【ナノテクノロジー】なのてくのろじー

 『ナノテクノロジー=ナノテク』という言葉を最近よく耳にしますよね。テクノロジーとは、「技術」のことですが、ではナノとはどういう意味なのでしょうか? 科学ライターの佐藤銀平さんに解説をお願いしました。

 「ナノとは、10億分の1の意味で、ナノテクノロジーとは10億分の1メートルという超微細なサイズを扱う技術のことをいいます。今まで手をつけられなかった原子や分子レベルの操作や制御がナノテクで行えるようになったのです」(佐藤さん)。
「ふーん、なんかすごいってことは分かるけれど、私の生活にはあまり関係ないみたい…」と、ほとんどの人が思ったのではないでしょうか。ところが佐藤さんは「ナノテクは、すでに私たちの生活の中にたくさん入り込んでいます」と言います。


10歳若返る化粧品もナノテクで

 ナノテクの恩恵にあずかっているもっとも身近なものといえば、化粧品。たとえばUVカットの化粧品が良い例です。これまでの日焼け止めは白いムラが出ていましたよね。これは顔料である酸化チタンの粒子に原因がありました。酸化チタンはUVをカットしてくれるのですが、あんまり粒子を細かくするとUVカット効果がなくなるわけです。そこで登場するのがナノテク。顔料をナノオーダーで形状コントロールしたら、白ムラが出ず、皮脂のテカリやベタつきも防ぎ、UV効果もばっちりという新タイプが発明されたのです。またファンデーションでも、たるみや小じわの影を目立たなくして“10歳若返る”微粒子パウダーがナノテクにより開発されています。気づかないまま使っている人もいるのではないでしょうか。化粧水やクリーム、そしてシャンプーなどにも“ナノ化”が謳われていますし、近い将来には細胞レベルにまで到達できるナノテク化粧品が開発されるかもしれません。

 化粧品と同じくらい身近にあるのがナノテク衣料です。最近話題になった“消臭シャツ”は、繊維1本1本にナノオーダーの皮膜を作り、消臭剤を繊維に接着してあります。 “おじさん臭”で嫌われたお父さんたちも、ナノテク繊維でできた消臭シャツを着れば、爽やかに変身。またナノテクでできた形態安定性の高い綿100%のドレスシャツはシワが出にくいのが特徴です。

 もう少し周囲を見回してみましょう。テニスのラケットのシャフト部分やゴルフのドライバーにもナノテクが使われています。また、パソコンや携帯電話に使われているマイクロプロセッサやメモリなどのデバイスは、非常に繊細な構造をしていて、まさにナノの世界です。

分子の大きさが1ナノメートル

 ナノ(ラテン語の小人という意味)」が、とてつもない小さな世界だということは分かっても、どうもピンときませんよね。そこで、ナノの世界を覗いてみましょう。

 まず私たちの身長は、だいたい1~2メートルの間です。髪の毛の太さが、10分の1ミリ。私たちの身体はおおよそ60兆個の細胞から構成されていますが、その細胞の大きさは数十ミクロン(μm:1ミクロンは1000分の1ミリ)。その細胞内にあるミトコンドリアが1ミクロンという大きさです。

 そしてここからがナノの世界。細胞に納められているDNAのらせんの幅が、2ナノメートル、分子の大きさが1ナノメートルで、原子が0.1ナノメートルです。

 こんな超微細なサイズを扱えるようになった恩恵はいろいろありますが、現在最も注目されている医療技術が“ドラッグ・デリバリー・システム”です。患部にピンポイントで薬を投与する治療法で、ガン治療にも大きな効果が期待されています。

 また汚染された土壌の改良など、環境に負荷をかける物質の除去をねらった技術や、石油に替わる新しいエネルギーシステムなどの研究も、行われています。ナノテクは、これからの私たちの生活を大きく変えようとしているのです。

 



佐藤銀平さん:最先端科学と技術をわかりやすく解説してくれる科学系記者。
著書『ナノテクノロジー』(技術評論社)は女性読者にも良く分かると好評発売中。