肺結核とはどんな病気か

 結核はあらゆる臓器に感染して障害を与える全身の疾患です。代表的なものは肺結核です。それは、活動性肺結核の患者さんが咳(せき)をした際、しぶきとなって排出された結核菌が空気中に漂(ただよ)い、その空気を身近な人が吸うことで感染するからです。
 しぶきは結核菌と水分の小さな塊ですが、水分が蒸発すると、結核菌の塊は重さが軽くなり、空気中に長い時間漂い、それだけ感染の機会が増えます。この菌には乾燥に強く紫外線に弱いという特徴がありますが、結核の感染は空気感染がほとんどです。
 欧米や以前の日本では不完全な滅菌操作を受けた牛乳から感染(この場合は腸結核などの消化管結核)した牛型(うしがた)結核感染の例も報告されました。牛型結核に感染して発症した牛の母乳を飲んだために発病したもので、これを経口感染といいます。
 他の感染症と結核とで違っている点は、感染してもすぐに全員が発病するのではないということです。感染した人のうち、発病するのは約10〜20%です。発病時期は感染後1年以内が約半分、残りは一生の間にですが、発病しない人も80〜90%います。これが、結核の不思議な点でもあり、また、なかなか根絶できない理由でもあります。

感染から発病まで

 空気感染によって、結核菌は気道を通って肺胞(はいほう)に達します。肺胞には肺胞マクロファージという食細胞(沿岸防衛隊のようなもの)が待機していて、この結核菌を細胞内に取り込んで消化・殺菌します。ところが、結核菌が肺胞マクロファージ細胞に殺されないほどの抵抗力を示すと、逆に肺胞マクロファージ細胞のなかで増殖を続けて感染病巣をつくります。これを初感染病巣といいます。
 肺胞マクロファージがリンパ液の流れに乗って肺門リンパ節に移行すると、そこでも病巣をつくります。これを、肺門リンパ節結核と呼び、また、初期変化群とも呼びます。結核菌の勢いが強いとそのまま発病してしまいます(一次結核症)。
 通常はこの段階で生体の細胞性免疫能(さいぼうせいめんえきのう)が結核菌に勝って封じ込めに成功します。しかし、結核菌の一部は死滅せず、増殖もせず、冬眠するような感じで生き続けます。これを休止菌と呼び、この状態では抗結核薬は効果がなく、これが結核菌感染症を撲滅(ぼくめつ)できない理由のひとつです。やがて、生体の免疫力が高齢化や生活習慣病などの発症で弱まると結核菌が増殖し始めて、発病します。これを、二次結核症と呼びます。成人結核の多くはこの型です。

原因は何か

 ヒト型抗酸菌(こうさんきん)と牛型抗酸菌とによって発症します。日本では、牛乳の滅菌が丹念に行われているので、牛型抗酸菌による結核感染症は近年報告されていません。菌を出している患者さん、もしくは菌を出している患者さんからの検体に接触する機会が多い医療従事者は、結核感染の危険性が高いのです。細胞性免疫能が弱くなった状態があれば感染が成立しやすくなります。
 つまり、HIVに感染した人、長期のステロイド治療を受けている人、免疫抑制薬を使っている人(米国では慢性関節リウマチに効果がある抗リウマチ薬を使って結核発病者が出たと報告されている)、コントロール不良の糖尿病の人、血液透析(とうせき)を受けている人、慢性肝炎の人などです。

症状の現れ方

 発熱、咳(せき)、痰、易(い)疲労感(疲れやすい)、食欲不振、寝汗などの症状が知らぬ間に現れます。これらの症状は冬季に流行する感冒(かんぼう)(かぜ)とまったく同じですが、感冒とは違い、症状が長期間続きます。病院や診療所で感冒薬を処方してもらい、内服しても2週間以上症状が続けば、気管支喘息(ぜんそく)か肺結核症が疑われます。
 放置すると、血痰、息切れ、体重の減少も加わります。肺結核症の一型である喉頭・気管支結核では、早期にがんこな咳と血痰(けったん)が認められます。

検査と診断


(1)結核菌の存在証明



 基本は、結核菌が実際に病巣部に存在するという証明です。喀痰(かくたん)(肺結核)を検体として、標本に抗酸菌染色(チール・ネルゼン染色:図20)を行い、顕微鏡で検査します。これを塗抹(とまつ)検査法と呼び、結核菌はブルーの背景のなかに赤く染まります。
 痰が出ない人の場合は、気管支鏡を用いて得られた気管支肺胞洗浄液(BAL)で塗抹と培養の検査を行います。気管支鏡検査後の痰も検体として使用できます。
 陽性に染まれば、極めて感染性の強い結核を発症しているといえますが、後日、非結核性抗酸菌との区別が問題になります。
 同じ検体を用いて、結核菌のDNAあるいはRNA遺伝子があるかどうかを遺伝子学的手法で確認します(ポリメラーゼ連鎖反応(PCR))。この方法は感度がよく、数時間で結果が判明しますが、死んだ結核菌が検体に含まれていても陽性と判定してしまう欠点があります。そこで、生きた菌ならば人工的な培養シャーレで増殖するので、培地に検体を塗りつけます。これを培養検査と呼びます。
 この方法で結核菌感染の最終判断をするわけですが、結核菌は極めてゆっくり増殖するので、肉眼でコロニー(菌の塊)が認められるまでに4〜5週間必要です。すなわち、迅速診断はできません。
 次いで、得られた抗酸菌が結核菌か、それとも非結核性抗酸菌(ひけっかくせいこうさんきん)(非定型抗酸菌)かを区別するために、ナイアシン(ニコチン酸)をつくっているか否かの検査(ナイアシンテスト)を行います。陽性であれば、例外があるものの、ほぼヒト型結核菌と判定できます。この培養検査は、抗結核薬の感受性検査のために必要になります。
 気管支鏡を用いて採取した病巣組織についても、結核菌培養、遺伝子検査を行います。なお、胸水(結核性胸膜炎(きょうまくえん))、髄液(結核性髄膜炎(ずいまくえん))、関節液(骨関節結核)、尿(腎尿路結核)、皮膚分泌液と膿汁(のうじゅう)(皮膚結核)などの検体も、それぞれの診断に用います。
(2)特異的組織像の証明


 該当する肺の病巣から気管支鏡を用いて組織を採取して、多核巨細胞(たかくきょさいぼう)を伴う乾酪壊死像(かんらくえしぞう)を証明します(図21)。同時に病巣組織のチール・ネルゼン染色を行い、抗酸菌を証明します。なお、胸膜、髄膜、関節滑膜(かつまく)、皮膚などの検体もそれぞれの組織診断に用います。
(3)結核感染病巣の画像的証明


 胸部X線、CT検査を行います。結核病巣の存在と広がりとを確認します。初感染型では肺野の浸潤影(しんじゅんえい)とともに肺門リンパ節や縦隔(じゅうかく)リンパ節の腫大が認められます。肺野の浸潤影は上葉(じょうよう)に結節性、空洞性陰影(図22)として認められます。たいてい、大きな病変のまわりに小さい塊が分布しています。
 粟(あわ)の粒に似た小さな影がたくさんあれば粟粒(ぞくりゅう)結核が強く疑われます。時に、胸水の貯留、肺門・縦隔(じゅうかく)リンパ節の腫大が認められます。そのほか、骨関節、腹腔臓器などの結核でも、それぞれの部位のX線、CTを撮影します。
(4)免疫学的証明
 結核感染に特有な人体の免疫反応の検査を行います。ツベルクリン反応が陰性から陽性(陽転(ようてん))になれば感染の証拠になります。しかし、日本ではこれまで乳・幼・小児期にBCGを接種する機会があったので、ツベルクリン反応が陽転しても結核感染そのものによるのか、あるいは、BCGの効果によるのかはなかなか断定できません。
 そのため、結核の発病者にそれまで接触していた多くの人々に対して、ツベルクリン反応で感染者を判定しようとすると、化学予防者が実際よりも激増する恐れがあります。そこで近年、判定能力がツベルクリン反応をしのぐクウォンチフェロンテスト(QFT)が開発され、日常の診療に導入されました。後述のコラムに詳しく述べますが、感染者の血液を試験管内で結核菌にしか存在しない特異蛋白(ESAT‐6とCFP‐10)と作用させて、20時間後にインターフェロンγ(ガンマ)の産生量を測定する方法です。日本の集団発生の事例にも応用されています。
(5)炎症の程度の把握
 赤沈(胸膜炎を合併すると100mm1時間以上を示す)、CRP、白血球増多(軽度の場合が多い)が活動性の評価と治療効果判定のひとつとされます。
(6)鑑別疾患
 感冒(かぜ)のような症状を示し、胸部X線写真で肺炎に似た陰影や小結節影、空洞性陰影が認められる時は、細菌性肺炎、マイコプラズマ菌などの非定型肺炎(ひていけいはいえん)、非結核性抗酸菌症サルコイドーシス肺膿瘍(はいのうよう)、肺真菌(はいしんきん)感染症、肺がんなどが区別の対象になります。

治療の方法

 日本ではWHOが推奨している強化治療法を行っています。
 すなわち、排菌陽性者にはピラジナミド(PZA:殺菌作用、半休止期の菌に効果)にイソニアジド(INH:殺菌作用、増殖する菌に効果)、リファンピシン(RFP:殺菌作用、増殖する菌、半休止期の菌に効果)およびストレプトマイシン(SM:殺菌作用、増殖する菌に効果)またはエタンブトール(EB:静菌作用、増殖する菌に効果)の4種類の抗結核薬を、まず2カ月併用します。
 その後4カ月はINH+RFPにEBを加えたり、加えなかったりします。なお、肝機能異常がある人や80歳以上の高齢者では、PZAの副作用として肝炎が出現もしくは悪化しやすいので、使用をひかえます。PZAが使用できない場合や排菌の確認の得られない場合は、INH+RFPに、EBもしくはSMの三者で6カ月治療し、その後3カ月はINH+RFPで治療します。
 いずれの治療法でも基礎疾患に糖尿病があったり、粟粒結核の場合は、さらに3〜6カ月治療を継続してもよいでしょう。また、じん肺に合併した肺結核感染症は治療抵抗性を示すので、やはり長めに治療します。
 内服薬は1日1回の内服でよいですが、INHによる末梢神経障害の予防のため、ビタミンB6製剤を同時に内服します。INHは肝機能異常を生じやすく、さらにSMは腎機能障害や第8聴神経(ちょうしんけい)障害による難聴が現れることもあるので、治療前に肝機能と聴力の検査を行います。EBは視神経障害を来しやすいので、前もって眼科的検査を受けてください。


 表7に抗結核薬の副作用をあげました。治療開始後1カ月以内に肝機能の血液検査を行い、異常がなければそのまま治療を続け、その後も1カ月に1度は肝機能をチェックします。
 近年、抗結核薬の服用が指示されたとおりに実行されているかどうか疑わしい患者さんには、耐性菌の出現を避けるため、医療従事者の目の前で服用してもらう方法が米国から導入されました。これをDOTS(Directory Observed Treat-ment, Short Course:直接監視下短期化学療法)といい、「日本版21世紀型DOTS戦略事業」が都道府県・指定都市で行われ始めています。
 DOTSは、RFPおよびINHに耐性を示す多剤耐性結核菌患者の治療にも有効です。幸い日本では、初回治療での多剤耐性結核菌の頻度は1%未満と低いのですが、再治療の患者さんからのそれは20%弱ですので、いかに最初の治療が大切かということがわかります。
 なお、結核治療を開始したあとも、3週間は毎週1回、その後月1回は喀痰の検査を行い、結核菌の陰性化を確認します。

化学予防

 身近に結核の患者さんがいた人や、学校、職場、医療機関などで集団感染が発生した場合は、ツベルクリン反応、胸部X線検査、症状、血液検査などを総合して結核感染が濃厚と判断されれば、検体から結核菌の存在を証明できなくても、抗結核薬を予防的に内服します。これを化学予防あるいは予防内服といいます。
 通常はINHを6カ月間内服します。29歳以下は感染症法によって公費負担となります。もっとも、結核既罹患率(きりかんりつ)の高い日本では、30歳以上でも、準じて予防治療を行ったほうがよいようです。

肺結核に気づいたらどうする

 抗生剤を内服しているにもかかわらず、2週間以上咳と痰、微熱が続く場合は結核を疑い、最寄りの呼吸器科医のいる病院・診療所ないしは独立行政法人国立病院機構(旧国立結核療養所)を受診します。
 生活上は歯ブラシ、手ぬぐいを共有せず、痰が出れば決めておいた容器に捨てます。肺結核は空気感染(飛沫核(ひまつかく)感染)なので、咳が続く期間が長ければ長いほど、そして痰の量が多ければ多いほど感染力が強くなります。早めに呼吸器専門医のいる医療機関を受診してください。
 診察を行った医師は種々の検査結果も総合して、受診者を結核発病者と診断した場合、結核予防法に基づき2日以内に最寄りの保健所に届け出ます。