家庭医がいればちょっとした不安も相談できる-未来の医療が変わる?

医師不足と医師偏在を一気に解決する切り札「家庭医」

「家庭医」養成から、患者さんと医療者の立場を超えた、みんなでつくるこれからの医療のかたちを提案します

頼れるお医者さんって、どんな人?

「なんとなく体調が悪いけど、誰に相談すればいいの?」
「お医者さんは忙しそう、ちゃんと話を聞いてくれるかしら?」
「急に熱が出た! どうすればいいの? 救急車を呼ぶしかないの?」
「産科医不足っていうけど、安心してお産や育児のことを相談できるお医者さんが近くにいればいいのに……」
「病気がちな親のことが心配。介護のことも相談したいのだけど……」

 こうした心配ごとを、ふだんの生活で、あるいはクリニックや病院にかかったときに感じたことはありませんか? 毎日のように、「医師不足」「地方の病院から医師がいなくなった」「都市部でも救急のときに対応できない」といったニュースが飛び込んできます。

 「いつでも相談できる、自分のことをよく知っていてくれるお医者さん。子どもや親のことも親身になって聞いてくれて、急に具合が悪くなっても落ち着いてしっかり対応してくれるお医者さん。そんな人が近くにいればいいのに!」と誰もが思うことでしょう。

 僻地医療に取り組んでいるお医者さんなら、そういう対応が可能かもしれません。地域によっては、患者さんを全体的に診ることに熱心なお医者さんもいらっしゃいます。
 一方「病気をしたらすぐに大病院にかかる傾向が大きいが、地域で信頼できるかかりつけ医を見つけ、まずそこを受診しよう」と、提唱されています。しかし、残念ながら、というより驚くことに、現在のわが国の医療において、患者さんの疑問や不安にお応えして、「どうぞ、安心してお任せください」といえる医師が、地域のどこにいるのかがわかるしくみは存在しません。信頼できるかかりつけ医を探すには、手探りや口コミに頼るしかないのが現状です。
 こうした多くの方々の声に対して、私は頼れる「家庭医」を、充実した教育研修プログラムのもとで養成するしくみを提案しました。将来的には、「家庭医」の認定制度が整い、「家庭医」であることがすぐにわかる看板を地域で見かけることができることも想定しています。

家庭医は、あなたと家族・地域を守る、頼れる専門家

 私は昨年9月から、「医療における安心・希望確保のための専門医・家庭医(医師後期臨床研修制度)のあり方に関する研究班」の班長として、半年の間に医療現場で働いているさまざまな立場の医師、教育研修をしている医師、そして将来医師になるために励んでいる医学生などと、今の医療の多くの課題について徹底的に議論しました。
 皆さんがどんな医師を望んでいるのか、という視点でこれからの医療を支える人材をどうやって養成すればいいのか、これまでの医療や教育研修制度の問題点や、海外の研修制度の動向を調査した上で、「頼れる医師を育てる研修制度を、医療に関わるすべての人が力を合わせてつくりましょう」と提案し、この春、提言書を厚生労働省はじめ関係機関に提出しました。

 その中で「家庭医」を、地域の医療や健康の問題に対して、患者さんの気持ち、家族の背景、地域の特性に応じて継続的に医療を行える「専門の職種」であると位置づけることを提案しました。そして、家庭医を育てるために必要な養成プログラムを検討しているときに、とても面白いことがわかってきたのです。

「家庭医」は、医師の不足と偏在を同時に解決する

 頼れる家庭医をその地域で、しっかりした研修プログラムのもとで養成するようになると、医師不足、地域や専門分野の偏在という、最近の医療をめぐる大きな問題が、なんと同時に解決できてしまうのです。「そんなうまい話はあるのか」と思われるかもしれません。
 家庭医は、日常的に起こる健康の問題について、継続的に家庭や地域の実情に応じた医療やケアを実践します。具体的には、小児の健診や予防接種と継続的な健康管理、妊産婦の定期健診や産後のケア、成人の継続的な健康管理、社会的な背景や介護のことも含めたお年寄りの健康管理、救急でよくある病気、メンタルヘルスケアのことなど、地域における幅広いニーズに対応します。
 「地域に根ざした家庭医、つまり患者さんと家族に一番身近な医師として、自分の能力を磨きたい」という想いと、「頼れるお医者さんに診てもらうことで、いつでも安心の医療を受けたい」という地域住民の願いが重ね合わさったときに初めて、医師は充実した研修環境のもとで、「家庭医」に必要な専門的な能力を身につけることができ、「家庭医」になり得るのです。

 一方で都道府県や病院ごと、専門学会ごとの定員枠や上限をあらかじめ設定して強制的に医師の研修先を割り振るという方法が考えられるかもしれません。偏在の是正という面では見た目にわかりやすいやり方ですが、三つの意味で私の考えと正反対の結果をもたらします。
 つまり、
 (1)一方的に割り振られた地域において、充実した研修を受けられて良い医師が育つ保証がない
 (2)魅力的なプログラムを提供している医療機関での研修の機会を奪い、お互いに切磋琢磨するという研修医、指導医のやる気を削ぐ
 (3)地域の住民にとっても、気のりのしない地域に割り振られた半人前の医師が、指導やバックアップ体制の整わないもとで診療されたらたまったものではない
ということです。

 今まさに医師の養成、研修のあり方についての議論が行われています。これまでの議論や提言を研究班のホームページ(http://medtrain.umin.jp)にて、一般の方にもわかりやすい言葉や解説を交えながらご紹介しています。ぜひご覧いただき、これからの医療について一緒に考えてみませんか。

【執筆】
土屋 了介先生


国立がんセンター中央病院 病院長
1970年慶應義塾大学医学部卒業。慶應病院外科、日本鋼管病院、国立がんセンター病院でのレジデントなどを経て、1979年国立がんセンター病院外科。専門分野は胸部外科学。2006年より現職。2008年厚生労働省「医療における安心・希望確保のための専門医・家庭医(医師後期臨床研修制度)のあり方に関する研究班」班長。良い医師を育てる新しい仕組みをいっしょに作り上げていきましょう。そのためには、皆さんの「声」が大きな「力」になります。

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