細菌性肺炎とはどんな病気か



 肺炎は、気管支より末梢の酸素と二酸化炭素を交換する肺胞(はいほう)と呼ばれる部位に起こる感染に伴う炎症、と定義されます。肺胞は気道とつながっているので、同時に気管支炎も起こします。肺炎では肺胞にまで微生物が侵入し、それに対して体の防御機構(メカニズム)がはたらき、炎症性の細胞や滲出液(しんしゅつえき)が肺胞内に満たされた状態になります。これをX線で撮影すると浸潤影(しんじゅんえい)といわれる陰影になります(図9)。
 細菌性肺炎というのは、その原因になる微生物が細菌であるという意味です。
 肺炎は、病院に入院している人に起こる院内肺炎(いんないはいえん)と、病院外で起こる市中肺炎(しちゅうはいえん)に分けて考えられています。院内肺炎と市中肺炎とでは原因になる細菌の種類と頻度が異なるため、それによって選択される抗菌薬も違ってきます。

原因は何か

 細菌性肺炎では、肺胞にまで細菌が到達することが第一の条件ですが、その経路は気道を通って侵入する(経気道感染)場合がほとんどです。まれに血液の循環を介して肺胞に到達し、肺炎を起こす場合があります(血行性感染)。
 経気道的に侵入する場合は、誤嚥(ごえん)を原因とすることが多いと考えられています。誤嚥には明らかな“むせ”のみられる場合もありますが、気づかないで気道のほうに口腔内容物が流入していることも多いといわれています。誤嚥の起こりやすい人として、脳血管障害脳出血脳梗塞(のうこうそく))の既往歴のある人、寝たきりの人、神経疾患にかかっている人などがあげられます。
 また、もともと肺に慢性の病気のある人や喫煙などで気道に障害のある場合は、侵入してきた異物を除去する機能が低下しているために肺炎を起こしやすく、また重症化もしやすいので、注意が必要です。


 細菌性肺炎の原因菌は肺炎球菌が最も多く、次いでインフルエンザ菌です。そのほか、黄色ブドウ球菌やクレブシエラ菌が原因になります。肺炎球菌(図10)は健康な人にも肺炎を起こしますが、クレブシエラ(図11)による肺炎はアルコール依存症糖尿病の患者さん、高齢者に起こりやすいといわれています。黄色ブドウ球菌は、冬のインフルエンザウイルス感染のあとにみられることもあります。

症状の現れ方

 細菌性肺炎の症状としては、発熱、咳(せき)、膿性(のうせい)の痰がみられ、それに加えて胸痛がみられることもあり、この場合は胸膜(きょうまく)への炎症の広がりを示唆します。身体所見では、呼吸数や脈拍の増加がみられます。重症例では呼吸困難、チアノーゼ、意識障害がみられ、緊急に治療を開始する必要があります。
 咳と痰という症状の共通する気管支炎に比べ、高い発熱や胸痛、呼吸困難などは肺炎を疑わせる症状です。医療機関へのできるだけ早い受診をすすめます。

検査と診断

 最も有用な検査は胸部X線です。しかし、X線像に影がある場合でも、それが微生物の感染による肺炎であるのか、あるいは感染症以外の陰影――たとえば肺がんや薬剤に対するアレルギー反応など――であるのかどうかは、症状や診察所見、喀痰(かくたん)の検査などから判断します。
 感染症としての肺炎である場合は、その原因が一般の細菌による感染症なのか、マイコプラズマやクラミジア、ウイルスなどの一般細菌以外の肺炎なのかの原因微生物特定のための細菌学的検査が必要です。これには、喀痰の培養や血清中の抗体価の測定が行われます。最も簡単な原因細菌の推定法は、喀痰の塗抹(とまつ)染色による観察で、グラム染色という手法が使われます。膿性の良質の喀痰が得られれば、細菌性肺炎ではほとんどの原因細菌がグラム染色で推定できます。最近は、さらに、頻度の高い肺炎球菌と重症化するレジオネラ菌に対しては、尿の中の細菌の抗原を検出する簡便な迅速診断法も普及しています。そして、これらの検査結果からそれぞれの微生物に合った薬剤(抗菌薬)が選択されるのです。
 原因細菌を推定するには問診も重要です。たとえば、温泉旅行に行ったことがある場合には、レジオネラ肺炎を疑わなければなりません。基礎疾患に関しては、糖尿病や副腎皮質ステロイド薬の投与など、感染しやすい免疫状態の変化も重要な情報です。


 治療法の選択には、肺炎の重症度も考えなければなりません。肺炎の重症度は、年齢や脱水の有無、呼吸困難、意識障害および血圧などで判断します。図12に、日本呼吸器学会のガイドライン(2006年)による「市中肺炎の重症度分類」を示します。また、検査がすぐに可能であれば、白血球数やCRP(炎症の強さを示す数値)の増加の程度や、腎臓や肝臓の障害の程度なども参考に重症度を判断します。
 最近、肺炎球菌やレジオネラによる肺炎の場合は尿中抗原の検出が可能になりました。これは尿のなかの細菌の抗原を検出する方法で、簡便で迅速な検査法です。とくに重症肺炎の場合は尿中抗原の検出は有用です。
 区別すべき最も重要な肺炎として、結核(けっかく)があります。X線検査で結核が疑われる場合には、必ず喀痰の結核菌の検査を行います。

治療の方法



 まず、外来で治療するか入院するかを決めます。軽症で通院が可能であれば経口薬の投与が、中等症以上で入院が適切だと思われた場合は注射による治療が選択されます。入院でも重症度が高度の場合、集中治療室への入院がすすめられます(図12)。また、基礎疾患があったり高齢者の場合は、軽症でも入院して治療し、軽快する傾向を確認したうえで外来治療にするほうが安全だと考えられています。したがって、入院か外来治療かは、重症度ばかりでなく、家庭での看護の状況や基礎疾患に伴う重症化の可能性も考慮して、医師が判断することになります。
 細菌性肺炎では、原因になっている細菌に合わせた適切な抗菌薬を選択することが治療の基本です。肺炎球菌や黄色ブドウ球菌といったグラム陽性菌と、インフルエンザ菌やクレブシエラなどのグラム陰性菌では、選択する抗菌薬の種類が違ってきます。また、その施設や地域によって、同じ種類の細菌でも薬剤に対する感受性が異なるため、その点も考慮しなければなりません。とくに、抗菌薬に耐性(たいせい)がある細菌の区別が重要で、感染症治療の最も大きなポイントになります。
 たとえば、これまで細菌性肺炎で最も頻度の高い肺炎球菌にはペニシリン系の抗菌薬がよく効いていたのですが、最近、ペニシリン耐性肺炎球菌という耐性菌の頻度が増え、抗菌薬治療が難しくなってきています。そのため、重症や基礎疾患のある人、高齢者では、経口薬ではニューキノロン系が、注射薬ではカルバペネム系が選ばれます。このように、重症度、基礎疾患、耐性菌の頻度などを総合的に判断して、抗菌薬の投与法や種類が選択されます。
 誤嚥性(ごえんせい)肺炎を起こした場合は、口腔内の清浄が保たれていないことが大きな原因になります。歯みがきを励行し、かつ歯肉の化膿性病巣などを歯科で治療してもらうことも必要です。
 進行の急激な重症の肺炎の場合、レジオネラ肺炎を疑うことが大変重要です。レジオネラ肺炎の場合、通常よく選択されるセフェム系などの抗菌薬では無効で、マクロライド系、ニューキノロン系、リファンピシンといった抗菌薬を優先的に選択し、すばやく投与する必要があります。レジオネラ肺炎の場合は、疑うか、疑わないかで生死が分かれるといっても過言ではありません。とくに、肺炎になる前の1〜2週間の間に温泉旅行に行ったことのある人、あるいは透析中などの、免疫に影響する治療を受けている人では注意が必要です。

細菌性肺炎に気づいたらどうする

 前にも述べましたが、咳と痰だけでは肺炎と気管支炎のいずれであるかは区別できませんが、発熱が高く、胸痛、呼吸困難などがあれば肺炎の疑いがあるので、すぐに医療機関を受診してください。そこで診察し、X線検査を行い、重症度に応じて入院の是非や専門病院への転送などを判断します。
 ただし、意識障害や呼吸困難、チアノーゼ、血圧の低下などが認められた場合は、重症肺炎の兆候です。重症肺炎は進行が速く、治療が間に合わないこともあるため、緊急に医療機関を受診してください。