高齢者での特殊事情

 老年期うつ病とは、老年期(65歳以上)の方がかかるうつ病のことで、“気分がめいる”、“物事に対する興味や喜びがない”、“食欲がない”、“よく眠れない”、“いつも体がだるい”、“集中できない”などといった症状が2週間以上にわたってほとんど毎日続く状態です。症状がとても重たいと死んでしまいたいと考えてしまうこともあります。
 とくに老年期うつ病の場合、老化に伴う身体の機能の低下も伴ってふらつき、しびれ、頭が重い、肩こり、腰痛、便秘などの身体症状が前面に出ることがあります。
 高齢者のうつ病の場合、体の状態についての配慮と認知症との区別が大切です。実際、認知症の初期の症状として、しばしばうつ症状が出ることがあります。“老年期うつ病”と“認知症に伴ううつ症状”では検査、治療、病状の経過の点などで異なるため、その見極めが大切となります。うつ病により、気力や集中力が落ちてしまうため、記憶力や知的機能が低下し、一見認知症のように見えることもあります。専門医の診察とご家族からの情報が重要です。診断にはある程度の期間が必要なこともあります。
 なお、老年期の精神・神経の病気を専門的に診る“老年精神医学会認定専門医”や“認知症学会認定専門医”など専門医制度が充実しつつあり、インターネットでも専門医がいる病院やクリニックの検索ができます。
 うつ病になってしまうきっかけとして、とくに高齢者の場合は病気やけが、配偶者の死などがあげられます。今後高齢化に伴って、老年期のうつ病は増加する可能性が高いと考えられます。

必要な検査と疑われる病気

 現在のところ、うつ病を検査で診断することはできません。むしろ、高齢者の場合、認知症(にんちしょう)や脳梗塞(のうこうそく)、慢性硬膜下血腫(まんせいこうまくかけっしゅ)、その他の内分泌器官や心臓をはじめとする体の病気を伴ったうつ状態でないかどうかを、血液検査や脳のMRI、脳血流シンチ(SPECT)などで調べておく必要があります。体の病気を伴ったうつ状態の場合、うつ症状の治療に加えて、原因となっている病気の治療が重要です。

家庭での対処のしかた

 前述した症状が続いている場合、まずはかかりつけ医に相談しましょう。というのも、精神科、神経科、心療内科はまだ敷居が高く、患者さんや家族も気軽に受診できないことが少なくないからです。
 検査をしても異常がないのに症状が続くとか、ふらつきやおなかの症状などに対する薬をのんでも改善しない場合、必ず精神科、神経科、心療内科のいずれかを受診するようにすすめてください。どうしても本人が嫌がる場合、まず家族だけで相談に行ってみてください。
 うつ病であることが明らかになれば、十分な休養が必要になります。一般的に、「がんばれ」とか「気持ちのもち方だ」といった励ましは、病気を悪化させてしまうことがあります。具体的にどのように接すればよいかは、病状と病気の期間、患者さんの性格によるので、主治医に相談しましょう。
 また、自殺のおそれが強い時や、外来治療でなかなか改善しない時、家族の人が看病で疲れきっている時などは、入院治療が望ましいと考えられます。

治療とケアのポイント

 治療にはまず、十分な休養、食事、睡眠に加えて、適切な薬を服用することが大切です。
 うつ病に対する薬は、以前は主作用(うつ症状を改善させる作用)が生じるまで1〜2週間かかり、副作用(眠気、便秘、のどの渇きなどの好ましくない作用)のほうが先に生じてしまうことが多く、高齢者の場合はのみ続けるのが難しいこともありました。
 しかし最近の医療の進歩により、SSRIやSNRI、NaSSAと呼ばれる比較的副作用の少ない薬が使われています。また、ひとつの治療薬が効きにくくても、別の種類の薬が効く場合もあります。医師は、主作用と副作用のバランスを本人と家族の情報をもとに、考慮しながら適切な薬を選びます。
 再発にも注意する必要があります。よくなったからといって、急に薬をやめてしまうのは問題があります。回復してからも一定期間は薬をのみ続け、徐々に減らしていくのが一般的です。
 ケアのポイントとしては、基本的に休養が必要なので、無理に気分転換をすすめず、ゆっくりできる環境をつくってあげることです。重要な決断や仕事はひかえ、活動を再開する時はリハビリテーションをするような形で、ゆっくり行うことが大切です。
 治療が長引き、家族の負担が大きい場合、主治医とよく相談したうえで入院したり、デイケアやホームヘルパー、訪問看護などの介護サービスを利用することも助けとなります。