内出血は出血量を外表面から評価することが困難です。しかし、胸腔(きょうくう)と呼ばれる胸部の空間、腹腔(ふくくう)と呼ばれる腹部の空間、後腹膜腔(こうふくまくくう)と呼ばれる背中〜腰〜臀部(でんぶ)にかけては、大量の血液が内出血として貯留することがあります。この3カ所はいずれも数lの血液が貯留するスペースがあるため、大量の内出血により死亡する可能性があります。
 そこで病院にいる医師も、意識や呼吸・循環の状態が悪い傷病者、高エネルギー事故の傷病者の場合は、正確な診断が下されるまでは、この3カ所の内出血があるものと疑いながら診察を行っています。
 また、単純な骨折といえども大腿骨のような大きな骨の損傷の場合は、それだけで1l程度の出血が起こりえるので、注意が必要です。

胸腔

 肋骨の骨折、肺の損傷などにより胸腔に血液が貯留し、血胸(けっきょう)と呼ばれる状態になります。病院に到着する前に血胸の有無を診断することは非常に難しいのですが、胸部外表面の外傷の有無(ハンドルやシートベルトの痕)、聴診上の呼吸音の左右差(血胸がある側が減弱)、打診の左右差(血胸がある側が濁音)、触診上の痛みや変形の有無などを観察し、血胸の存在を疑います。病院に搬入後は、X線検査や超音波検査、CTなどで確定診断をします。
 胸腔に大量の血液が貯留すると、内出血による失血以外に、肺を圧迫して呼吸状態を悪化させることがあります。そのため、胸腔ドレーンと呼ばれるチューブを胸部の皮膚を貫いて胸腔内に挿入し、胸腔内に貯留した血液を抜く処置を行います。
 この処置を行ったあと、呼吸状態が改善してチューブから流出してくる血液量が次第に減少してくる時には、このチューブのみによる治療で回復する場合も多いのですが、呼吸状態が改善しなかったり、チューブから出てくる血液量が非常に多かったり、急速に血液が流出してくる場合は手術を選択し、止血を行うことになります。
 胸部の大血管が損傷したために大量の血胸が貯留していることもまれではなく、その場合は治療が難しく、生命の危険にさらされることもあります。

腹腔

 肝臓、脾臓(ひぞう)、大動脈、下大(かだい)静脈などの腹部の臓器、血管の損傷により腹腔内に出血が起こり、血液が貯留します。血胸と同様に腹腔内出血の有無も、病院に到着する前に正確に診断することは困難です。腹部の膨満(ぼうまん)は数lの血液が貯留しないとはっきりと認識できないことが多いので、腹部外表面の外傷の有無(ハンドルやシートベルトの痕(あと))、触診上の圧痛(押すと痛む)の有無などで、腹腔内出血の疑いがあると判断します。病院に搬入後は、X線検査や超音波検査、CTなどで確定診断をします。
 治療は、ごく少量の出血の場合には自然に止血されることもありますが、出血が多い時、出血が急激に増えている時、呼吸や循環の状態が悪い時などは、積極的に止血を行わなければなりません。この場合は手術が最も一般的ですが、最近は、場合によってはカテーテルによる血管内治療(TAE:Trans Arterial Emboli-zation)によって、さまざまな物質を注入して出血している血管を詰める治療法も普及してきています。

後腹膜腔

 骨折単独で死亡することがあるとは想像しにくいかもしれませんが、骨盤骨折はそれだけで死亡の原因になることがあります。
 この場合は、背中〜腰〜臀部にかけるスペース(後腹膜腔)に大量の血液が貯留します。交通事故や墜落事故で腰を強打した人に、骨盤骨折はよく起こります。骨盤骨折も病院に到着する前に正確に診断することは困難です。無理な触診をすると、さらに出血が増える場合があるので、救急隊員も慎重に観察することになります。病院に搬入後は、X線検査やCTなどで確定診断をします。
 治療法としては、もちろん手術もありますが、カテーテルによる血管内治療(TAE)が、止血の手段として非常に有用とされています。

骨折

 骨盤以外の骨折が直接的な死因になることは少ないのですが、大腿骨のような大きな骨の骨折や、数多く骨折した場合などは総出血量が多くなり、生命の危険につながることがあります。
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 以下に、各損傷に伴うおよその出血量を示します。
血胸      1000〜3000ml
・腹腔内出血   1500〜3000ml
骨盤骨折    1000〜4000ml
・大腿骨     1000〜2000ml
・下腿骨     500〜1000ml
・上腕骨     300〜500ml
・床や衣類の血液 約30cm四角で100ml