野球肘とはどんな障害か

 投球動作の主にアクセレーション期(加速期)に、肘関節が屈曲位で過度の外反(外側に反る)を強制されることにより、内側には引っ張りストレス、外側には圧迫ストレス、後方には衝突や引っ張りストレスが繰り返し加わることによって発生する肘の障害です。とくに、肘の骨端線(こつたんせん)が閉鎖する前の少年期では、骨、軟骨、筋肉が未発達なことと成長期特有の投球動作の関係で野球肘が起こります。
 はじめは、肘の外反が強制されることにより内側の靭帯(じんたい)が引っ張られて、靭帯自体や付着部の骨端線に障害が起こり、次いで内側に緩みが生じたことで外側への圧迫ストレスが強くなり、上腕骨小頭と橈骨頭(とうこっとう)の軟骨、骨の損傷が起こります。この外側の病態が進行すると、骨軟骨片がはがれて遊離体(関節ねずみ)となり、ついには変形性肘関節症(ちゅうかんせつしょう)を併発してしまいます。
 後方にストレスが加わることによって起こる障害は、主に上腕三頭筋の収縮が肘頭を繰り返し引っ張ることによって起こる骨端線の離開に代表されます。その他、骨棘(こつきょく)の形成(骨に刺(とげ)状の変形ができる)や外側からの遊離体がこの部位にはさまることなどによることもあります。

合併症

 関節内の障害は進行すると変形性肘関節症となり、日常生活に支障を来すことになるので、早期発見・早期治療が重要になります。

症状の現れ方

 自覚症状はどの部位の障害も疼痛で始まります。はじめは投球時にのみ局所に疼痛があり、安静時には無痛か倦怠感(けんたいかん)がある程度です。筋肉、腱、靭帯、靭帯付着部の障害では鋭い疼痛、関節内の障害では鈍痛を訴えます。病態が進むと肘関節の運動制限が現れてきます。初期でも関節炎の併発により可動域が制限されることがありますが、骨、軟骨性障害によって現れる伸展制限は慢性化の指標で、注意を要します。

検査と診断

 X線撮影で各部位の骨の異常を調べます。内側は骨端核(成長線の外にある骨)の離開、分節化、硬化、不整、肥厚など、外側は上腕骨小頭の透明巣(黒く抜けて見える病巣)、分離、欠損など、後方は肘頭の骨端核の離開、硬化、不整などの所見が認められることがあります。遊離体や骨棘はX線像でもわかる場合もありますが、CT撮影でより詳細に描き出されます。MRIはX線、CT像でまだ現れていない骨軟骨変化や、滑膜(かつまく)、筋肉、靭帯の状態なども描き出せるので、非常に有用な検査です。さらに、関節鏡検査(内視鏡)は病巣部を直視でき、遊離体摘出術や骨軟骨病変の処置などの鏡視下手術に移行できることから、治療を兼ねて行われています。

治療の方法

 障害部位とその進行程度、さらには年齢や個人の事情によって治療方針は異なりますが、原則は早期発見・早期治療です。内側の障害は、早期であればほとんどが投球中止などの保存療法で治ります。しかし、この段階で放置すると外側の障害が進行することになるので注意を要します。
 外側の障害についても、程度が軽ければ損傷が修復するまで投球を中止することによりよくなりますが、骨軟骨病変の分離が進んだり、遊離体ができてしまった場合などには手術が必要になります。
 手術方法としては分離や欠損を起こしている部位へのドリリング(穴をあける)や骨釘(こつてい)移植、骨軟骨移植、遊離体摘出などがあります。後方の障害については、肘頭の骨端線の離開が大きい場合に接合術の手術を行うことがあります。

予防対策

 成長期の野球肘の発生要因としては、骨、軟骨、筋肉の未発達、投球技術の未熟などがあげられます。予防・再発予防として、投球前後のウォーミングアップとクールダウン、ストレッチング、筋力トレーニング、投球フォームの改善などを行います。また、最大の要因は投球過多と考えられるので、投球数の制限(50球日、300球週以内)を行う必要があります。