震災後の不安感がまだ続くならPTSDかも
対応能力を超えた激しい苦しみ、悲しみが心の傷として残る
大震災の被災者やその家族・友人はもちろん、遠隔地でニュースを見聞きしていた人にもPTSDは起こり得る
(2011年08月02日)
生死にかかわる強烈なストレスがトラウマとなってPTSDに
職場・学校や地域での人づきあい、将来への不安などから、誰でもストレスは避けられないのが現代です。しかし、その多くは、さまざまな方法で解消されたり、その後の人生の糧にできたりします。
これに対して、今回の東日本大震災のような大規模な自然災害や大事故に巻き込まれた場合は、人づきあいなどから生まれる日常的なストレスとはまったく別物である「心の傷(トラウマ)」を負ってしまうことがあります。その傷は、それまで培ってきた社会への信頼や人生観が一気に覆されるほど深いものであり、その人の忍耐力や対応能力を超えた激しい苦しみや悲しみを伴うような経験によるものです。
こうしたトラウマが原因で起こる精神疾患の一つで、強い不安感や不眠、抑うつ感、さらには悪夢や錯覚などに見舞われるのがPTSD(posttraumatic stress disorder:(心的)外傷後ストレス障害)です。その主な症状は再体験(想起)、回避、過覚醒の3つです。
●PTSDの主な症状
(1)再体験(想起)
原因となった外傷的な体験の感覚がすぐ(意図しないのに)頭に浮かぶ。体験を強く思い出したり(フラッシュバック)、夢に見る(悪夢)。体験を思い出させるような状況に強い恐怖・不安を感じる。
(2)回避
体験を思い出させる場所や物を避ける。つらい感情を避けるための感情の鈍化や絶望感、さらには慢性的な無力感、記憶の部分的な喪失もみられる。
(3)過覚醒
不眠、イライラ感、集中力の低下、過剰な警戒心、音や照明に対する過剰な反応など。
聖路加国際病院精神腫瘍科の保坂隆医師は近著『災害ストレス』の中で、「最近では、PTSDという言葉が一人歩きしてしまい、やや強めのストレスによる精神不安と混同して使われることが多い」と指摘。「PTSDは自分の死を予感するような体験、死にゆく人を目の当たりにするような体験など、日常とは大きな隔たりのある強烈なストレスや耐え難い苦痛を伴う体験がもとになるのです」と解説しています。
否定しない、共感する、安心感を与えるサポートを
生死にかかわるような体験をした直後から前述のような不安症状が現れることがありますが、これはASD(急性ストレス障害)と呼ばれます。これは大きなショックの後に起こる心の正常な反応であり、1カ月ほどかかるものの、多くの場合、自力で乗り越えることができるとされています。
これに対して不安症状が1カ月以上も続く場合をPTSDといい、自力だけでは乗り越えることがむずかしく、専門家による治療や周囲のサポートが必要となります。人によっては、原因となった体験から何カ月もたってから症状があらわれることもあります。
ここで、ASDやPTSDなど不安症状が出ている人に対して、周囲の人がサポートするときに心がけたいポイントを具体例をもとに紹介します。(A=不安症状がある人の訴え/B「ありがちなよくない答え方」→「勧められる答え方」)
A「余震がこわい」
B「もう来ないから大丈夫」→「そうだよね。いつ来るかわからないから本当にこわいよね」
A「昼間一人でいるのはこわい」
B「会社にいたって揺れるから、みんな同じだよ」→「そうだよな、会社にいれば誰か仲間がいるからね。一人のときに揺れたらこわいよね」
つまり、不安症状がある人へのサポートは、「相手の痛みをまるごと受け止めて、否定しない」「相手に共感することで、安心感を与える」ことがポイントになります。
「もとに戻る」より、「新しい自分を育んでいこう」
今回の東日本大震災では、被災地だけでなく遠く離れた地域に住む人にもPTSDに似た症状がみられるのが大きな特徴です。これは大震災発生後の連日の報道や、インターネットなどによる情報の氾濫が影響しているとみられています。大量の映像や音声、文字を通して、多くの人が「もし、私(家族)があの場所にいたら」「もし、自分の家があそこに建っていたら」とわが身に置き換え、被災した人々と「同一化」してしまった可能性があるのです。
被災地以外の人でも、今でもPTSDのような症状のある人は、一度専門家に相談したほうがよいでしょう。
保坂医師は前掲書で、トラウマを乗り越えるためには「『トラウマをもつ前の自分に戻ろう』とするより、『これからの新しい自分を育んでいこう』と考え直したほうが前に進みやすいでしょう。酷な言い方かもしれませんが、体験してしまった事実は消し去ることはできず、時計の針を戻すことは不可能だからです」とアドバイスしています。
この場合、トラウマとなったつらい記憶をいかに消し去るかが課題となります。つらさを人に話してみることが有効ですが、無理に話す必要もありません。「話してみようかな」と思えるまで「待つ」ことです。「話したい相手に、話したいときに、話せるだけ話す」のがよいでしょう。
人に話すこともできずに、悶々としたストレス状態が続くようなら、自分に合った「気晴らし」を見つけてみましょう。新しい趣味を始めたり、散歩をしたり、服装や髪型を変えてみたりしてはどうでしょう。また、周囲に不安症状を抱える人がいたら、散歩や外食に誘ったり、一緒に体を動かしたりしてみましょう。今回のような災害ストレスを受けた本人の回復には、このような「気晴らし」での対処が効果的とされています。
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保坂 隆先生
聖路加国際病院精神腫瘍科医長
聖路加看護大学院臨床教授
1977年慶應義塾大学医学部卒業後、同大学精神神経科入局。90〜92年カリフォルニア大学ロスアンゼルス校(UCLA)精神科留学。東海大学医学部精神科学助教授、教授などを経て、2010年より現職。横浜市大医学部客員教授、京都府立医大客員教授。精神保健指定医。専門分野は精神医学、心身医学、コンサルテーション・リエゾン精神医学、サイコオンコロジー、緩和ケア、予防医学など。日本総合病院精神医学会理事、日本サイコオンコロジー学会常任世話人などを務める。近著に「災害ストレス」(角川書店)など。

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