顔面神経麻痺(ベル麻痺)とはどんな病気か

 顔面神経麻痺は、顔面神経によって支配されている顔面筋の運動麻痺です。急性あるいは亜急性に発症します。原因疾患が明らかな症候性(しょうこうせい)顔面麻痺と、明らかな原因が不明な特発性(とくはつせい)顔面神経麻痺(ベル麻痺)とに分けられます。
 原因疾患として多いのは、ヘルペスウイルス感染症で、典型的には口唇(こうしん)ヘルペスを以前患った方が突然の顔面神経麻痺で発症します。ほかには腫瘍(しゅよう)や代謝疾患が原因となる場合もあります。顔面神経は、運動神経以外にも舌の前3分の2の味覚を伝達したり、アブミ骨筋という音量を調節する小さな筋を支配しています。

原因は何か

 特発性顔面神経麻痺の原因はいまだ不明ですが、考えられる可能性としては寒冷曝露(かんれいばくろ)、アレルギー、局所浮腫(きょくしょふしゅ)、ウイルス感染などがあります。
 いずれにしても、顔面神経は顔面神経管と呼ばれる骨で取り囲まれた狭いトンネルを通って脳から外に出ますが、何らかの原因で顔面神経がはれる(浮腫)と顔面神経が圧迫され麻痺が現れると考えられています。

症状の現れ方

 ベル麻痺の典型的な症状は以下のとおりです。

(1)男女差、年齢層に関係なく、突然始まる片側顔面筋の運動麻痺が主な症状です。その結果、額にしわを寄せられない、眼を閉じられない、口角が垂れ下がる、口を尖(とが)らせて口笛がふけなくなる、口角からよだれが垂れる、などの症状が起こります(図30)。 (2)麻痺側の耳が過敏になり、音が大きく響くように感じることがあります。 (3)麻痺側の舌の前方3分の2の味覚障害を伴うことがあります。典型的な訴えとしては、ものを食べた時、金属を口に入れたような感じがするというものです。 (4)眼が閉じにくいため、眼を涙で潤(うるお)すことができず、夜間などに角膜が乾燥しやすくなります。そのため、角膜に潰瘍(かいよう)ができることがあります。 (5)比較的予後は良好で、数カ月で自然治癒することもあります。 (6)治癒が完全でない場合には、顔面麻痺が残ることがあります。また再生した顔面神経が本来の支配先と異なった筋を支配してしまった場合には、口を閉じると眼が一緒に閉じたり、熱いものや冷たいものを食べた時に涙が出たりする異常連合運動が起こることがあります。

検査と診断

 診断は典型的な顔の表情から比較的容易です。しかし、原因となる病気がある場合、両側に同時に発症したり何度も繰り返す場合などは、MRIなどの画像診断が必要です。そのほかにサルコイド、ライム病などのややめずらしい病気でも起こることがあり、それらが疑われる場合には、血液検査などほかの検査が必要になります。
 顔面神経麻痺の発症前に、耳のなかに痛みや水泡(すいほう)の形成が先行する場合は、ヘルペスウイルス感染による麻痺がまず考えられます。また、障害の程度や回復の正確な評価のために、筋電図や誘発電位検査が行われることもあります。

治療の方法

 基本的には外来で治療可能な場合が多いのですが、検査が必要な場合、診断がはっきりしない場合、顔面神経麻痺の程度が強い場合などでは、入院が必要です。
 副腎皮質ステロイド療法が効果的と考えられていますが、糖尿病や感染症を悪化させる可能性があるので、それらの病気がある場合には慎重な対処が必要になります。そのほかに、ビタミンB12やビタミンEなどの製剤が神経修復の促進に使われます。
 明らかなヘルペスウイルス感染の証拠がない場合でも、抗ウイルス薬の投与で顔面神経麻痺が改善するという報告が最近あり、同時に抗ウイルス薬が投与されることがあります。また、眼が閉じにくい場合、人工涙液(じんこうるいえき)を点眼して角膜を保護することが必要です。
 リハビリテーション療法も重要で、麻痺した筋肉をゆっくりとマッサージすることや、顔面の筋肉をはたらかせるために百面相の練習をすることが有効です。