神経調節性失神とはどんな病気か

 神経調節性失神は神経の反射で引き起こされる一過性の意識消失発作(失神)であり、徐脈(じょみゃく)(脈が遅くなること)や末梢血管の拡張に伴う血圧低下によって症状が出現します。原因不明の失神が認められる患者さんで、頻度が高いとされています。
 この病気は若年から中高年と広い年齢層に認められますが、比較的若年に発症する頻度が高く、男性より女性に多い傾向があります。

原因は何か

 神経調節性失神は長時間の立位により生じることが多く、立位に伴う下肢の血液貯留が静脈環流量の低下をまねき、それによって左心室の容積が減り、交感神経活動の増加につながります。それが左心室を過剰に収縮させ、心拍数の増加にはたらきます。
 一般に、このような変化は左心室に存在するメカノ受容体という部位を刺激します。この病気の原因は、このようなメカノ受容体の刺激が最終的に中枢神経を介し、逆に交感神経活動の低下や迷走神経(副交感神経)活動の増加をもたらすことによるものと考えられています。
 また、不安、痛み、興奮、排尿、排便によっても、同様に左心室のメカノ受容体、または直接中枢神経を介して迷走神経活動の増加をもたらすことがあります。
 このような交感神経活動の低下、迷走神経の活動の増加により、末梢血管の拡張による血圧低下や、著しい心拍数の低下をもたらし、最終的に脳血流の低下を導いて失神が生じます。

症状の現れ方

 長時間の立位・座位、排尿や排便、また血圧や心拍数をコントロールする頸動脈洞(けいどうみゃくどう)の圧迫などにより、失神が現れます。その発症の体位としては立位や座位が多く、しばしば脱水、発熱、疼痛などが引き金になります。
 さらに失神出現前に高率に吐き気、気分不快、動悸(どうき)、発汗などの前駆症状(前兆)を伴います。
 典型的な例では、若い女性が満員電車で長時間立っていて、気分不快に伴って失神するという場合です。

検査と診断

 神経調節性失神の診断では、症状の経過の把握が極めて重要です。つまり、前駆症状を伴って立位や座位で失神が発症するような場合は神経調節性失神が疑われます。
 しかし、失神の原因となる他の疾患(不整脈、てんかん脳血管障害など)との鑑別を諸検査によって行う必要があります。その結果、他の原因疾患が否定され、神経調節性失神が疑われた場合、ヘッドアップチルト試験(傾斜台試験)という検査により診断を進めていきます。
 ヘッドアップチルト試験は仰臥位(ぎょうがい)(あお向け)安静後、傾斜台を起立させ、心電図記録および動脈圧記録をモニターしながら立位状態を維持させる検査です。徐脈または血圧低下を伴って、意識消失発作が誘発された場合を陽性と判定します。
 さらに、この病気はチルト試験によって、心拍数の低下が主体の心臓抑制型、血圧低下が主体の血管抑制型、両者がともに認められる混合型の3型に分類されます。

治療の方法



 神経調節性失神に対する治療法を表16に示します。治療として、病状を説明し、本疾患を理解してもらうことは失神の回避を容易にします。また、生活指導は極めて重要であり、失神の予防につながります(表17)。
 つまり、排尿や脱水などに注意し、長時間の立位を避けることが必要です。また、立位時に下肢の血液貯留を減らすためには、下肢の運動も効果的です。血圧の高くない患者さんは、水分に加え塩分補給によって、循環血液量を増やすことも重要です。
 さらに、病歴と一致した失神の前駆症状(前兆)を認めた場合は即座に体位変換や失神回避を行うことが重要です。また、弾性ストックキングを装着することは下肢の血液貯留の防止につながり、失神を誘発しにくくします。
 生活指導が無効な場合には、起立調節訓練も有効な方法です。この方法は、1日に1〜2回、壁面を利用して踵(かかと)を15cmぐらい離して、10〜30分の立位訓練を繰り返すことにより、徐々に立位の持続時間が延長でき、最終的には失神発作が予防できるという訓練法です。
 薬物療法は、α(アルファ)交感神経刺激薬(塩酸ミドドリン、エチレフリン塩酸塩、メチル硫酸アメジニウム)、β(ベータ)遮断薬、ジソピラミド、セロトニン再吸収阻害薬などが有効です。また、循環血液量を増加させ、失神を予防するためには、食塩補給に加え、鉱質コルチコイドの服用も有効です。
 薬剤抵抗性で心拍数低下が著しい心臓抑制型では、ペースメーカー治療も考慮され、有効な場合もあります。

神経調節性失神に気づいたらどうする

 長時間の立位・座位時や排尿・排便後などが誘因となり前駆症状を伴って失神が認められた場合は、神経調節性失神が疑われるので、専門医(循環器内科)を受診することが必要です。ヘッドアップチルト試験などで診断を受け、生活指導や薬物療法が行われます。