注意欠如多動性障害(ADHD)とはどんな病気か

 注意欠如多動性障害(ADHD)は、多動性・衝動性(しょうどうせい)と注意力の障害を特徴とする行動の障害です。これは米国精神医学会の「精神疾患の診断・統計マニュアル第4版(DSM‐IV)」において採用された障害名で、WHO(世界保健機関)の「国際疾病分類第10版(ICD‐10)」では多動性障害という名称が用いられています。
 学童期では出現率が3〜5%、男児に多く、男女比は3〜5対1です。

原因は何か

 多動と衝動性を特徴とする行動の障害については、脳障害説(のうしょうがいせつ)と環境因説(かんきょういんせつ)との間で議論が繰り返されていましたが、現在では、画像研究と遺伝学的研究から、神経生物学的な障害として広く認められるようになりました。
 画像の研究から、前頭前部(ぜんとうぜんぶ)・尾状核(びじょうかく)・淡蒼球(たんそうきゅう)・小脳虫部(しょうのうちゅうぶ)が健常児と比べて小さいとの報告があります。家族集積性が高いこと、養子や双生児研究から遺伝要因の関与が高いことが示され、神経シナプスの刺激の伝達のはたらきに関与するいくつかの遺伝子に関心が集まっています。一部には、脳の感染・外傷など後天的原因によるものがあります。

症状の現れ方

 基本症状は不注意、多動性、衝動性です。
 不注意は、細かいことに注意を払えないという注意力の欠如、注意を持続できない、周囲の刺激に気が散る(転動性が高い)などです。日常生活場面では、不注意な間違い、始めたことをやりとげない、言われていることを聞いていない、忘れ物・落とし物が目立つなどがあります。
 多動は「活動の過剰」です。絶えずせわしく動きまわる、体の一部をくねくねもじもじ動かす、多弁などとして観察されます。
 衝動性は結果を考えずに判断・行動することで、その結果、自分や他人が危険にさらされる、物を破壊するなどがあります。順番を待てない、人の妨害や邪魔になる、質問を聞き終えないで出し抜けに答えるなどとして現れます。
 通常、症状は幼児期から認められますが、集団生活の場で支障を来して初めて気づくことが多いようです。どの症状が現れるかによって、多動性‐衝動性優勢型、不注意優勢型、混合型に分けられます。
 反抗的・反社会的行動、学習障害、不安・抑うつ、その他の精神医学的障害を合併していることが少なくありません。

検査と診断

 DSM‐IVでは、不注意および多動性‐衝動性を表す行動を、それぞれ9つからなるリストで示しています。どちらも6項目以上に該当する時、その症状をありとし、さらに以下の条件を満たす時にADHDと診断されます。
 (1)年齢に不相応で、適応的でない、(2)6カ月以上続く、(3)7歳以前に始まる、(4)2つ以上の場面で現れる、(5)社会的、学業的機能に障害となる、(6)広汎性発達障害(こうはんせいはったつしょうがい)、その他の精神病の経過中に起こるものではない。
 診断は、面接、および診察室と検査場面での観察所見、標準化された評価尺度などを総合して行われます。とりわけ、生育歴と、家庭や学校など複数の場面からの情報が重要です。多動性、衝動性、不注意などの症状を直接測定する検査が客観的指標として役立ち、治療効果の指標としても利用されています。

治療の方法

 児童期のADHDの治療目標は、この障害をもつことによる有害な影響を最小限にし、子どもが本来もっている能力を発揮し、自己評価を高め、自尊心を培うことです。そのために多面的な治療が必要とされます。
 具体的には 薬物療法、ペアレント・トレーニング(親の訓練)、ソーシャル・スキル・トレーニング(生活技能訓練)、教育的介入などがあります。
 一般的に発達とともに症状は軽くなりますが、基本的特徴をもち続けることが多いようです。適切な治療や対応によって、これが生活の支障とならないような工夫が求められます。ADHDに気づかれずに放置されたままでいると、反抗的になったり、不安・抑うつを来すなど二次的な問題を抱えるリスクが高まります。

ADHDと医療

 ADHDは、しばしばまわりの大人や子どもにとって迷惑ごととしてとらえられます。しかし、ADHDをもつ子どもがこれらの症状のために否定的な注目を浴び、自己評価を損なうことこそが最も有害な影響といえます。
 したがって、あくまでも子どもの利益のために病気を理解し、適切な治療を受けられるように考えるべきです。日本では、児童精神科および小児神経科が主な診療の窓口になっています。