袋のような構造で、中の容量は1200~1600 mlほど。アルファベットのJの字の形をしていて、Jの頭のほうは食道とつながり、下は十二指腸につながっています。食道からの入り口を噴門(ふんもん)、十二指腸への出口を幽門(ゆうもん)と呼びます。ゴム袋のような構造と述べましたが、単純な筋肉の袋ではありません。胃壁は内側から粘膜、筋層、漿膜(しょうまく)の3層構造になっているのです。潰瘍(かいよう)やがんなどは、ほとんどが内側の粘膜にできますが、進行すると次第に漿膜の側に広がっていきます。

強力な酸が食物を消化、胃壁を傷つけることも

 胃の働きは、食道から入ってきた食物を一時的に貯め、消化液と混ぜ合わせ、消化することです。食物が胃に入ってくると胃壁の粘膜から胃酸、消化酵素、粘液が分泌されます。これらを主成分とする胃液は、1日に1500~2500 mlほども分泌され、独特の動きをする胃のぜん動運動によって食物と混ざり合い、食物を消化します。消化されてドロドロのかゆ状になった食物は十二指腸に向けて送り出され、十二指腸ではさらに膵液(すいえき)や胆汁などによって、そこから先の小腸で吸収されやすい状態にまで引き続き消化されるのです。

 ところで、胃酸はpH(水素イオン指数。7が中性、それより下が酸性、上がアルカリ性)が1.0~2.5という強酸性です。食物と一緒に口から入った細菌を殺菌したり、ステーキとして食べた肉まで溶かしてしまうほどの強い酸なのですが、胃壁そのものが消化されることはありません。胃壁は粘液の膜で守られているからです。しかし、胃は大変デリケートな臓器なので、胃にダメージを与えるさまざまな要因が強まると胃酸と粘液のバランスが崩れ、胃酸によって粘膜が傷ついてしまいます。

 胃にダメージを与える要因にはいろいろありますが、最近では、第一にヘリコバクター・ピロリ(以下、ピロリ菌)があげられるようになっています。ピロリ菌は胃に棲みつく細菌で、胃粘膜に侵入して炎症を起こします。その状態が続くと慢性萎縮性胃炎などが起こり、これにより胃・十二指腸潰瘍や胃がんを発症するリスクが高まることが指摘されています。

 ストレスも胃にダメージを与える大きな要因となります。強いストレスを受けると、自律神経の一つである交感神経が活発に働き、緊張状態となって胃の血管は収縮し、胃粘膜にはりめぐらされている微小な血管(微小循環系)に流れる血流量が減ります。このため、粘膜を保護している粘液の分泌も減ってしまいます。そしてこの緊張状態が緩むと、もう一つの自律神経である副交感神経が活発になり、胃酸の分泌が増えます。こうして胃酸が粘膜を直撃し、胃炎や胃潰瘍が引き起こされるのです。

 喫煙もダメージ要因です。喫煙は胃粘膜の微小循環系を収縮させ血流量を減らします。このため胃粘膜は酸素欠乏状態になり、粘液の分泌が減って抵抗力を低下させてしまいます。このほか、過度の飲酒や刺激物のとりすぎ、不規則な食事時間、ある種の薬剤なども胃のダメージの原因になります。

胃の健康のため、できればピロリ菌の除菌を

 胃の病気というと誰でも気になるのは、胃がんでしょう。日本人には胃がんが多く、部位別がんの死亡数で長い間胃がんは1位の座にありました。今は肺がんが男女ともトップで胃がんは2位になっていますが、患者数はやはり多く、男性では1位、女性では2位です。

 この胃がんとピロリ菌感染との間に強い因果関係のあることを、WHO(世界保健機関)の外部機関である国際がん研究機関が1994年に認定しており、国内でもいくつかの研究報告が同様の指摘をしています。
 50歳代以上の日本人では70%以上がピロリ菌に感染しているとみられており、この感染率の高さが日本を世界でも有数の胃がん発生国としていると考えられています。

 ピロリ菌は抗菌薬で除菌することができます。これまでピロリ菌の除菌に健康保険が適用されるのは、胃潰瘍や十二指腸潰瘍がある場合に限られていましたが、最近、胃マルトリンパ腫の治療や、早期胃がんの内視鏡治療後の残った胃での胃がん再発防止、特発性血小板減少性紫斑病などにも適用されることになりました(2010年6月18日厚生労働省通知)。

 ピロリ菌の除菌は、現状では最も効果的な胃がんの予防法とされています。また、ピロリ菌は胃潰瘍や十二指腸潰瘍だけではなく、日常的な胃の不調の原因になっていると考えられます。いずれにしても、40歳を過ぎたら、胃がん検診を受け、場合によっては保険適用外であってもピロリ菌感染の有無をチェックし、感染が確認されたら除菌することが望ましいでしょう。

(編集・制作 (株)法研)

【監修】
鈴木 秀和先生


慶應義塾大学医学部内科学(消化器)専任講師
1989年慶應義塾大学医学部卒業。93年カリフォルニア大学サンディエゴ校研究員。東京歯科大学内科学講座非常勤講師、北里研究所病院消化器科医長などを経て、2006年より現職。学会評議員:日本消化器病学会、日本消化器内視鏡学会、日本消化管学会、日本ヘリコバクター学会、日本胃癌学会、日本微小循環学会、日本酸化ストレス学会、日本神経消化器病学会、日本自律神経学会。Fellow of American College of Gastroenterology (FACG)、Associate Editor of American Journal of Gastroenterology、第97回日本消化器病学会総会事務局長。

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