アルコール依存症とはどんな病気か

 アルコール依存症は、薬物依存症のひとつです。ほかの薬物依存症と同じようにアルコール依存症も「脳の病」であり「行動の病」です。
 薬物依存症の主な症状は、「強化された薬物探索・摂取行動」と規定され、脳に行動の記憶として刻印され、完治することがない病気です。長期にわたる断薬(アルコール依存症では断酒)をしても、少量の再摂取から短期間に断薬(断酒)直前の摂取行動にもどります。ほかの慢性疾患と同様に再燃(再発)しやすい病気です。
 アルコール依存症は普遍的な病気ですが、誤解の多い病気でもあります。アル中(慢性アルコール中毒)と同義ではありません。アル中は社会的、道徳的、倫理的なラベリング(レッテル貼りの言葉)であり、医学用語からは排除されています。

原因は何か

 依存性薬物であるアルコールを含んだ嗜好品(しこうひん)、すなわちアルコール飲料を繰り返し摂取すると、脳内へのアルコールの強化作用(その薬物の再摂取欲求を引き起こす作用、アルコールでは飲酒欲求)に対する感受性が増大します。
 強化作用の機序(仕組み)はすべての薬物依存症に共通で、脳内の側坐核(そくざかく)から神経伝達物質のドーパミンが放出されることによります。アルコールは、GABA(ガバ)‐A神経を介して側坐核からドーパミンを放出させます。
 この強化作用に対する感受性の増大が、飲酒行動を強化し、飲酒パターンが病的となって探索行動(何とかしてお酒を飲むための行動)を引き起こします。感受性の増大する速度は、強化作用に対する感受性のほかに、飲酒量、飲酒頻度などで変わってきます。
 強化作用に対する感受性が高いと、飲酒量や飲酒頻度が高くなくても短期間で依存症に至ります。一方、感受性が低くても、飲酒量や飲酒頻度が高ければ短期間で依存症に至ります。すなわち、アルコールの強化作用に対する感受性と飲酒の反復とから、アルコール依存症が形づくられます。したがって、原因に性格や人格をあげるのは科学的ではありません。

症状の現れ方

 主な症状は病的な飲酒行動です。その始まりはゆるやかで気づきにくいという特徴があります。病的な飲酒行動は、摂取行動と探索行動の変化として現れます。


 摂取行動は、日常行動の合間合間に飲酒を繰り返したり、飲んでは眠り、さめては飲むを繰り返したりの病的飲酒パターンになります。病的飲酒パターンの持続時間は、初期は短期間で徐々に延長します(表3)。
 病的飲酒パターンと表裏して飲酒渇望(かつぼう)が探索行動に現れ、徐々に高度になります。飲酒を取り繕(つくろ)ううそ、酒代の借金、隠れ飲み、酒瓶隠し、隠し金、酒屋や自販機めぐり、飲酒を妨害する人を責めたり脅したりなど、多種多様です。
 アルコール依存症の進行につれて日常行動の規範が飲酒に移り、飲酒中心性と呼ばれる状況になります。たとえば、どこへ行くにも飲酒の可否で優先するような事態です。
退薬症状
 飲酒の反復のあと、飲酒中断や飲酒間隔の延長、飲酒量の減少で現れる症状です。
 不眠・悪夢・血圧上昇・頻脈(ひんみゃく)・動悸(どうき)・吐き気・嘔吐・頭痛・胃痛・発汗・寝汗などの自律神経症状、手指振戦(しんせん)・筋肉の硬直やけいれん発作などの神経症状、幻視(げんし)・幻聴(げんちょう)・振戦せん妄などの精神症状が現れます。
 退薬症状がおさまると、怒りっぽくなる・刺激に敏感になる・焦燥・抑うつなど情動の不安定な遷延性(せんえんせい)退薬徴候と呼ばれる状態が続きます。
合併症
 アルコールに起因する合併症には、胃炎、膵炎(すいえん)、膵石、肝炎、肝硬変(かんこうへん)、心筋症などの内科疾患、末梢神経炎、小脳変性症、ウェルニッケ・コルサコフ症候群、前頭葉(ぜんとうよう)機能障害、アルコール痴呆(ちほう)などの神経・精神疾患があります。

検査と診断



 検査法には、飲酒パターン分類(表3)や表4に示すCAGEテストなど各種のスクリーニングテストがあり、それらでおおむね診断可能です。


 アルコール依存症は、ほかの薬物依存症と併せて精神作用物質依存症や物質依存症と呼ばれ、共通の診断基準があります。WHO(世界保健機関)のICD‐10の精神作用物質依存症診断基準(表5)や、米国精神医学会のDSM‐IVの物質依存症診断基準です。これらの診断基準を用いてアルコール依存症の診断をします。
 なお、酔って興奮するのは「酩酊(めいてい)の異常」に分類され、アルコール依存症とは区別されます。

治療の方法

 現在のところ、断酒以外の治療選択肢はありません。
 米国立アルコール研究所が、患者さんの特性に合った治療法を検証するProject MATCHという全米規模の研究を行いました。これは、全米9施設の患者さん1726人に、治療者25人が共通の手順で12週間治療し、その後1年間の飲酒日数と飲酒量から治療効果を判定したものです。
 検討された治療法は、12ステップ強化療法、認知行動療法、動機づけ補強療法の3つでした。その結果、精神病性障害がなく最初から外来治療の患者さんには、12ステップ強化療法が認知行動療法よりも飲酒日数が明らかに少なかった以外に、患者さんの特性と治療法の有意な組み合わせはありませんでした。
 以上のように、今のところとくに優れた治療法はありません。断酒会やAA(アルコール・アノニムス=アルコール匿名会(とくめいかい))などの自助会も治療の場です。医療機関としては、アルコール専門クリニック、精神病院のアルコール専門病棟、一般精神病院などがあります。
 日本のアルコール専門病棟の大半では、断酒の動機づけを入院条件にしており、開放病棟で2〜3カ月の入院期間中に、患者自治会の主導で断酒会やAAへとつなげています。最近は認知行動療法を行うところが増えています。なかには、内観療法を行うところもあります。動機づけが困難で、3カ月以上の長期入院が必要な人の専門病棟はあまりありません。
 治療に使われる主な薬剤は以下のとおりです。
抗酒剤(こうしゅざい)
 シアナマイドとジサルフィラムの2つが用いられますが、飲酒渇望を抑制する効果はありません。両剤はアルコール中間代謝産物のアセトアルデヒドの代謝酵素を阻害して、飲酒時の血中アセトアルデヒド濃度を上昇させ、飲めない体質の人と同じ生体反応を起こすことでアルコールを遠ざけるようにする薬剤です。
渇望抑制剤
 日本では未承認薬のアカンプロセートやナルトレキソンが欧米で用いられています。飲酒渇望には万全ではありませんが、支持的精神療法と組み合わせて高い断酒効果が得られています。

アルコール依存症に気づいたらどうする

 患者さん本人に治療意欲があれば、まず地域の断酒会やAAへ参加しましょう。治療意欲がないか、気づかない場合は、問題に気づいた人が地域の保健所、断酒会、AA、アルコール専門クリニックや専門病棟のある精神病院などの窓口へ相談してください。


 合併症が重い(当然アルコール依存症も重い)のに治療する意欲がない場合、本人の意思を尊重すると事態は深刻になるので、強制的な入院治療も必要です。その場合、利用できる医療資源には地域差があるので、相談機関の指導にしたがいましょう(表6)。