サイトメガロウイルス網膜炎とはどんな病気か

 ヘルペスウイルス科に分類されるサイトメガロウイルスによる網膜感染症です。このサイトメガロウイルスには、日本では成人の約90%の人が潜伏感染しており、ほとんどすべての人がこのウイルスを体内にもっています。
 何らかの原因により、サイトメガロウイルス網膜炎が発症すると、網膜は壊死(えし)に陥(おちい)り、失明にまで至ります。後天性免疫不全(こうてんせいめんえきふぜん)症候群エイズ)における代表的な眼の日和見(ひよりみ)感染症(コラム)のひとつです。

原因は何か

 サイトメガロウイルス網膜炎は、大別して2つに分けることができます。(1)先天性のサイトメガロウイルス感染症によるもの、(2)すでに体内に潜伏感染しているサイトメガロウイルスによる後天性の網膜炎によるものです。
 (1)の先天性のものは、胎児が母体内にいる時に、胎盤を経由して感染し、多くの臓器症状のひとつとして発症するものです。この場合、眼球それ自体に異常(例:視神経乳頭(ししんけいにゅうとう)形成異常)が認められることもあります。
 それに対し、(2)の後天性のものは、何らかの原因で体の免疫力が落ちている場合に発症します。悪性腫瘍(あくせいしゅよう)で抗がん薬投与中の人、臓器移植後で拒絶反応を抑えるために免疫抑制薬使用中の人、そしてここ10〜20年間では後天性免疫不全症候群エイズ)の人での発症が注目されています。
 一般的に、成人のサイトメガロウイルス網膜炎といえば、(2)の後天性のものを指します。つまり、すでに体内に潜伏感染しているウイルスが、免疫力の低下に伴い暴れだし、網膜に重い炎症を引き起こすのです。健康な人が突然、この病気を発症することはほとんどありません。

症状の現れ方

 この病気の症状は、視力低下から飛蚊症(ひぶんしょう)(コラム)に至るまで、いろいろです。これは病変が眼底のどの部位を侵すかにより決まります。進行の度合いも、網膜血管を侵して急速に進行していくタイプから、徐々に進行するものまであり、どのようなタイプで発現するかにより症状も異なります。
 多くの場合、初期には片眼で発症しますが、時間とともに両眼に至ります。さらに発症1年以内に、網膜病変の萎縮(いしゅく)に伴い、網膜剥離(もうまくはくり)を生じ、そのために視力・視野障害が起こる場合もあります。

検査と診断

 診断は、全身の免疫不全状態に伴う、特徴的な眼底所見によりなされます。確定診断のためには、ウイルスの分離、ウイルス抗原の検出が行われますが、近年は分子生物学的手法(PCR法)を用いたウイルスDNAの検出が多用されています。特異性が高く、迅速であることから広く普及してきています。
 また、区別すべき病気として、他のヘルペスウイルス科のウイルスによる網膜感染症が問題となりますが、PCR法を用いることで特異的なウイルスDNAの検出が可能となり、鑑別診断にも重要になっています。

治療の方法

 治療は、抗ウイルス薬の点滴による全身投与です。使用薬剤としてはガンシクロビルが一般的です。治療の問題点として、長期にわたる点滴治療が必要なことから、全身的な副作用(骨髄抑制(こつずいよくせい))があります。
 それらを解決するために、米国ではこの薬を特殊な小型の容器に入れ、持続的に眼球内に放出する治療(徐放性(じょほうせい)インプラント:ヴィトラサート)が行われています。この特徴は、眼球局所への投与が可能であり、6カ月以上にわたる薬剤効果があることです。良好な結果が報告されており、全身の副作用も解決されています。
 しかしながら、この薬の作用はウイルスの増殖を抑制するものであり、病気そのものを治す効果はありません。そのため、薬剤を中止すると病気の再燃(再発)が生じます。本質的な治療は、全身の免疫不全の改善です。

サイトメガロウイルス網膜炎に気づいたらどうする

 この病気は前述したように、何らかの免疫不全状態がないと発症することはありません。エイズや他の免疫不全を生じる状態(たとえば、臓器移植後で免疫抑制薬の投与中)の人で、視力低下や飛蚊症などの症状があれば、すみやかに眼科網膜専門医の診察を受けてください。あるいは、内科主治医に申告し、眼科受診の依頼をしてもらうのがよいでしょう。
 サイトメガロウイルス網膜炎は、進行がそれほど速くないため、早期に発見できれば、抗ウイルス薬の投与により視機能をある程度保つことが可能です。