先天的に免疫系のどこかに異常が存在する場合を原発性(先天性)免疫不全症といいます。細菌、ウイルス、真菌、寄生虫などにかかりやすく(易感染性(いかんせんせい))、感染症を繰り返したり、日和見感染(ひよりみかんせん)を起こしたり、重症な感染症に陥ったりします。
 現在は以下の8種類に分類されています。(1)T細胞およびB細胞免疫不全症、(2)主として抗体不全症、(3)他のよく定義された免疫不全症候群、(4)免疫調整不全の疾患、(5)食細胞(しょくさいぼう)の数・機能・両方の先天性障害、(6)自然免疫系の障害、(7)自己炎症性疾患、(8)補体(ほたい)不全症。ここではそのなかでも頻度が高く重要な、いくつかの疾患について解説します。

重症複合免疫不全症(じゅうしょうふくごうめんえきふぜんしょう)

原発性(先天性)免疫不全症とはどんな病気か

 Tリンパ球とBリンパ球の両方に先天的な欠陥がある病気で、重症な細菌性、ウイルス性その他の感染症を繰り返し、致死的な感染症のため血液幹細胞(かんさいぼう)移植や遺伝子治療によって免疫機能が再建されなければ、大多数の患者さんが生後1歳前後までに死亡します。

原因は何か

 X(染色体)連鎖型(れんさがた)、あるいは常染色体劣性型(じょうせんしょくたいれっせいがた)による遺伝子の変異により、リンパ球減少や低γ(ガンマ)‐グロブリン血症を来し、重症の細胞性免疫能の欠陥と特異抗体の欠乏症を示すことが原因です。

症状の現れ方

 生後まもなくより反復する細菌、ウイルスによる気道感染、皮膚・口腔粘膜のカンジダ症肺炎膿胸(のうきょう)、敗血症(はいけつしょう)、間質性(かんしつせい)肺炎などの易(い)感染性(感染しやすい)を特徴とし、生後5カ月ころから難治性下痢症による体重増加不良が顕著になります。

検査と診断

 免疫学的所見として、末梢血リンパ球数は減ります。血清免疫グロブリンはすべてのクラスが欠乏します。時には低値ながらも認められることもありますが、抗原に特異的な抗体は完全に欠如します。遅延型過敏反応、細胞障害反応などのT細胞機能も欠如します。

治療の方法

 組織適合抗原(HLA)が一致した同胞からの血液幹細胞移植によって、約90%が免疫機構を再建し直すことができるとされています。また、一部の疾患では遺伝子治療の成功例が報告されています。

ウィスコット・アルドリッチ症候群(しょうこうぐん)

原発性(先天性)免疫不全症とはどんな病気か

 血小板減少、難治性湿疹(なんちせいしっしん)、易(い)感染性(感染しやすい)を特徴とし、進行性のTリンパ球機能不全と、一部の抗体欠乏を伴うX連鎖劣性遺伝形式をとる原発性免疫不全症です。

症状の現れ方

 初発症状は乳児期の血便、紫斑などの出血傾向で、次いで難治性の湿疹、易感染性が認められ、食物抗原に対する即時型反応も乳児早期から認められます。死亡原因は乳幼児期の出血、感染とリンパ網内系(もうないけい)の悪性腫瘍です。この時期を乗り切ると長期生存も可能ですが、長期生存例では自己免疫性疾患、悪性腫瘍の合併が高い頻度でみられます。

検査と診断

 末梢血中の血小板容積の縮小と血小板数の減少が診断の手がかりになります。血清IgM値、末梢血リンパ球数は年齢とともに減少します。総IgE値、特異IgE抗体価は乳児期から高値・陽性を示します。

治療の方法

 根治的な治療は、組織適合抗原(HLA)の一致した骨髄血(こつずいけつ)ドナー、もしくは臍帯血(さいたいけつ)からの血液幹細胞移植です。ドナーからのTリンパ球だけが生着した場合でも免疫機能は再建されます。血液幹細胞移植による治療前の静注用免疫グロブリンの補充、つまり置換(ちかん)療法は感染予防に有用です。
 脾臓(ひぞう)の摘出は出血傾向のコントロールとして有効で、血小板数・平均血小板体積の上昇が認められます。

毛細血管拡張性運動失調症(もうさいけっかんかくちょうせいうんどうしっちょうしょう)

原発性(先天性)免疫不全症とはどんな病気か

 小脳性運動失調症、錐体外路(すいたいがいろ)症状、毛細血管拡張ならびに気道感染の反復を主症状とする常染色体劣性の遺伝疾患である原発性免疫不全症です。

症状の現れ方

 幼児期に進行性の小脳性運動失調、時に錐体外路症状で発症することが多く、次いで眼球結膜、耳介(じかい)・胸部などの皮膚の毛細血管拡張が生じます。さらに慢性気管支炎肺炎気管支拡張症などの気道を中心とする易(い)感染性(感染しやすい)を示すようになります。年長児においては呼吸不全非ホジキンリンパ腫白血病(はっけつびょう)などの悪性腫瘍の合併が高い頻度で生じ、予後を左右します。

検査と診断

 頭部CT、MRIでは小脳虫部(しょうのうちゅうぶ)の著しい萎縮が認められます。血清α(アルファ)‐フェトプロテインの上昇、線維芽細胞(せんいがさいぼう)とリンパ球の放射線照射によるDNA修復の障害があります。また末梢血Tリンパ球の減少と機能低下、血清IgA、IgE、時にIgG2、IgG4の欠如が認められます。

治療の方法

 IgGサブクラスの欠乏がある症例では、免疫グロブリン置換療法が行われますが、根治的な治療法はまだありません。早期から継続的な理学療法(運動療法など)と言語療法を行います。

原発性補体欠損症(げんぱつせいほたいけっそんしょう)

原発性(先天性)免疫不全症とはどんな病気か

 補体とは、生体に侵入した微生物を排除する生体防御のはたらきをしている一群の蛋白質の総称です。この補体成分、あるいは補体制御因子が先天的に欠損、あるいは機能異常を示す病気が原発性補体欠損症で、多くの種類が報告されています。
 遺伝形式はX連鎖劣性遺伝、常染色体優性遺伝のものもありますが、多くは常染色体劣性遺伝形式を示すものです。免疫複合体病のようにアレルギー症状を示すものや、易感染性(感染しやすい)を示すものがあります。

治療の方法

 治療としては、合併する感染症、膠原病(こうげんびょう)・血管炎(けっかんえん)の治療が中心となります。肺炎球菌(はいえんきゅうきん)、髄膜炎菌(ずいまくえんきん)ワクチンが感染予防に有用な場合もあります。補体制御蛋白欠損症(ほたいせいぎょたんぱくけっそんしょう)のなかのC1(補体第1因子)インヒビター欠損症では、発症の予防に男性ホルモン剤(テストステロン、ダナゾール)が有効です。また、C1(補体第1因子)インヒビター濃縮製剤は日本でも使用できます。

X連鎖無γ(エックスれんさむガンマ)‐グロブリン血症(けっしょう)

原発性(先天性)免疫不全症とはどんな病気か

 γ‐グロブリンの低値または欠如により、1歳過ぎから細菌に対する易(い)感染性(感染しやすい)と重症化が認められるX連鎖劣性遺伝形式の免疫不全症です。
 原因となる遺伝子はX染色体にあるチロシンキナーゼで、多様な遺伝子変異が認められています。

症状の現れ方

 感染症は、母親から来るIgG抗体が消える乳児期後半(生後6〜9カ月以降)から認められます。主として膿皮症(のうひしょう)、気管支炎肺炎骨髄炎髄膜炎敗血症などの細菌感染がしばしば認められます。多くの例で慢性進行性の気管支拡張症を生じ、最終的には肺合併症で死亡する危険性が高くなります。

検査と診断

 すべての免疫グロブリンのクラスが著しく減ります。血中IgGは多くの例で200mgdl以下であり、IgA、IgMは欠如します。末梢血中のBリンパ球が著しく減ります。
 診断は血清IgG値が200mgdl以下で、他のIgアイソタイプも欠損すること、末梢血中のB細胞数は1%以下であること、乳幼児期から細菌感染を主とする易感染性が認められること、T細胞は正常であることなどで疑われます。

治療の方法

 静注用免疫グロブリンの置換療法が行われます。1カ月あたり400〜500mgkgの投与が行われます。一般的には血清免疫グロブリン値が谷間値(トラフ値)で少なくとも500mgdl以上を維持するように調節します。