先天性トキソプラズマ症

 一般に、妊婦が初めてトキソプラズマ(原虫の一種)に感染すると、血液中に流入したトキソプラズマが胎盤を介して児に感染し、児に水頭症(すいとうしょう)や脈絡網膜炎(みゃくらくもうまくえん)を起こすことがあります。これを先天性トキソプラズマ症といいます。
 感染経路は口が主で、目や呼吸器もあるといわれています。経口感染の感染源は、食用肉・内臓(不十分な加熱処理のブタ・ヒツジ・ウシ・トリ、レバーなど)に含まれるトキソプラズマのシスト(嚢子)、あるいはネコの糞に多量に含まれるオーシスト(胞嚢体あるいは卵嚢子)があります。オーシストは土中で18カ月間感染性を有し、塩素消毒は無効です。
 東京近郊の妊婦のトキソプラズマ抗体保有率は7・1%ですが、南九州では14・0%と地域により差があります。東京近郊のデータでは、妊婦の妊娠中の初感染率は0・13%と推定されており、これをもとに推計すると、全国で年間約480例、うち軽症が4・4%で約70例、重症が2・6%で約40例となります。
 不顕性(ふけんせい)の先天性トキソプラズマ症児は370例で、その一部は中学生ぐらいまでに脈絡網膜炎を発症することが眼科医により指摘されており、新生児期の診断・治療が有効といわれています。

検査と診断

 トキソプラズマ抗体またはトキソプラズマIgG抗体が陽性ということは、トキソプラズマに感染したことを示しますが、その時期は判定できません。
 トキソプラズマIgM抗体が陽性であれば、最近である可能性があります。妊娠初期に陽性であれば妊娠中の初感染の可能性があり、先天感染の可能性も生じてきます。
 通常、妊娠初期にトキソプラズマIgM抗体が陰性であれば、妊娠前の初感染の可能性が高く、先天感染の可能性はなくなります。
 一般に微生物に感染した場合、宿主は初期にはアビディティ(抗原結合力)の低いIgG抗体を産生しますが、時間が経過するにつれてアビディティの高いIgG抗体を産生します。これを応用し、初感染からの時期を推定することができます。したがって、トキソプラズマIgM抗体が陽性でもトキソプラズマIgG抗体のアビディティが高ければ、必ずしも妊娠中の初感染を意味しません。IgM抗体が陽性で、かつIgG抗体のアビディティが低ければ、最近の感染を意味します。
 妊娠中の感染が否定できなければ、羊水穿刺(せんし)により羊水を採取し遺伝子診断を行うか、アセチルスピラマイシンによる治療を開始します。遺伝子診断が陽性であれば先天感染は成立したと判断し、陰性であればその可能性は低くなります。

治療の方法

 アセチルスピラマイシンは、1日1200mg(分4)で21日間服用し、14日間休薬することを1周期とし、これを分娩まで繰り返します。妊婦の治療により重症先天性トキソプラズマ症の発生率が2分の1〜7分の1に減少することが認められています。