【ヨウ素】ようそ

 大震災での原発事故以来、ニュースで目にするようになったのが、「ヨウ素」です。
「ヨウ素には、健全なヨウ素と、人を害する放射線を出す能力を持った放射性ヨウ素の2つがあるんです。人を害する恐れのある、放射性ヨウ素は、原子炉で核分裂を起こすときに発生するさまざまな放射性物質のひとつ。それが今回の事故で大気中に出て広がってしまったというわけです」(衣笠先生)
では、もうひとつのヨウ素とは何でしょうか。
「別名ヨードと言い、本来コンブやワカメなどの海藻類に豊富に含まれる成分です。甲状腺ホルモンの構成成分として、重要な役割を持っています。また、ヨードチンキやうがい薬、喉スプレーなどの薬の成分でもお馴染みです」(衣笠達也先生)

大量に被ばくすると甲状腺がんに

 原発事故による放射性ヨウ素は、大気中に飛散しています。福島第一原発の周辺にとどまらず、風に乗って広範囲に広がりますが、空気より重いので、やがて地表・海面に落ちてきます。
「花粉と同じで、鼻や口から吸い込んだり、衣服や髪・皮膚に付着します。放射性ヨウ素が付着した手を口に持っていったことで体内に入ることも」(衣笠先生)
 専門的に言うと、付着は「汚染」とされます。そのため、体内に入ることを“体内汚染”といいます。
 “体内汚染したヨウ素”はほとんどが甲状腺に集まり、内部被ばくを起こします。これが、甲状腺がんの原因に。ただし、それはいっぺんに大量の放射性ヨウ素を被ばくしたり、長期にわたって相当量を浴びた場合です」(衣笠先生)
 乳幼児の場合、放射性ヨウ素を取り込んだ量に応じて甲状腺がんになる確率が上がります。これは史上最悪の原発事故といわれる旧ソ連・ウクライナのチェルノブイリ原発事故のとき(1986年)、因果関係が確かめられています。
 今回の件で地域によっては「安定ヨウ素剤を配布した」というニュースも聞きました。これが“健全なヨウ素”ですか?
「大量に被ばくする前や後に服用すると甲状腺に安全なヨウ素がたまり、放射性ヨウ素の取り込みが防げます。40歳以上の人は甲状腺がんになる恐れがほとんどないので、乳幼児や子どもを中心に40歳未満に処方します。各都道府県に十分な備蓄があるので、不足などの事態にはなりません」(衣笠先生)
 ちなみに、研究で40歳以上の人は放射性ヨウ素を浴びても甲状腺がんの発症リスクが上がらないことがわかっています。
 ヨウ素を含むコンブやワカメ、魚介類を急いで食べても、放射線対策にしては必要量が少なすぎて予防にはなりません。原発事故直後、ヨード入りのうがい薬を飲むといいといった風評が飛び交いましたが、決して飲んだりしてはいけません!
 ただし、今回の事故では安定ヨウ素剤が必要なほどの放射性ヨウ素は検出されていません。
「原子炉の炉心爆発のようなことが起きない限り、放射性ヨウ素が大量に飛び散る危険は少ないでしょう。また、ヨウ素を含めた放射性物質は、事故の起きた場所から遠ざかるほど検出量が少なくなりますし、放射能も8日間で半減します。現状では東北・関東以外の人たちは、心配しすぎないようにしましょう」(衣笠先生)

検出の数値には冷静な対処を

 福島第一原発の事故は一度に大量の放射性物質が飛散しなかったのが、不幸中の幸いでした。
 しかし、時間とともに農産物や魚介類、牛乳、水などから基準値を超える量が検出されるようになり、新たな不安が……。
「放射性ヨウ素が地面や河川に落ちて汚染された結果ですね。
3月23日には東京都の水道水から乳児の摂取制限にあたいするヨウ素量も検出され不安が高まりました。ただし、基準値は非常に厳しく設定しているので、一時的に基準値を超えたとしてもすぐ健康被害を受けるものではありません。また、ヨウ素を含む放射性物質の数値は風向きや風の強さ、降雨など天候、さらに計測場所や計測時間によっても変動するので数値に振り回されることなく、冷静に経過を見守りましょう」(衣笠先生)
 ただ、大人にとって問題ないとはいえ、胎児や乳幼児がいる家庭は、微量でも水や食品から長期的に摂取してしまうのは避けたいものです。
「日本には原発が現在17カ所・54基、北海道から九州までいずれも海岸にあります。地震には強いのですが、今回のような大津波には防護が十分ではありません。家庭でできる範囲でよいので日頃から防災を心がけましょう」(衣笠先生)

お話を伺った先生/衣笠達也先生
原子力安全研究協会放射線事故医療研究会・研究参与。1973年神戸大学医学部卒業後、兵庫県立がんセンター、アメリカ留学、三菱神戸病院外科、同衛生放射線管理課などを経て現職。著書に『放射線物語~!と?の狭間で~』(医療科学社 ¥1,260)がある。