漢方についてもっと知ってほしいこと-日本に古くからある漢方の有効性

漢方の有効性や医療経済的な効果が広く知られていない

慢性疾患だけでなく急性期治療や最新医療でも効果。西洋医学と漢方を融合したわが国独自の「日本型医療」を

多くの医師が漢方薬を処方しているが、医療用製剤全体からみればわずか

 昨年11月、内閣府の行政刷新会議が「事業仕分け」を実施し注目を集めましたが、医療用漢方薬の健康保険給付がその対象となったことはご存じでしょうか? わずか3週間のうちに保険適用継続を求める署名が100万通近くも寄せられた結果、健康保険給付は継続されることになりました。

 漢方薬は、1976年に医療用漢方製剤が健康保険適用となりました。それ以来、医師が使用する医薬品として30年以上使われてきた実績をもち、品質が高いことも知られています。科学的な研究が進み、臨床研究も多く発表されています。日本漢方生薬製剤協会の調査によると、現在日本の医療現場では8割以上の医師が漢方薬を処方していることがわかっています。

 それにもかかわらず、なぜ漢方薬の保険適用が外されそうになったのでしょうか? それは、わが国の医療は西洋医学中心で、漢方が正しく認識されておらず、その有益性が国民に理解されていないことが一因と考えられます。

 慶應義塾大学医学部漢方医学センター長・准教授の渡辺賢治先生はいいます。「多くの医師が漢方薬を使用しているといっても、漢方の市場シェアは医療用製剤全体のわずか1.2%にすぎません。これは、漢方薬がファーストチョイスとしてどんどん使用されるという状況ではなく、ごく限定された処方のみしか用いられていないことを表しています。」
 「しかし漢方薬がファーストチョイスになる疾患は多々あります。月経前症候群や更年期障害など女性医療の分野、パニック障害や軽度うつなど心療内科分野、冷えや腰痛、膝関節症といった高齢者に多くみられる疼痛に対しても漢方が有効です。さまざまな領域でもっと積極的に用いられてもよいと思います。」

漢方は日本の風土、人に合わせ独自に発展してきた日本独自の伝統医学

 そもそも漢方とは何でしょうか? 漢方を中国の医学と思っている方も多いかもしれません。しかし漢方は、5~6世紀に中国から伝わった医学が日本の風土や人に合わせて独自に発展してきた、日本独自の伝統医学なのです。「漢方」という呼び名も、江戸時代に「蘭学」「蘭方」と区別するために命名されたものです。

 漢方の特徴を示す重要な考え方に「未病(みびょう)を治す」があります。「未病」とは、病気ではないが、病気になりかかっている状態を表します。たとえば検査で異常が出なくても気になる症状があれば早めに対処して健康を保つ、未病を放っておかず病気になる前に治すという考え方です。話題の「メタボリックシンドローム」も、症状はなくても検査値の異常が複数重なった状態を改善していこうということですから、予防を重視する未病の考え方が取り入れられているといってよいでしょう。

 また漢方は、病気の症状だけでなく、患者一人ひとりの体質、体型、気質などを総合的に判断して処方します。つまり、病気に対して薬が決まるのでなく、病気を持つ人を全体的に診て薬を決めるのです。そのため、不定愁訴をかかえやすい女性や、いくつもの症状をかかえる高齢者などにも有効に対処ができます。実際、女性や高齢者の疾患、慢性疾患に対して、漢方は比較的よく用いられています。

 それでは、漢方は慢性疾患には有効だが、それ以外の病気には西洋医学のほうが有効かというと、決してそうではありません。

急性期治療や最新医療でも効果。生薬資源の安定確保のための対策を

 たとえば、インフルエンザの急性期には葛根湯(かっこんとう)、麻黄湯(まおうとう)、麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)、大青竜湯(だいせいりゅうとう)などが用いられ、1日で解熱することもしばしばあります。昨年流行して大変な騒ぎになった新型インフルエンザに対しても、漢方専門医の間では、麻黄湯でタミフルと同等の効果を得たという結果が複数出ています。

 花粉症の時期には小青竜湯(しょうせいりゅうとう)、麻黄附子細辛湯、苓甘姜味辛夏仁湯(りょうかんきょうみしんげにんとう)などが体質に合わせて用いられますが、即効性もあります。

 最新医療の現場でも漢方薬は効果を上げています。がんの化学療法と併用して十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)や人参養栄湯(にんじんようえいとう)などの漢方薬が用いられています。これらの漢方薬には免疫系を刺激し生体防御能を高める作用があり、抗がん薬の副作用を和らげたり、合併症などのリスクの軽減に効果があります。

 また、認知症の周辺症状(妄想、徘徊など人によって現れ方が違う症状)にも、抑肝散(よくかんさん)や釣藤散(ちょうとうさん)などの中枢神経を刺激する作用のある漢方薬が効果を発揮し、患者さんはもちろん介護する家族の負担軽減にも役立っています。

 このように漢方は、慢性疾患の治療だけでなく、感染症の急性期治療や、最新治療においても効果を上げているのです。しかも、漢方薬の活用によって、医療費削減効果も期待されます。たとえばインフルエンザ治療では、タミフルの1日薬価約618円に比べ、麻黄湯は約65円、葛根湯は約73円と安価(成人の場合)。漢方薬は高いと思われているようですが、これも間違った認識です。実際には、最も高価な柴苓湯(さいれいとう)でも1日薬価約485円と、漢方製剤は非常に安いのです。

 こうした漢方の有効性や医療経済的な効果については広く知られていないどころか、むしろ誤解されていることも多いため、冒頭の「事業仕分け」のようなことになってしまうのでしょう。

 渡辺賢治先生は、国民の健康を守るために、最先端医療と伝統医学である漢方を融合したわが国独自の「日本型医療」を創るべきだといいます。日本には漢方の医師免許はなく、日本の医師は西洋医学を修得した上で漢方医学の勉強をしています。そのため、両方の知識を兼ね備えた医師が、互いのよいところを組み合わせて行う日本独自の医療が可能なのです。

 一方、現在世界的に伝統医学への認識が高まるとともに、漢方薬の原材料である生薬の需要も急速に伸びています。しかし日本の生薬の国内自給率はたったの15%。輸入のほとんどを中国に依存していますが、生薬の世界的需要増加により中国からの供給にも限界がみえています。中国の人件費高騰も加わり、生薬の価格は年々上がっています。もっと漢方薬を使いたくても、このままでは原料が手に入らないという事態にもなりかねません。とくに本年10月に名古屋で開催が予定されている生物多様性条約第10回締約国会議でどのような議論になるのかが注目されています。
 漢方への正しい理解を促すとともに、生薬資源を安定的に確保するために、国の政策が求められます。

(編集・制作 (株)法研)

【監修】
渡辺 賢治先生


慶應義塾大学医学部漢方医学センター長・准教授
1984年慶應義塾大学医学部卒業。慶應義塾大学病院内科、足利赤十字病院内科、慶應義塾大学病院内分泌内科、東海大学医学部免疫学教室、米国スタンフォード大学医学部遺伝学教室留学、北里研究所東洋医学総合研究所、慶應義塾大学医学部東洋医学講座准教授を経て、2008年より慶應義塾大学医学部漢方医学センター長・准教授。日本東洋医学会専門医・指導医、日本内科学会専門医、米国内科学会上級会員。

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