【BRCA遺伝子】びーあーるしーえーいでんし

ハリウッド女優、アンジェリーナ・ジョリーさんが、乳がんの予防のために両乳房の切除手術を受けたことが、大きな話題になりました。 これは遺伝子検査によって、遺伝性の乳がんになる可能性が高いことがわかったため。このとき調べられたのが、「BRCA遺伝子」。これまでの研究で、遺伝性の乳がん及び、卵巣がんの発症に関与していることがわかってきました。

 「BRCA遺伝子は、本来DNAの傷を修復し、がんを抑制する遺伝子。しかし、この遺伝子に異常があると、反対にがんを発症するリスクが高まります。現在見つかっている乳がんと関係する遺伝子は、『BRCA1』と 『BRCA2』の2種類。遺伝子の変異がある全ての人が発症するわけではありませんが、女性の場合は、特に乳がんや卵巣がんになる可能性が。例えば、乳がんの生涯発症リスクは、通常の10~19倍になります」(中村清吾先生)

遺伝性乳がんの確立は親子で1/2

 アンジェリーナさんの場合、BRCA1遺伝子に変異が見つかりました。実は彼女の母は、乳がんのため56歳で死去。母方の祖母も卵巣がんのため40代で命を落としています。 「BRCA遺伝子の変異の問題の一つが、1/2の確率で親から子へ遺伝すること。特にBRCA1は、若い年齢で乳がんを発症する可能性が高く、40歳過ぎてからの卵巣がんのリスクも高い。しかも治療が難しいのです。そのため、アンジェリーナさんはリスク低減手術に踏み切ったのでしょう。日本でも、同様の手術を行う体制が整いつつあります」(中村先生)  乳がんは乳腺にできる病気なので、予防的にその乳腺を切除する手術だったと言います。  また、男性の場合も遺伝の確率は同じ。すい臓がんや前立腺がんのリスクが増すそう。

日本が出遅れている遺伝性乳がんの予防

 「遺伝子が原因の病気なので、人種によっても差があります。日本では、まだ基盤のデータとなる検査結果が足りていないのが現状。アメリカや韓国のデータも参考にして、診療などを行っています」(中村先生)

 家族や親族に乳がん患者がいるからと言って、全てが遺伝性とは限らないそう。

「遺伝性乳がんのリスクに当てはまるのは、全体の15~20%。自身もしくは血縁者の中で特定の条件にあてはまる方がいる場合は、遺伝の可能性が考えられます。事前に『遺伝カウンセリング』を行い、検査の必要性を検討するシステムもあるので、ぜひ一度、病院で医師に相談してほしいですね」(中村先生)

 ただ、日本でBRCA遺伝子検査を受けるには、ハードルが高いという現実も。

「アメリカでは遺伝性乳がんに特化した検診や発症予防の制度が確立されています。しかし、日本では予防医療が医療保険制度の対象外なので、20~30万円程の費用がかかってしまう。現在、将来的な保険適用の働きかけの他、予防策や治療指針などについては、日本乳癌学会を中心に、検討・策定が現在進められています」(中村先生)

 また、たとえ変異が見つかっても、予防策があるので必要以上に怖がる必要はありません。

「予防と早期発見にどう取り組むかは、患者さん1人1人のライフスタイルや人生設計に合わせ、行うのが理想的です。乳がんは比較的見つけやすいがんなので、月1回のセルフチェックや年1回の検診を必ず行うこと。ある程度の年齢になっていれば、卵巣がんの予防のために卵巣・卵管を切除するといった手段もあります。アンジェリーナさんのような乳腺切除手術が、選択肢の一つになるのは望ましいと思いますね」(中村先生)

 予防策が結果として、国の医療費全体の削減にもつながるはずと話します。

「乳がん家系でないからといって、安心してはいけません。90~95%の乳がんは、遺伝とは関係なく発症します。毎年6万人の人が乳がんと診断され、1万人以上の人が乳がんによって亡くなっています。乳がんは他のがんに比べ、ゆっくり進行し、体表近くで触れることも多いので、早期発見・早期治療が可能な病気。検診を定期的に受けることで、女性の皆さんに健康的で自分らしい人生を謳歌してほしいのです」(中村先生)

 病気に振り回されない人生を送るため、検診を習慣にして。

お話を伺った先生
中村清吾先生
昭和大学医学部・乳腺外科教授。昭和大学病院ブレストセンター長。日本乳癌学会 乳腺専門医。日本の乳がん治療の第一人者。現在、日本のBRCA遺伝子変異患者のデータベースの作成に力を注ぐ。さまざまなメディアでも広く活躍中。