高齢者での特殊事情

 尿が出にくい(排尿困難(はいにょうこんなん))、尿がもれる(尿失禁(にょうしっきん))、尿が出る回数が多い(頻尿(ひんにょう))、尿が出る時に痛い(排尿時痛(はいにょうじつう))といった症状は、排尿障害としてまとめられます(泌尿器(ひにょうき)、生殖器(せいしょくき)の症状)。
 尿が出にくい、頻尿があるという場合は、高齢男性では前立腺肥大症(ぜんりつせんひだいしょう)、あるいは膀胱を支配している神経に異常がある神経因性膀胱(しんけいいんせいぼうこう)が考えられます。特殊な場合として、何らかの原因で尿道が狭くなっている状態(尿道狭窄(にょうどうきょうさく))、あるいは膀胱、尿道に結石が存在することも考えられます。
 高齢女性の排尿困難、頻尿では、過去に子宮がんの手術などを受け、膀胱を支配する神経が損傷されたために起こる神経因性膀胱が原因になっていることが多いようです。まれに、子宮筋腫(しきゅうきんしゅ)による膀胱の出口の圧迫、尿道狭窄膀胱結石が原因になっていることもあります。
 高齢男性に多い前立腺肥大症については、次項で解説しているので参照してください。時に前立腺がんの心配があるので、血液中の前立腺腫瘍マーカー(PSA)、専門医による前立腺の触診、超音波検査、前立腺生検(針を刺し前立腺の組織片を取り出して顕微鏡で調べる)で確かめる必要があります。


 高齢の男女に共通してみられる排尿障害の原因として多いのが神経因性膀胱なので、以下、これについて解説します(表9)。

●神経因性膀胱(しんけいいんせいぼうこう)


 排尿を司っている神経は、仙髄(せんずい)を中枢として膀胱を支配している末梢神経系と、仙髄より上位の神経系である脳と脊髄(せきずい)からなる中枢神経系の2系統に大きく分けることができます(図6)。したがって、これら神経系のどこかが障害を受けると排尿障害が起こります。この状態を神経因性膀胱といいます。

末梢神経の障害

 一般に、子宮がん、直腸がんなどでの骨盤内の大きな手術、糖尿病、脊椎二分症(せきついにぶんしょう)などにより末梢神経が損傷されると、膀胱は弛緩(しかん)し、排尿筋の収縮が不十分になります。そのため尿の出が悪く、排尿後でも膀胱内に尿が残ること(残尿)が多く、しばしば膀胱炎を繰り返す状態になります。これを弛緩性(低緊張性)神経因性膀胱といいます。
 治療としては、糖尿病などの基礎疾患があれば、その治療が第一です。
 排尿については、十分時間をかけることで残尿を少なくします。排尿筋に力をつける薬剤(ウブレチドなど)を投与することもあります。
 残尿が極度に多い場合には、尿が膀胱から尿管へ逆流し、腎臓の機能を障害することもあるので、予防策として1日に1〜2回、清潔なカテーテルを自分で膀胱内に挿入し、尿を排出させる方法(自己導尿法(じこどうにょうほう))も行われます。

中枢神経の障害

 脳卒中(のうそっちゅう)、腫瘍、外傷、原因不明で神経が病的に変化する疾患(筋萎縮性側索硬化症(きんいしゅくせいそくさくこうかしょう)などの神経の変性疾患)、脊椎二分症などの先天性疾患等によることがあります。
 中枢神経系が侵された場合は、末梢神経系だけがはたらき、排尿筋は意思と関係なく勝手に収縮し、尿もれの状態になるはずです(無抑制性(むよくせいせい)神経因性膀胱)。しかし、障害の場所・程度によっては、必ずしも尿もれの状態とならず、かえって尿が出にくい状態になることもあります。

診断にあたって

 排尿筋の収縮の程度、外尿道括約筋(がいにょうどうかつやくきん)と排尿筋の連携の問題など、排尿についての複雑な要因が関連し、さまざまな排尿状態が起こってくるといえます。
 したがって、まず根底にある病気(原因疾患)が何であるかをはっきりさせるとともに、排尿についての日誌(排尿感覚の有無、意識して排尿した時刻・量、残尿感、意識して排尿した以外の尿もれの有無と量)をきちんと記録して、排尿状態を把握します。そのうえで、必要に応じて膀胱内圧測定などを行い、どのタイプの神経因性膀胱かを診断します。

治療とケアのポイント

 原因疾患の治療が必要なことはいうまでもありませんが、神経因性膀胱については意識的に一定間隔で排尿させ、尿もれがなく、残尿を少なくすることを目標として、個々の場合に応じた治療方針を立てます。
 一般的に治療が難しいことが多いのですが、排尿日誌をつけて、排尿状態をきちんと観察することにより、はじめて診断、治療が円滑に行われます。患者さんと介護側、医療側の熱意と努力により、治療結果が左右されることが多いといえます。