甲状腺疾患は大きく分けて甲状腺機能に異常が生じる場合と、そうでない場合に分類されます。前者には甲状腺機能亢進症(こうじょうせんきのうこうしんしょう)と甲状腺機能低下症(ていかしょう)があり、後者には腫瘍性疾患があります。機能異常を示す疾患でも甲状腺がはれてきます。

高齢者で甲状腺機能異常を示す病気


(1)甲状腺機能亢進症

 多くはバセドウ病です。バセドウ病は、甲状腺刺激ホルモン受容体に対する自己抗体が免疫系で過剰につくられ、これが甲状腺を刺激するため、甲状腺ホルモンが大量に分泌される、本来は免疫の病気です。
 頻脈(ひんみゃく)、発汗、やせ、いらいら感、下痢などの症状が出現します。心臓の機能が亢進するため動悸(どうき)を覚えますが、動脈硬化があると不整脈(心房細動(しんぼうさいどう)など)を生じます。女性に多いとされていますが、高齢者では必ずしもそうではありません。甲状腺は腫脹(しゅちょう)(はれる)しますが、腫脹しないこともあります(とくに男性)。
 血液中の甲状腺ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、甲状腺刺激ホルモン受容体抗体、チロキシン結合グロブリンを測定すれば診断は容易です。甲状腺ホルモン分泌を抑制する抗甲状腺薬の投与で症状は改善しますが、自己免疫機序による病気なので再発は避けられません。チロキシンを投与することで再発率は低下します。
 甲状腺機能亢進症を示す高齢者にみられる疾患として、バセドウ病以外に破壊性甲状腺炎(慢性甲状腺炎(まんせいこうじょうせんえん)や亜急性(あきゅうせい)甲状腺炎での甲状腺破壊)、甲状腺腺腫(せんしゅ)(プランマー病)などがあります。
(2)甲状腺機能低下症
 多くは慢性甲状腺炎橋本病ともいう)です。甲状腺に対して破壊性の自己抗体が過剰に作られ、それによって甲状腺からの甲状腺ホルモン分泌が低下する、本来は免疫の病気です。
 徐脈(じょみゃく)、寒がり、難聴、肥満、声がれ、便秘、脱毛、皮膚乾燥など、いわゆる通常の高齢者にみられる状態に似た症状を示すので、高齢者では放置されているケースがしばしばみられます。血清コレステロールが高値となり、時に重症な動脈硬化症を来していることがあります。
 血液中の甲状腺ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、甲状腺に対する自己抗体(抗サイログロブリン抗体、抗甲状腺過酸化酵素抗体(こうこうじょうせんかさんかこうそこうたい))、チロキシン結合グロブリンを測定すれば診断は容易です。治療は甲状腺ホルモンの補充で、チロキシン製剤を投与します。トリヨードチロニン製剤や甲状腺乾燥末は投与してはいけません。また急激な過剰投与は、心筋梗塞(しんきんこうそく)など重症の急性冠動脈疾患を引き起こすので投与は慎重にすすめます。
 治療中、血清チロキシン結合グロブリンが低下し、甲状腺刺激ホルモンも低下する時はとくに注意を要します。維持量が決定されたら、一生、これを服用します。症状が改善したからといって減量あるいは中止すると1〜2カ月内に症状は悪化します。
 バセドウ病慢性甲状腺炎も自己免疫が原因で、1人の人に同時に存在することがあります。そのため、病気の発症の仕組みはよく似ていると考えられています。また、これらの病気は家族性に発症しやすい傾向があるので、家族に甲状腺の病気の人がいる場合、これらの病気を疑うことが重要です。
 高齢者ではほかの自己免疫疾患、たとえば関節リウマチシェーグレン症候群の併発がよくみられます。

高齢者での甲状腺腫瘍性疾患


(1)甲状腺がん

 高齢者では甲状腺がはれてくる病気がたくさんあります。通常は良性の腺腫あるいは腺腫様甲状腺腫で、とくに治療を要するものではありませんが、なかにはがんを含んでいる場合があります。甲状腺エコーなどの画像診断は有効な診断手法です。
 甲状腺がんにはあまり悪性化しないものから、発見してから数カ月後には死亡する極めて悪性のものまであります。高齢者では未分化がんといって、重症となるがんが多いのが特徴です。針を刺して細胞組織を採取し検査する針生検で病理診断をつけ、外科的に治療するのが一般的です。なお、針生検は危険を伴うので、専門医が行います。
 しかし、未分化がんは気道や血管の閉塞(へいそく)を生じ、頸部(けいぶ)の神経を傷つけ、さらに転移をして外科的治療を困難にします。放射線治療や抗がん薬を使う化学療法がありますが、一時的には軽快してもすぐに再燃するのが一般的です。
(2)甲状腺原発悪性リンパ腫
 甲状腺を原発巣とするリンパ腫です。基礎疾患に慢性甲状腺炎橋本病)があることが多く、免疫系との関連が示唆されています。急速にリンパ腫が大きくなり、触れると甲状腺が硬くなっているのがわかります。
 病理学的に検査し、治療は通常、化学療法が効果を示します。急速に腫大する時は、気道の閉塞などを起こし、しばしば重篤になります。