がんを予防する食生活-科学的根拠に基づいたがんの予防法

発がんリスクを遠ざけ、量・質ともにバランスのよい食事を

がん予防には、生活習慣を改善することが第一。正しい情報を見分ける力を備えて、健康で豊かな食生活に

食べ物とがんについての情報は、質を見分け適切な判断を

 日本人の平均寿命は、男女ともに世界のトップクラス(女性は世界第1位)にある一方で、食生活や運動習慣などと関係の深い生活習慣病が増え、長期闘病生活を余儀なくされる人も増えています。日本人の死因の第1位であるがんも、一部は遺伝やウイルス・細菌の持続感染などが関係しているものの、多くは生活習慣病ととらえられています。
 私たちが、がんを予防するためにできることは、好ましくない生活習慣を改善して、がんの発生リスクをできるだけ下げることに尽きます。

 先般、「ここまでわかった! 食生活改善とがん予防」と題した講演会(主催:財団法人東京顕微鏡院、医療法人社団こころとからだの元気プラザ)が、都内で開催されました。
 講師を務めた国立がん研究センターの津金昌一郎先生は、生活習慣と病気との関係について、長年にわたる大規模な調査研究を行っています。この講演会では、国内外の研究結果を元に、がんの発生リスクを高める食品や予防効果のある食品など、私たちに身近で関心の高い食生活とがんとの関係を中心とする話題が提供されました。

 世の中にあふれている“食べ物とがんに関する情報”は、すべて正しいわけではありません。「私たちの食生活に取り入れる価値があるかを適切に判断するには、科学的な根拠に基づいているかを見極めることが大切。がんになりやすい(なりにくい)食生活を、科学的に証明するには、動物実験、試験管内実験、ヒトを対象とした疫学研究などで検証されることが必要です。また、一つの研究結果だけでなく、さまざまな角度で実施された複数の研究でも、同様の関係や結果が示され、また、なぜそうなるのかのメカニズムもある程度説明できることが重要です。こういった視点をもち、“食べ物とがんに関する情報”の質を見分ける力を養ってほしい」と、津金先生はいいます。

科学的根拠に基づいた「日本人のためのがん予防法」

 現時点で、科学的根拠に基づいた、最も実行する価値のある予防法として、「日本人のためのがん予防法」が国立がん研究センターから発表されています。これは、WHO(世界保健機関)やWCRF(世界がん研究基金)、AICR(米国がん研究財団)などの食事指針や、日本人を対象に行った研究成果を加味して考えられたものです。
 6項目から成る予防法は、がん予防以外にも糖尿病や高血圧などをはじめとする生活習慣病予防にも応用できます。シンプルな表現でわかりやすいので、自分の生活習慣全体を見直して改善するキーワードとして、ぜひ実践していただきたいものです。

*上記の各項目についての詳しい解説は、国立がん研究センター がん対策情報センターのホームページでも読むことができます。

がんになりやすい食生活、なりにくい食生活

 講演で津金先生は、「日本人のためのがん予防法」の中の食生活に関する項目を中心に、具体的な説明や補足をしました。以下はその内容です。

●飲酒とがん発生のリスク
 適度な飲酒は心筋梗塞や脳梗塞のリスクを下げるというメリットがあります。がんに関しては1日当たりエタノール量約23g(日本酒換算で1合)以内なら、がん全体の発生リスクを上げないことがわかっています。しかし、男性では「ときどき飲酒する人」に比べ、「1日に2~3合飲酒する人」で1.4倍、「3合以上飲酒する人」で1.6倍、がんの発生率が高くなることがわかっています(女性については飲酒習慣のある人が男性ほど多くないので、明確な傾向がみられない)。
 大量飲酒が持続することでなりやすいがんは、口腔がん、咽頭がん、喉頭がん、食道がん、大腸がん、肝臓がん、乳がんなど。飲酒習慣単独より、飲酒習慣に喫煙習慣が加わると、がんの発生リスクがさらに高まることもわかっています。

●食事バランスとがん発生のリスク
 適切な範囲内での体重を維持するために、身体活動で消費するエネルギーと食事からの摂取エネルギーのバランスや、各種栄養素のバランスのとれた食生活が基本です。
 また、「これをとればがんを予防できる」という単一の食品や栄養素は、現時点ではわかっていません。逆に、とりすぎるとがん発生のリスクを上げる可能性のある食品中の成分や、調理や保存の過程で生成される化学物質があることはわかっています。リスクを分散するためにも、偏りのない食事をとることが大切です。

●食塩・塩蔵品とがん発生のリスク
 日本人を対象とした多くのコホート研究(*)で、食塩・塩蔵食品の摂取量が多いほど、胃がんになりやすいことが示されています。
 食塩の摂取量は塩蔵品の食塩含有量も含め、1日当たり男性で9g未満、女性で7.5g未満を目指しましょう。特に漬物、塩辛など、塩分の多い食品は控えめに。
(*)コホート研究とは、数万人以上の特定の集団を対象に生活習慣などを調べ、長年にわたり追跡調査を続ける研究。

●野菜・果物の発がん予防効果
 野菜は、口腔がん、咽頭がん、喉頭がん、食道がん、胃がんの発生リスクを下げ、果物はこれらのがんに加えて肺がんの発生リスクも下げる可能性が大きいことがわかっています。
 野菜や果物のさまざまな成分が、体内で発生した活性酸素を消去したり、発がん物質を解毒する酵素の活性を高めたりする働きがあると考えられています。
 また、野菜や果物は低エネルギー食品なので、エネルギーのとりすぎを防いでいることでも、がんの発生リスクを高めないと考えられます。
 野菜・果物は、1日に合計400g(例:野菜料理を小鉢で5皿・果物を1皿程度)を目安に食べましょう。

●加工肉・赤肉とがん発生リスク
 欧米で行われた多くのコホート研究では、加工肉(ハム・ソーセージ・ベーコンなど)や赤肉(牛・豚・羊などの肉)の摂取量が多い人ほど、大腸がんになりやすいことがわかっています。可能性のある理由として、加工・保存の過程で発がん物質が生成される、フリーラジカル(*)の産生を促進する鉄が多く含まれる、加熱調理の過程で発がん物質が生成される、エネルギーの高い脂肪が多く含まれる――などです。
 これらの摂取は控えめにすることがすすめられます。加工肉は最小限にとどめ、赤肉は1日に71g未満を目安にしましょう。但し、日本人の平均は47g程度のため、多くの日本人は、制限をする必要がないものと思われます。
(*)フリーラジカルとは、電子が1対になっていないために、他の分子から電子を奪い取る力が高まっている原子や分子の総称。活性酸素もその一つ。

●発がんリスクとして疑わしい要因への対処
 「確実あるいは可能性が高い」とわかっていないまでも、発がんのリスク要因と疑われているものは、生活の利便性や嗜好(しこう)とのバランスを考えつつ、なるべく避けたほうがよいでしょう。発がんのリスク要因として疑われているものに、動物性脂肪、肉の焼け焦げなどがあります。

●がん予防効果の可能性があるものの利用
 がん予防効果の可能性があるとされるものは、不足しないようにとるようにしましょう。現在、多くの研究で予防効果の可能性があるとされているものに、食物繊維、大豆イソフラボン、カルシウム、ビタミンD、ビタミンC、カロテノイド、ミネラル、コーヒー、緑茶などがあります。
 たとえば、食物繊維は大腸がん、大豆イソフラボンは乳がん、コーヒーは肝臓がんや子宮体がん、緑茶は胃がんなどのように、各種の成分や食品が、がんの発生リスクを下げることが期待されています。

●サプリメント利用の注意点
 がんの予防効果が証明されたサプリメントは、現状では存在しません。栄養成分は、食事からとることが基本で、むしろサプリメントにより特定の成分をとりすぎないよう注意が必要です。
 高用量のβ-カロテンやビタミンEのサプリメントが、がんや健康障害のリスクを高めることがわかっています。

 最後に会場からの質疑応答の時間もあり、多様な質問に参加者の関心の高さが伺えました。質疑の一つひとつに答えた後、「がん予防のために、あれもダメ、これもダメという食生活を送るのではなく、適度な量とバランスの範囲内で、いろいろな食材を多様な調理法で食べることが、豊かな食生活を送ることだと思います」と津金先生はまとめました。

(編集・制作 (株)法研)

【取材協力】
津金 昌一郎先生


国立がん研究センター がん予防・検診研究センター 予防研究部長
1981年慶應義塾大学医学部卒、85年同大学大学院修了。86年国立がんセンター研究所入所。臨床疫学研究部長などを経て、2003年に同センターがん予防・検診研究センター予防研究部長に就任。その間に米国ハーバード公衆衛生大学院客員研究員を務める。2010年より現職。1990年にスタートした多目的コホート研究の主任研究者。昭和大学医学部客員教授、日本疫学会理事、日本癌学会評議員などを兼務。著書に『がんになる人ならない人』『なぜ、「がん」になるのか?その予防学教えます。』『食べものとがん~がんを遠ざける食生活~』ほか多数。

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