高齢者での特殊事情

 年をとると、しだいに耳が遠くなってきます。会議で相手の言葉が聞き取りにくい、聞き返すことが多くなるなど、これらは紛れもなく難聴(なんちょう)の症状です。こうした加齢に伴う難聴を老人性難聴と呼びます。
 人の聞こえの域値は、20代を頂点にしてその後は徐々に悪くなります。65〜70歳ぐらいになると約4分の1の人が難聴を自覚するようになりますが、難聴の程度や進み具合にはかなりの個人差があります。これは、加齢現象が個人によって異なるのに加えて、聴覚がその人の今までの病歴や生活史にも深く関わっているためです。
 脂質異常症糖尿病などの生活習慣病は、聴力の低下にも影響します。また、騒音環境下での職業歴や、兵役時などの音響外傷の有無、頭部外傷の有無、服薬歴なども聴力に影響します。抗がん薬や抗菌薬のなかには、難聴を起こしやすい薬剤も知られています。
 老人性難聴は、初めは難聴というより、むしろ耳鳴りとして自覚することがあります。難聴は徐々に進行するため、自ら聴覚の低下を自覚していない高齢者もいます。
 また、聞こえの悪さに気がついていても、難聴を認めたがらない高齢者もいます。このため、検診で聴力の低下を指摘されたり、日常のコミュニケーションがうまく図れずに、困った家族に促されて受診するケースが多くあります。
 難聴の訴えは、「耳が遠くなった」「音が聞こえない」といった聴力の低下のほか、「音は聞こえるが何をいっているかわからない」「まわりが騒がしいと聞き取れない」など、言葉の聞き取りの悪さを訴えることが多いのも高齢者の特徴です。
 一方、高齢者の難聴の問題点としては、聴覚によるコミュニケーション能力の低下が心理面にも少なからず影響することがあげられます。つまり、コミュニケーションがうまくできなくなると、自閉的になり社会的な疎外感(そがいかん)を感じたり、他人との交流を避けるようになりがちです。さらに、難聴を放置しておくと引きこもり、認知症うつ病の原因にもなります。
 このため、難聴があまり進行していないうちから補聴器の装着をすすめ、積極的にコミュニケーションの場に参加するよう促す必要があります。

治療とケアのポイント

 残念ながら、老人性難聴を治す治療法はありません。聴力管理をしながら補聴器の装着などを指導し、積極的にコミュニケーション能力を維持するよう努めます。補聴器の使用は、難聴の程度、本人の意欲、生活環境によって決定します。一般的に高齢者の場合は、平均聴力レベルが45〜55dB(デシベル)以上であれば補聴器の適応となりますが、社会生活上のニーズがあれば30〜35dBでも補聴器の装着をすすめることがあります。
 一方、高齢者の難聴のすべてが老人性難聴ではなく、難聴を起こす病気を区別する必要があります。外耳・中耳の病気では、適切な治療によって聴力の改善が期待できます。耳垢栓塞(じこうせんそく)、滲出性中耳炎(しんしゅつせいちゅうじえん)慢性中耳炎などがあげられます。
 最近では、高齢者における聴力改善手術も広まっています。また、突発性難聴(とっぱつせいなんちょう)メニエール病など急激に発症した難聴では、早期に対応することで治療できる病気もあります。したがって、難聴を自覚した時は迷わず耳鼻咽喉科を受診することが重要です。

その他の重要事項

 補聴器指導では、難聴に対する本人の自覚を促し、聴覚によるコミュニケーション能力の改善に対する意欲を高めるように指導します。患者さん本人だけでなく周囲の人を含めた理解も重要です。
 補聴器の装着に際しては、(1)補聴器に過大な期待を抱かないこと、(2)補聴器は調整が重要であること、(3)練習して上手に使えばきっと役に立つことなどを繰り返し説明します。
 補聴器を装着する時は必ず耳鼻咽喉科医に相談し、専門的なアドバイスを受けることが重要です。