じん肺(珪肺症、石綿肺)とはどんな病気か

 空気中に浮遊する微粒子(約1〜5μm)である粉じんを肺に吸入することによって肺に生じる病気で、肺内に線維性病変などをつくります。多くは、粉じんを吸入する環境ではたらく場合に発症することで、職業性疾患に分類されます。粉じんの吸入から発症までには、吸入する粉じんの量にもよりますが、一般に長期間を必要とします。

原因は何か



 粉じんの吸入によって起こりますが、粉じんの種類は数多くあります(表15)。病気になるのは、この粉じんが肺内に沈着して、肺の線維化、気管支炎、気管支拡張などを起こすためです。そのため、病変が進行すると肺からの酸素の取り込みの低下が強まって、呼吸困難などが生じます。
 代表的なものには、鉱山、石工、トンネル工事などで起こる珪肺症(けいはいしょう)と造船業、建設業で起こる石綿肺(せきめんはい)があります。以下、この代表的な2つの病気について解説をします。

珪肺症(けいはいしょう)

じん肺(珪肺症、石綿肺)とはどんな病気か

 数年から十数年の長期間にわたり、遊離珪酸(SiO2)の粉じんを吸いこんだ人に発症するじん肺で、珪肺症と呼ばれています。職業性肺疾患であり、鉱山での作業、砂岩や花こう岩の切り出し、研磨作業、トンネル工事、鋳物工場での作業、陶器職人など、日常的に珪酸を吸入する環境での仕事により発症します。
 吸いこんだ珪酸は肺に到達し、肺組織を障害し、さらにマクロファージ、上皮などを刺激することにより線維化を起こす病気です。障害のはじまりは、上側の肺に密な粒状の陰影がみられ、さらにそれらが、徐々に結合して大きなかたまりになり、塊状(かいじょう)となります。

症状の現れ方

 珪肺の病変は軽快することはなく、緩徐に進行していくといわれています。症状は、珪酸によりできた肺内の線維化巣、結節病変などにより呼吸機能の低下が起こり、呼吸困難などの症状が出現するようになります。初期は無症状ですが、進行とともに咳、痰、また労作時呼吸困難、倦怠感(けんたいかん)、体重減少、さらに安静時にも呼吸困難が出現するようになります。
 合併症として注意しなければならないものに、結核(けっかく)、気管支拡張症(きかんしかくちょうしょう)、気胸(ききょう)、肺(はい)がんなどがあります。また、まれな合併症ですが、カプラン症候群と呼ばれる、関節リウマチに合併し、両側の肺に円形の塊状陰影を示す病態があります。

検査と診断

 呼吸機能検査では、特徴的な障害パターンはなく、拘束(こうそく)性換気障害や閉塞性喚起障害、また拡散能力の低下などが起こります。


 胸部X線写真では、初期にはほとんど陰影は認められず、その後は粒状陰影がみられるようになります。この粒状陰影は、上中肺野に多くみられます。その後、この粒状陰影は融合してかたまりのようになるため塊状陰影と呼んでいます(図33)。下肺野には気腫性の変化がみられたりもします。特徴的な陰影のひとつとして、両側の肺門リンパ節の卵殻状陰影があります。

治療の方法

 根本的な治療法はなく、喀痰(かくたん)が多い場合には去痰薬の投与、さらに合併症に対する治療が行われます。また、低酸素状態に対しては酸素療法が行われます。
 重要なことは、予防であり、職場で珪酸を吸入しないようにすることです。そのためには、粉じんの発生を避けるようにすること、作業所にフィルターをつけることによる粉じんの除去やマスクを着けるなどにより、肺内に珪酸が入らないようにします。

石綿肺(せきめんはい)

じん肺(珪肺症、石綿肺)とはどんな病気か



 石綿(アスベスト、図34)を吸い込み、長い期間をかけて胸膜(きょうまく)を中心とした病変を生じさせるじん肺です。このアスベストの種類には、クロシドライト(青石綿)、アモサイト(茶石綿)、クリソタイル(白石綿)などが知られ、不燃性、耐熱性、非腐食性に優れ、軽く、強度があり、加工しやすいなどの特性により、建築現場をはじめとするさまざまな分野で使用されてきました。
 アスベストによる呼吸疾患には、主に以下のようなものがあります。

●アスベストによる呼吸器疾患(こきゅうきしっかん)
(1)胸膜プラーク(胸膜肥厚斑(ひこうはん))


 壁側胸膜の限局性胸膜肥厚(1〜10mm)で、アスベスト曝露(ばくろ)によって起きる最も早期の病変で、高頻度であることが知られています(図35)。ほとんどの場合、胸膜プラークのみによる症状はみられません。
(2)胸膜中皮腫(ちゅうひしゅ)
 胸膜から発生する悪性の腫瘍で、曝露から時間がたつにつれて発生頻度が高くなります。従来、限局型と呼ばれていた多くの胸膜中皮腫は、単発性線維性腫瘍という別の名称で呼ばれるようになっています。
(3)アスベスト肺
 アスベストの高濃度曝露によって発症し、胸部画像では両側下肺野に線状・網状陰影が内側から外側に、また下肺から上肺に病変が広がり、進行して蜂巣肺(ほうそうはい)がみられるようになります。胸部X線写真では、特発性間質性肺炎(とくはつせいかんしつせいはいえん)、膠原病性間質性肺炎(こうげんびょうせいかんしつせいはいえん)などと類似していることが多く、鑑別が必要です。
 確定診断には、アスベスト曝露の職業歴とともに、組織や細胞診断などによる病理組織・細胞診診断も重要となります。
(4)肺がん
 アスベストそのものによる発がん作用と、アスベストによる肺線維化病変からの肺がんが考えられています。さらに、喫煙はアスベストによる肺がん発生のリスクを顕著に高めることが知られ、禁煙はアスベストによる肺がん発生の予防となります。
(5)良性石綿胸水(きょうすい)
 本症は、アスベスト曝露があり、悪性腫瘍、結核(けっかく)、膠原病などの他の原因がない胸水(多くは片側)で、さらに、胸水発生後3年間、悪性腫瘍が認められない場合に診断され、診断においては除外診断が重要となります。多くは、1〜10カ月で自然軽快します。
(6)びまん性胸膜肥厚
 本症は、胸膜の肥厚が少なくとも5mm以上で、広がりが片側の肺の50%以上、両側の場合は25%以上で、著しい肺機能障害を認める場合に診断されます。
(7)円形無気肺(えんけいむきはい)
 胸膜の癒着や線維化によって起こる末梢性の無気肺で、円形の腫瘤性陰影を示し、下葉背側に好発します。肺腫瘍との鑑別が必要になります。

症状の現れ方

 初期は無症状で、ゆっくりと進行し、労作時呼吸困難(歩行などの労作における呼吸困難)、咳などが生じます。さらに進行すると、安静時呼吸困難が出現するようになります。

検査と診断

 胸部X線写真では粒状陰影、線状陰影、すりガラス陰影などがみられ、胸膜プラーク、アスベスト肺、肺がん、良性石綿胸水、びまん性胸膜肥厚、円形無気肺などの病態、合併症の有無により陰影が異なります。


 診断はアスベスト曝露歴が重要ですが、不明な場合でも喀痰、気管支肺胞洗浄液、組織中のアスベストの存在の証明(図34)などで診断します。胸膜中皮腫の診断において、胸水中のヒアルロン酸値(10万以上ml)は診断価値が高く、有用です。ただし、胸水中のヒアルロン酸値が軽度の上昇を示すことは、中皮腫以外の他の疾患でもよくあることで、注意が必要です。

治療の方法

 根本的な治療はなく、呼吸不全に対する酸素療法、去痰薬の投与などに加えて、喫煙は肺がんの発生を高頻度とするため、禁煙が重要です。また、合併症として発症する肺がんの外科的治療が重要であり、早期に発見する必要があります。
 悪性胸膜中皮は早期に発見することが困難で、外科的治療の適応例が少ないのが現状です。進行した肺がん、また胸膜中皮腫は抗がん化学療法の適応となりますが、予後は決してよくはありません。
 なお、石綿に関連した健康被害の補償制度があり、本症が疑われる場合、また診断を受けた場合などには考慮すべきです。

関連項目

 間質性肺炎