弁膜疾患<お年寄りの病気>の診断と治療の方法

 手術の必要がなく、自覚症状がない場合では、合併症の治療が主となります。
 10〜20%の人に、不整脈の一種の心房細動(しんぼうさいどう)がみられます。心房細動では、心房内に血液がよどんで血栓ができやすく、また心拍数に対する自律神経の調節が効きにくいので、運動・興奮・発熱などですぐに頻脈になり、脳血栓(のうけっせん)や心不全(しんふぜん)を起こしやすいことが知られています。
 血栓予防のための薬剤(ワルファリン)による抗凝固療法と、頻脈予防のために心拍数のコントロール(β(ベータ)遮断薬、カルシウム拮抗薬、ジギタリス製剤など)が必要です。
 胃潰瘍脳出血後間もないなど、出血の危険性が高いケースで、抗凝固療法ができない場合は、代わりに抗血小板療法と胃潰瘍予防薬の併用や、血栓予防を行わない選択をすることもあります。
 重症の心不全に対しては、塩分制限、安静のほか、利尿薬、アンジオテンシン変換酵素阻害薬、アンジオテンシン受容体拮抗薬、強心薬などが適宜使用されます。
 しかし、狭心痛、失神、心不全などの症状がある時は、内科的治療よりも外科的治療のほうが予後がよいとされ(70歳以上でも5年生存率約80%)、ほかに重大な病気がなければ、最近では80歳前後でも外科的治療法を考慮すべきです。待期的弁置換(ちかん)手術の危険度は、若〜壮年者より高くはなるものの、許容できる範囲になってきています。
 また、高齢者では耐用性において若干不利でも、手術後の抗凝固療法を必要としない生体弁を利用したり、弁の形態に工夫をして有効弁口面積を大きくした人工弁を採用することで、術後の生活の質(QOL)の改善を図ることなどが行われています。
 鼠径部(そけいぶ)(脚の付け根)の動脈から挿入した風船付きカテーテルによる大動脈弁形成術は、70%近くに再狭窄が起こること、死亡や緊急手術に至る危険性が高いことなどから、緊急の場合を除いて積極的には行われなくなっています。近年、器具の改良が進み、カテーテルによる人工弁の留置などの新たな手技が開発されつつありますが、日本では器具の認可の問題もあり、まとまった報告はまだほとんどないようです。
 心房細動の治療は大動脈弁の場合と同様ですが、抗凝固療法(ワルファリンの投与など)はより厳密に行います。
 息切れ、疲れやすい、むくみ、肝障害などの症状が現れた場合には、塩分制限、運動量または日常活動量の制限や、内科的治療(利尿薬、アンジオテンシン変換酵素阻害薬、アンジオテンシン受容体拮抗薬、硝酸薬など)に加え、手術療法を考慮します。
 狭窄症では、風船付きカテーテルを使った経皮的僧帽弁交連切開術(こうれんせっかいじゅつ)(PTMC)を、体の負担が少ない治療法として選択することが考えられます。しかし、弁や弁下組織の石灰化が進行している場合には再狭窄の頻度が高いなど、長期的には好ましくなく、閉鎖不全症を合併している時には逆流が悪化するおそれもあります。
 また、弁を取り換えないで行う手術として、狭窄症では弁交連(僧帽弁は前尖(ぜんせん)と後尖(こうせん)の2枚の弁からなり、この前尖と後尖の接合部)の癒着(ゆちゃく)を切り開く後連切開術、閉鎖不全症では弁を外科的に修復する弁形成術や補助的なデバイスを用いる手術により、弁全体の置換を回避することが可能なこともあります。しかし、弁、弁下部、弁輪の石灰化の強い場合にはこの方法は使いません。
 僧帽弁置換(ちかん)手術は大動脈弁置換手術よりリスクが少し高くなりますが、症状が出ている場合には内科的治療に比べて、生活の質の向上とその後の体力の回復が見込めます。