高齢者での特殊事情

 胃には、良性から悪性まで多様な腫瘍が発生しますが、臨床的に問題となる悪性腫瘍の95%程度は胃がんです。そのほかでは、リンパ腫や消化管間質腫瘍(しょうかかんかんしつしゅよう)(GIST)などが代表的な胃の腫瘍ですが、胃の悪性リンパ腫は40〜60代、GISTは50〜60代に多くみられるため、ここでは高齢者にも患者さんの多い胃がんに関して解説します。
 高齢者の胃がんは男性に多く、胃の出口近くにできる隆起型の高分化腺がんといわれる、ゆっくり進行するタイプのがんがよくみられます。これに対して、進行の速いスキルス胃がんと呼ばれる未分化がんは、胃の上部に発生しやすく、若い女性に多くみられます。
 高分化腺がんは、胃の表面にある粘膜が薄くなる萎縮性胃炎(いしゅくせいいえん)を母地として発症してきます。
 慢性の萎縮性胃炎は、高齢者で高頻度にみられます。以前は加齢による変化と考えられていましたが、近年、ヘリコバクター・ピロリという菌の感染が主因であることが明らかになりました。
 ただ、ピロリ菌感染者が胃がんを発症する頻度は0・5%程度と推定されており、胃がんの発症にはピロリ菌だけではなく、さまざまな発がん因子が影響し合っているようです。たとえば、魚や肉に含まれ、こげると増量するニトロソアミンは、胃がんの発がん物質として知られており、塩分には胃がんの発生を促進する作用があることがわかっています。
 近年、ピロリ菌を抗菌薬で除去することにより、胃がんの発症が抑えられることがわかり、日本ヘリコバクター学会は除菌をすすめています。

治療とケアのポイント



 胃がんの治療は長い間、外科的手術が第一選択とされ、胃の3分の2から、場合によっては全部をとる手術が標準とされてきましたが、近年では治療後の生活の質(QOL)を保つために、切除範囲をなるべく小さくする努力がなされています。日本胃癌学会が作成した胃がんの進行度別の治療ガイドラインによれば(表3)、胃の粘膜に限局したがんであれば、内視鏡を使った局所切除術が第一選択の治療となっています。高齢者には前述のように隆起型の分化型がんが多いため、早期に発見すれば内視鏡による切除のよい適応となります。
 進行した胃がんに対する外科手術では、がんが転移しやすいリンパ節を広範囲に切除することが推奨されています。しかし、高齢者の場合は広範囲の切除で体力を消耗すると肺炎などの術後合併症を伴いやすく、入院が長期化する傾向にあります。高齢者の長期臥床(がしょう)は筋力の低下を招き、認知症の進行を促す場合があるため、なるべくすみやかに離床を進めることが必要です。
 したがって高齢者の胃がん手術では、根治性と安全性のバランスを考え、取り残しを極力減らしながら、切除範囲をなるべく小さくする努力が要求されます。術後の抗がん薬も、現時点では有効性の確立した薬剤はないため、高齢者では副作用との兼ね合いから使用しないほうがよい場合も多いようです。

その他の重要事項

 胃がんの死亡率は、1960年ころから各年齢層で減少が続いており、人口の高齢化にもかかわらず、80年以降は死亡総数も減少し始めました。これは早期がんで発見される比率が増加し、救命される患者さんが増えているためです。
 胃がんは発見が早ければ早いほど、体への負担が少ない治療で治癒が期待できます。しかし、進行するまで自覚症状を伴わない場合が多く、早期発見のためには無症状であっても定期的な検診が必要となります。
 胃がんの診断には、バリウムを飲む胃X線透視(とうし)と内視鏡検査がありますが、高齢者では検査中の体位変換や、検査後のバリウムによる便秘の問題があり、内視鏡検査のほうが推奨されます。
 血液検査による胃がんの検診としては、血清ペプシノゲン値を測定して分化型がんの高危険度群である萎縮性胃炎の患者さんを見つけて、精密検査する方法があります。胃がんの腫瘍マーカーにはCEAやCA19‐9などがありますが、早期診断には無効であり、主に進行がんの術後の再発予測などに用いられています。