高齢者での特殊事情

 高齢者にみられる感染症の大半は、口腔、気道や腸管内の常在菌(じょうざいきん)が宿主(しゅくしゅ)条件の悪化とともに感染症の原因となって起こるもので、内因性感染症(ないいんせいかんせんしょう)と総称されています。ここでは、これらのうち代表的な感染症について概説します。


 高齢者では、加齢による身体諸機能の低下や、特定臓器の慢性障害をもっている頻度が高くなります(表15)。これらを背景としてさらに加齢に伴う全身的な免疫能の低下が進行すると、感染防御力の弱い臓器から感染症が発症してきます。
 このため、経過は急速で症状は重く、再発・再燃を繰り返し、やがて難治化、慢性化すると回復にも時間がかかります。その間、臥床(がしょう)安静を強いられると、日常生活動作(ADL)が低下して「寝たきり」になってしまう場合がしばしばみられます。この状態になると低栄養になりやすく、また、必然的におむつの使用や、導尿、尿道留置カテーテルなどの医療行為を受ける機会も増えます。
 これらが誘因となって、さらに新たな感染症が発症する悪循環に陥ることが多く、看護・介護上の大きな問題点になっています。近年、抗菌薬の進歩は目覚しく、感染症の治療は比較的容易になったようにみえますが、このような理由のために、高齢者の感染症による死亡の割合は改善していません。
 今日、高齢者では、すべての感染症を極力予防することが最重要課題ですが、高齢者の特殊性として、発見・診断・治療が遅れやすいのも事実です。たとえば、肺炎にかかっても、発熱、咳(せき)、胸痛などの固有の症状はほとんど認められずに、初発症状として食欲不振、無気力、ぼけ、尿失禁、せん妄(軽い意識障害)、脱水症状(口腔内乾燥、尿量減少、意識障害、脈拍増加、血圧低下など)などを示す場合がしばしばあり、感染症以外の病態を疑われて見当違いの治療を受けているケースも見受けられます。
 したがって、いつもと違う様子がみられた時には、常に何らかの感染症の可能性を考えて、注意深く観察するとともに、早期に受診して、検温、胸部X線、血液、尿など、必要な検査を受けることが極めて重要です。

日頃の予防が大切

 高齢者ではしばしば感染症を契機として、栄養状態の悪化や呼吸不全、心不全の増悪(ぞうあく)をまねき重症化する場合があります。したがって、日ごろの感染予防が大切で、かぜの予防はもとより、インフルエンザワクチンや肺炎球菌に対するワクチンなど、予防接種も積極的に受けておくことが近年すすめられています。
 また、看護・介護上の留意点として、日常は栄養管理を十分に行って感染防御力の低下を防ぎ、とくに、長期寝たきり状態の高齢者に対しては、呼吸器感染症の予防として、定時の口腔内ケアを行い、誤嚥(ごえん)や気道への異物吸引に注意します。また、褥瘡(じょくそう)(床ずれ)の予防として体位変換や改良ベッド(エアマットなど)を使用し、便などによる皮膚の汚染に注意して創部への感染を予防します。さらに、排尿管理として、上体起こしによる尿流の促進を行って尿の停滞を改善します。一方、適切な水分補給で一定の尿量を確保し、尿路感染症の増悪防止を心がけることが肝要です。