腹部外傷<外傷>の症状の現れ方

 主な症状は腹痛です。出血性の損傷でも腹腔内の出血に伴う自発痛はありますが、出血性の病態では出血に伴う血圧の低下などショックを示すサインを把握することが重要です。大量の腹腔内出血があれば腹部は膨みますが、そのような状況下での患者さんはほとんど救命困難です。
 腹膜炎の病態においては、一般に出血性の損傷より強い腹痛があります。自発痛だけでなく、圧痛、反跳痛(はんちょうつう)、筋性防御(きんせいぼうぎょ)といった腹膜刺激症状がみられます。ただし、腹壁の損傷だけでも自発痛や腹膜刺激症状に似た所見がみられることがあり、区別の難しいことがあります。

腹部外傷<外傷>の診断と治療の方法

 出血性ショックに対する全身的治療と、各臓器の損傷に対する止血や損傷部位の修復などの局所的治療を行います。局所的治療は、腹腔内出血に対する治療と消化管穿孔の治療に分類できます(図45)。

(1)全身的治療
 全身的治療はバイタルサインのチェックなどに基づく患者さんの全身状態の評価に沿って行われますが、まず輸液路の確保と酸素吸入を行います。
 重症と考えられる場合の輸液路は、大量輸液・輸血ができるように2カ所以上を確保する必要があります。輸液は、乳酸加リンゲルや酢酸加リンゲルで行い、大量出血に対しては迅速な大量輸血を行います。重症のショックでは低体温の予防も重要であり、輸血・輸液の加温などの工夫も考慮しなければなりません。
 呼吸障害はなくてもショック状態の患者さんでは酸素吸入が必要です。患者さんの状態によっては、気管挿管や人工呼吸器を用いた呼吸管理も行います。

(2)腹腔内出血に対する治療
 腹腔内出血に対する治療法には、保存的治療、経カテーテル的動脈塞栓術(TAE)、開腹手術があります。とりあえず活動性出血がなく血圧などのバイタルサインが安定している場合は、保存的治療が選択されます。
 バイタルサインのチェックなどの厳重な観察のもとに禁食やベッド上での安静、輸液などを行います。もちろん、急変時のTAEや開腹手術に対応できる体制をとっておきます。TAEは肝臓、脾臓損傷からの動脈性の出血の場合はよい選択になります。しかし、TAEだけでは止血困難な損傷も少なくなく、この場合は躊躇せずに開腹手術を行います。
 開腹手術では、損傷臓器からの出血に対して確実な止血処置を行いますが、患者さんの状態によっては一時的止血しかできないこともあります。
 腹部外傷の緊急手術に際しても確実な止血が望まれることはもちろんです。しかし、重症の患者さんで確実な止血処置を行う時間的余裕がない場合や、止血処置が難しい場合は、ガーゼ圧迫など一時的止血を行って仮閉腹することもあります。この場合、ICUで患者さんの状態を改善してから、数時間後に再手術を行います。この治療方法をダメージコントロールと呼びます。

(3)消化管穿孔に対する治療
 消化管に破裂・穿孔がある場合には、現時点でも保存的治療は困難で、手術の対象となります。
 損傷部がさほど大きくなく患者さんの状態が良好でも、時間の経過とともに炎症の波及範囲は拡大するので、早急な開腹手術が重要です。
 消化管の損傷は全体としては、孔のあいていないI型と、孔のあいた(穿孔した)II型に分類されます。外傷受傷後すぐに手術が必要なのはII型です。
 損傷の部位によっては単純な縫合閉鎖や切除・吻合(ふんごう)だけでなく付加的手技が必要になりますが、消化管の損傷で共通の治療指針は、損傷部の修復と汚染された腹腔の洗浄もしくはドレナージ(排液)です。
 損傷部修復の方法(図46)は、破裂・穿孔部の縫合閉鎖か損傷部を含む腸管の切除・吻合(ふんごう)です。

a.十二指腸損傷に対する治療
 十二指腸損傷における付加的手技(図47)の選択にも、受傷から手術までの所要時間に加えて、この修復部の狭窄(きょうさく)の問題が関係します。
 手術が受傷後早期で腹腔内の汚染が比較的軽度、かつ損傷部が縫合しても狭窄を起こさないサイズであれば、単純な縫合閉鎖を行います。
 損傷部がある程度以上のサイズで、縫合では狭窄のおそれがある場合、小腸や大腸では切除・吻合になりますが、膵頭(すいとう)部に接している十二指腸領域ではこの術式は困難です。そのような場合は、空腸漿膜側(くうちょうしょうまくそく)を破裂部のパッチ(破裂部を縫合閉鎖せず、漿膜で被覆する)として縫合閉鎖する空腸漿膜パッチ法や、急性期の多少の狭窄は覚悟して損傷部はそのまま縫合閉鎖し、同部を空置(くうち)する(食べ物などが通過しないようにする)目的で胃を切開して内腔から幽門(ゆうもん)を閉鎖し、胃切開部と空腸を吻合する幽門閉鎖術、または幽門側胃切除(ゆうもんそくいせつじょ)と残胃(ざんい)・空腸(くうちょう)ルー・ワイ吻合を加える空置的胃切除術などの術式を選択します。

b.大腸損傷の治療
 大腸損傷も、他の消化管損傷と同様に、損傷部の修復は縫合閉鎖もしくは切除・吻合が原則です。大腸内は糞便があり、胃や小腸に比べて損傷部が汚染されているために、従来は縫合や吻合をしないで人工肛門にする傾向がありました。しかし、腹腔内汚染が高度でない受傷後早期に確実な手術が行われれば、人工肛門を造設しないで一度に損傷部を修復しても縫合不全などの合併症の発生はほとんどありません。したがって、大腸損傷は最近では多くの病院で一度に縫合・吻合しています。
 一方、患者さんの状態が悪かったり、腹腔内が高度に汚染されている時は、現在でも人工肛門(図48)を造設します。また、直腸や肛門部の損傷も一度で損傷部を修復しますが、口側の大腸に人工肛門を造設することが多くなっています。