【ケンポナシ】けんぽなし

 ケンポナシは中国、朝鮮半島、日本など東アジアに広く自生する落葉樹。日本でも、北海道から沖縄まで幅広く生育します。漢字での表記は「玄圃梨」。

 夏に球状の実がつきますが、果肉はほぼありません。代わりに柄へいの部分が太くなって果肉のようになり、冬に熟すと食べられます。味は甘く、梨に似ていることから、ケンポ“ナシ”という名前がついたそう。

 またケンポナシは木目が美しく、加工しやすいため、日本では昔から家具や建具などに利用されてきましたが、材木としての流通量は多くありません。

「東アジアでは、ケンポナシは古くから庭の木として植えられ、民間薬としても庶民の間で親しまれていました」(関隆志先生)

 民間薬とは、長年の経験から口コミで広がった薬のこと。漢方薬は専門家が数種類の生薬を組み合わせて処方しますが、民間薬は一種類の生薬であることが多く、センブリやゲンノショウコなどが代表的です。

「食べられる柄の部分以外にも、樹皮や葉など、さまざまな部位が症状に合わせて用いられていました。内服薬としてだけでなく、肌に塗る外用薬として使うことも。樹液を煎じてワキガ対策に塗ったり、木の皮を煎じたものを痔につけたりしていたようですね」(関先生)

昔から伝わる二日酔いの民間薬

 その中で長年、特に重宝されてきたのが、二日酔いや吐き気をなくすという用法。ケンポナシの食べられる柄の部分を煎じて服用していたのです。

「東洋医学ではお酒や辛いもの、油っぽいものを摂りすぎると、胃が異常な熱を持つとされます。また、お酒を飲み過ぎると、むくみやすくなり、消化器の機能も低下。その結果として吐き気や口の乾燥、口臭、食欲過剰、逆流性食道炎などの症状に。ケンポナシは、体の熱を冷やしつつ、利尿作用で不要な水分を外に出してむくみを解消し、悪酔いを防いだり、二日酔いを改善してくれる働きがあります」(関先生)

 アルコールへの効果の強さから、中国ではケンポナシの種をお酒に入れると水になる、などという言い伝えまであったとか。

 そんなケンポナシの効能を実験で科学的に裏付けたのが、1995年に日本の大学やロッテなどが主体となって発表した共同研究でした。

「8人の男性にケンポナシの抽出物を摂らせた後ビールを飲ませる実験を行ったところ、ケンポナシ抽出物を摂取しない場合と比べ、唾液中の血中アルコールやアセトアルデヒド濃度が低下し、息の中のアルコール濃度が減少傾向に(右図)。くわしいメカニズムはわかりませんが、ケンポナシが体内のアルコール代謝を促す効果があることがわかります。また、人間に対する実験ではお酒を飲む前に服用していますが、ケンポナシは飲酒の前と後、どちらでも効果を発揮します」(関先生)

 二日酔いや悪酔いにいいのは、今ではお酒のお供の定番になっている生薬のウコンに似ていますね。

「その通り。ウコンもケンポナシと同じく、体の熱を冷やして二日酔いの症状を抑えるのです」(関先生)

 お酒をよく飲む習慣のある韓国ではケンポナシを「ホッケナム」と言い、二日酔い予防と改善効果をうたった「ホッケナム茶」が、人気で増えているそう。

ケンポナシ入りガムで口臭予防

 日本でも意外に身近な商品にケンポナシが配合されています。
 口臭予防の定番となっているガムには、息のアルコール臭を抑えるためにケンポナシ抽出エキスが使われているのです。

 また最近では、手軽に飲めるペットボトルタイプのケンポナシ茶が発売されました。 「ケンポナシは口臭や口の渇きにも効果があると考えられます。ドライマウスに悩んでいる方にはおすすめです」(関先生)

 ただし、生薬として服用し、きちんと効果を出すためには、体質に合わせた処方が大切。

「ガムやお茶で少量を摂る場合は、あまり問題はありません。ただ、生薬として煎じて飲む場合、下痢をしやすかったり、お腹を触ると冷たい人は、胃がもたれたり、食欲がなくなるのであまりおすすめできません。また、むくみやすい人はいいのですが、むくまない人は、利尿作用から、脱水ぎみになることがあるので注意して」(関先生)

 生薬は間違った使い方をすると副作用が出るので、摂りすぎにも気をつけることが大切。自分の体質を見極めて、ケンポナシを上手に取り入れたいですね。

左:濃縮したケンポナシエキスを1600mg含むお茶。香ばしく、すっきりした味わいで飲みやすく、ノンカロリー&ノンカフェイン。ケンポナシ茶(340ml)¥150/アイリスオーヤマ
右:果肉部分と木、樹皮を煮出す、韓国のケンポナシ茶。プレミアムホトケナム茶¥730/サルーネコ

お話を伺った先生
関 隆志先生
医学博士。漢方認定医。東北大学・大学院 医学系研究科 先進漢方治療医学講師を経て、現在は高齢者高次脳医学講座講師。内科医として診察する傍ら、患者中心の医療を目指し、現代の医療に漢方や鍼灸を取り入れることを提言する。