脳の仕組みとはたらきとは? 各部位のはたらきと脳の病気について

全身をコントロールする超々スーパーコンピューター

人間らしさは大脳の営みから。脳幹は生命活動を支える中枢。高度な機能を生む神経細胞のネットワーク

重さ1,300gのとてつもないコンピューター

 血液を循環する、呼吸する、食べ物を消化する……これらを行うのはそれぞれを受け持つ器官ですが、コントロールするのは脳。見る、聞く、触る、味わう、嗅ぐ……これらをつかさどるのも脳。記憶する、考える、判断する、感動する……これらも脳の働き。

 脳は硬い頭蓋骨(とうがいこつ)の中に納まり、髄膜(ずいまく)や髄液(ずいえき)で保護されています。成人の脳の重さは1,300g前後。こんな器官が、私たち人間の全ての活動をつかさどり、その精妙な仕組みと働きには、人間が作ったどのようなコンピューターでも及ばないといわれます。「超」がいくつでもつけられそうな私たちに備わる自前のスーパーコンピューター、その構造からみていきましょう。

人間では大脳が大きく発達し、脳の8割を占める

 脳を縦に割った断面図で見ると、頭蓋骨で覆われた中は複雑な構造になっています。頭蓋骨の湾曲に沿って、その下の空間のほとんどを占めているのは大脳(だいのう:正式には終脳(しゅうのう)という)です。人間では大脳が特に大きく発達し、脳全体の約8割を占めます。

 大脳に覆われて脳の中心部にあるのは間脳(かんのう)。それに続いて中脳(ちゅうのう)、橋(きょう)、延髄(えんずい)とつながり、間脳から延髄までを脳幹(のうかん)とも呼んでいます。その先は首から背中へと下りていく脊髄(せきずい)になるので、脳幹は大脳と脊髄を結ぶ通路となっています。

 大脳の後頭部側の下で、脳幹と背中合わせのような位置に小脳(しょうのう)があります。

 このように脳は、頭蓋骨に守られた空間の中でいくつかの部位によって構成され、それぞれが私たちの体や心の活動をつかさどっています。以下、その働きをみていきます。

●大脳…大脳新皮質こそ、人間らしさの証明
 人間では、大きく発達した大脳が脳のなかで最も主要な部分を占めています。特異な形をしていて、中央を縦に深い溝が走り、左右2つに分かれています。右側を右脳(右半球)、左側を左脳(左半球)と呼び、それぞれの役割には違いがあるとされていることはよく知られています。右脳は立体感覚や空間的な構成による全体的把握が得意で、直観や創造性を発揮。一方、左脳の得意分野は言語処理や計算などで、思考や論理による部分的把握をつかさどっているといわれます。

 大脳の表面は、大脳皮質という神経細胞の集まった薄い層に覆われています。大脳皮質はまた、6層構造の新皮質と、3層か4層、あるいは層構造になっているか不明瞭な古い皮質とがあります。
 古い皮質は食欲、性欲など本能的な生存のための欲求とか、恐怖や怒りの情動行動など動物と人間に共通した働きを営んでいます。一方、新皮質は動物が進化し高等になるほど現れてきた部分で、運動や感覚機能、知的活動、喜びや悲しみといった複雑な感情などを営みます。人間では9割以上が新皮質で、これこそが人間らしさを示すものとされています。

 大脳新皮質には約140億個の神経細胞が集まり、前頭葉(ぜんとうよう)、頭頂葉(とうちょうよう)、側頭葉(そくとうよう)、後頭葉(こうとうよう)と呼ばれる4つの領域に分かれて人間のさまざまな活動をつかさどっています。全身のすみずみから送られる情報を識別し、それぞれ受け持つ領域で分業して各部位に対応する指令を送ります。
 神経細胞は電気信号を発して情報をやりとりする特殊な細胞で、ほかの細胞との大きな違いは、細胞体から突起が出ていること。神経細胞の数は脳全体でおよそ一千数百億個にもなり、その突起を全てつなげると100万kmもの長さになるといわれます。複雑につながったネットワークを電気信号がかけ巡り、脳の高度な機能が生まれるのです。

・前頭葉の働き…主に思考や判断をし、行動に移す機能をつかさどる。前面部にある前頭連合野(*)は思考、意思決定、創造などを、後方にある運動野は運動指令をつかさどり、両者の中間にある運動性言語野(ブローカ野)は、言葉を話すときにのどや口の筋肉に指令を出す。
(*)連合野:異なる系統の情報を統合し、言語や微妙な運動など高度にプログラムされた指令を出す。
・頭頂葉の働き…主に知覚や感覚をつかさどる。体性感覚野で痛み、温度、圧力などの皮膚感覚をつかさどり、それらの情報を頭頂連合野が統合し、自分の体性感覚として認識する。
・側頭葉の働き…主に聴覚や記憶をつかさどる。聴覚野で音の大小・高低を判別、側頭連合野で物の形や色の識別と記憶をつかさどり、感覚性言語野(ウェルニッケ野)で言葉を理解する。
・後頭葉の働き…視覚をつかさどる。視覚連合野で目からの情報を処理し、形、色、大きさなどを分析。

●脳幹…生命活動の基本的な営みをコントロール
 脳幹は、呼吸や循環など基本的な生命活動をつかさどる重要な部分。また、感覚情報を大脳皮質に中継し、末梢への運動指令を中継する場所でもあります。

・間脳の働き…視床(ししょう)と視床下部(ししょうかぶ)から成る。視床は嗅覚(きゅうかく)を除く全ての感覚情報を大脳に中継。視床下部は新陳代謝、体温調節、呼吸など生命活動を担う自律神経の中枢であり、また内分泌系の神経伝達の中枢でもある。
・中脳の働き…大脳と脊髄、小脳を結ぶ伝導路。視覚や聴覚の反射にかかわる。体の平衡や姿勢を保つ中枢でもある。
・橋の働き…大脳と脊髄、小脳を結ぶ伝導路。覚醒の中枢で、睡眠にもかかわる。また、三叉神経、外転神経、顔面神経、内耳神経の伝達の中枢でもある。
・延髄の働き…循環や呼吸をコントロール。咀嚼(そしゃく=噛む)、嚥下(えんげ=飲み込む)、嘔吐(おうと=吐き出す)、発声などもコントロールする。

●小脳…運動の強さやバランスなどを調整
 運動系の統合を担っています。筋、腱(けん)、関節からの情報、内耳からの平衡感覚の情報などを受け、運動の強さやバランスなどを調整しています。

脳が病魔に侵されると影響は重大──脳血管障害、脳腫瘍、認知症…

 人間の全ての活動をつかさどっている脳が何らかの病気に侵されると、その影響は重大です。生命が危険にさらされることはもちろん、助かったとしても多くの場合、侵された部分の脳が受け持っていた体の働きに重い障害が残ります。このため、MRIやCTなど高度な画像診断装置を使って検査する脳ドックが普及してきています。

●脳血管障害
 脳の血管が詰まったり破れたりして起こる病気の総称で、いわゆる脳卒中のこと。一般的に生活習慣病や加齢が原因になります。最も多いのは脳梗塞(のうこうそく)。脳の動脈が詰まって血流が滞り、その先の脳細胞が死んでしまいます。このほか、脳の中で起こる出血(脳出血)や、脳を覆う髄膜の間で起こる出血(くも膜下出血など)があります。
 どちらも体の片側のまひや意識障害、言語障害などを起こし、後遺症を残したり命を落とすこともあります。

●脳腫瘍
 脳やその周辺にできる腫瘍です。これには、脳そのものから発生したもの、脳の外の部分から発生したもの、ほかの臓器から転移してきたものなどがあります。成人は大脳に、子どもは小脳や脳幹にできやすいといわれます。
 脳腫瘍ができると頭蓋骨内の圧力が上がり脳がつぶされるので、頭痛が特徴的な症状として現れます。良性であっても、できる場所によっては命にかかわることがあります。

●認知症
 主なものに、脳血管障害が原因で起こる脳血管性認知症と、脳の神経細胞が破壊されて脳全体が萎縮するアルツハイマー型認知症があります。アルツハイマー型認知症の原因はわかっていません。
 認知症になると、病的なもの忘れ、言葉がうまく話せない、ある動作ができなくなる、ものごとを認識できなくなる、といった症状が現れます。

(編集・制作 (株)法研)


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【監修】
酒向(さこう)正春先生


世田谷記念病院副院長
デンマーク国立オーフス大学脳神経病態生理学研究所客員教授
1987年愛媛大学医学部卒業。愛媛大学脳神経外科講師、デンマーク国立オーフス大学脳神経病態生理学研究所助教授を経て、2004年初台リハビリテーション病院脳卒中診療科長。「病気を治すだけでなく、後遺症治療による人間回復が大事」との思いでリハビリ医療に転向し、脳神経病態生理学的画像診断による人間回復リハビリを実践。さらに、高齢者や障害者が暮らしやすいユニバーサル環境の実現を目指し「健康医療福祉都市構想」を提唱、実践。2012年世田谷記念病院副院長、回復期リハビリテーションセンター長に就任。NPO「健やかまちづくり」理事。脳神経外科学、脳卒中学、リハビリテーション学の3学分野の専門医。

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