女性にも増えているHIV感染・エイズ-妊娠中に感染が分かったら

治療法が進み、長くつき合える慢性疾患に

女性の感染者や患者も徐々に増えているHIV感染やエイズ。妊婦健診で見つかることも増えている。

年間1500人以上が、HIV感染症やエイズを発症

 厚生労働省エイズ動向委員会の発表によると、平成20年(1月1日~12月31日)の1年間で、HIV感染者は1126人、エイズ患者は431人、合わせて新規発生者は1557人。HIV感染者、エイズ患者ともに年々増加しています。
 日本におけるHIV感染者・エイズ患者の女性の割合は6.8%と少ないのですが(世界では50%、アジアでは35%が女性)、若い世代(10代後半)では、女性のほうが多い傾向があります。

 HIV感染症は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)が、ヒトの粘膜から侵入して引き起こされる感染症。HIVに感染すると免疫力が低下し、健康な人では発症しないような日和見(ひよりみ)感染症を起こしやすくなります。とくに厚生労働省が定めた23の感染症のいずれかを発症したときにエイズ(AIDS:後天性免疫不全症候群)と診断されます。

 *HIV Human Immunodeficiency Virus の略語
 *AIDS Acquired Immunodeficiency Syndrome の略語


 HIVは血液や精液、腟分泌液などに多く含まれています。最も多い感染経路は、性行為によるもので、HIVが存在する血液を輸血したり、注射針の使い回しでも感染する可能性があります。また、妊婦さんがHIVに感染している場合、妊婦さんからおなかの赤ちゃんに感染することもあります。

妊婦健診で、HIV感染が見つかることも多い

 妊娠中にHIVの感染がわかった妊婦さんは、日本では毎年30人前後います。この数字は、女性のHIV感染者・エイズ患者全体のうちの25%に当たり、女性の患者さんの4人に1人は妊婦感染者ということになります。
 産婦人科のほとんどで、妊娠3カ月ごろに妊婦健診における初期検査を行います。この検査の際に、妊婦さんの同意を得てHIVの抗体検査を実施することができます。「平成19年度都道府県別妊婦のHIVスクリーニング検査実施率」をみると、73.7%から100%とばらつきがあるものの、平均では97.2%。大半の妊婦さんが受けているといえます。

 HIV抗体検査を受けた動機を国立病院機構大阪医療センターが調べたデータ(平成9年~21年9月)によると、
・パートナーがHIVに感染したから=25%
・妊婦健診時に一緒に受けた=20%
・日和見感染症が出たから=18%
・自主的に検査を受けた=11%
などが上位を占めています。

 女性は、何か症状があるか、もしくはパートナー検査や妊婦健診以外では、HIV抗体検査を受ける機会が少ないように思われます。妊婦健診は、ほかの検査も一緒に受けることができるので、保健所や医療機関でHIV抗体検査を単独で受けるより、検査を受けやすいのかもしれません。

 HIV抗体検査は、HIVに感染すると産生される抗体の有無をスクリーニング検査(一次検査)で調べます。この検査で「疑陽性」または「陽性」と出た場合は二次検査を受けて、詳しい情報を得ます。

 妊娠初期にHIV感染がわかれば、妊婦さんは早期に適切な治療を開始でき、おなかの赤ちゃんにも感染しないような対策をとることができます。
 しかし検査を受けずに、HIVに感染してもそのことを知らないでいると、赤ちゃんに感染する確率が高くなり、もし感染した場合にもそのことを知らずに、何も治療を行わなければ、約半数が生後1年以内にエイズを発症する危険や死亡率も高くなります。
 妊婦さんにも赤ちゃんにも、早期発見・早期治療は大切で、妊婦健診におけるHIV抗体検査は、HIVが赤ちゃんへ感染することを予防し、妊婦さんの健康を守る重要な検査ですから、すべての妊婦さんにしてほしい検査です。

妊娠中にHIV感染がわかったら

 妊娠中にHIV感染がわかったら、かつては赤ちゃんを諦めることが多かったのですが、現在では、母子感染予防のための抗HIV療法を続けながら、出産できるようになりました。
 まず、妊婦さんの体内のHIVを減らし、母子感染率を低くするために、妊娠中から抗HIV薬の内服治療を始めます。赤ちゃんへの影響を避けるために、妊娠14週以降からの内服がすすめられています。
 産道での血液感染を防ぐために、出産は帝王切開となります。陣痛が始まってからでは胎盤から血液がもれる可能性もあるので、妊娠35週や36週くらいでの出産が一般的です。
 生後6週間までは、赤ちゃんは抗HIV薬のシロップを飲むことになります。また、HIVは母乳からも感染するので、授乳は母乳を避けて粉ミルクにする必要があります。
 このような治療や対策を行うことで、赤ちゃんへの感染を予防できるようになりました。

 HIV感染症の治療法は近年急速に進歩し、まだHIVを完全に排除して治るまでにはいかないものの、HIVの増殖を抑えて、エイズの発症を抑える薬が開発されています。1996年以前は、HIV感染と診断された後の余命は10年以下でしたが、現在では、数十年も延び、エイズで亡くなる人はいなくなったとさえいえます。
 HIV感染症は、適切な治療を継続できれば、長くつき合っていける慢性疾患ととらえることができるようになっているのです。

 現在のHIV感染症の治療に用いられている抗HIV薬は、働きの違いによって大きく5つに分類されています(さらに多くの薬がある)。
・侵入(膜融合)阻害薬
・非核酸系逆転写酵素阻害薬(NNRTI)
・核酸系逆転写酵素阻害薬(NRTI)
・インテグラーゼ阻害薬
・プロテアーゼ阻害薬(PI)

 これらのうち、働きの違う3剤以上の抗HIV薬を組み合わせて服用する「多剤併用療法」が一般的です。この多剤併用療法は、HIVの増殖を強力に抑え、血液中のHIV量をできる限り減らし、その状態を長期にわたって維持することで、重症化やエイズへの進行を遅らせることを目的にしています。妊婦さんの場合には、赤ちゃんにもできるだけ影響を与えないよう配慮して薬を選び、組み合わせます。

 治療開始後も、定期的に血液検査を行い、免疫状態の経過や、HIVの量、薬剤耐性の有無など調べる定期検査を受けます。これにより、治療に最も効果のある薬の選択や、必要量の調整を行い、治療を継続していきます。
 また、妊娠中に妊婦さんが用いた抗HIV薬が赤ちゃんにどう影響するのか、まだよくわかっていないので、赤ちゃんも定期的に小児科で検査を受けることが大切です。

(編集・制作 (株)法研)

【監修】
上平 朝子先生


独立行政法人国立病院機構 大阪医療センター
感染症内科科長
1989年関西医科大学卒。同年同大学付属病院第1内科勤務。90年同大学付属洛西ニュータウン病院勤務、95年同大学付属病院第1内科勤務。99年同大学大学院卒業。同年独立行政法人国立病院機構大阪医療センター総合内科・免疫感染科・感染症内科を経て、2009年現職に就く。日本内科学会専門医、日本感染症学会専門医・指導医のほか、日本エイズ学会や日本化学療法学会などに所属

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