どんなものか

 人工中耳は「音を振動エネルギーに変換して内耳に伝える」という中耳の機能を代行する機器です。聴覚障害者の聴力を補うために、手術によって中耳機能を代替する機器を埋め込むので、欧米では埋め込み型補聴器ともいわれています。
 補聴器との違いは、補聴器が増幅した音声をイヤホンから外耳へ聞かせるのに対して、人工中耳は振動子(しんどうし)を用いて中耳の耳小骨(じしょうこつ)に直接伝える点です。2009年現在、世界では数種類の機種が臨床応用されていますが、日本では保険適応されておらず、一般的に認可されているものではありません。しかし、今後期待されるものといえます。

歴史と現状

 1978年、通商産業省工業技術院の医療福祉機器開発事業に基づいた人工中耳が開発されました。84年から臨床応用され、93年には高度先進医療技術として認可されています。
 一方、欧米でも人工中耳(埋め込み型補聴器)の研究が行われており、中耳機能の代替という点で振動子を使用したものが96年に登場しています。
 人工中耳にとって最も重要な要素は、耳小骨振動子です。振動子には入力された音信号をできるだけ忠実に耳小骨に伝えることが要求され、その優劣により人工中耳の性能が大きく左右されます。

どんな人に有効か

 外耳道閉鎖症(がいじどうへいさしょう)や中耳炎などで手術(鼓室形成術など)を行っても術後に難聴が残り、補聴器の装用が必要と考えられる、中等度ないし高度の混合難聴(こんごうなんちょう)の患者さんが適応となります。
 現時点の人工中耳は出力の点で限界があり、合併する感音難聴(かんおんなんちょう)の程度は50〜60dB(デシベル)が限界とされています。多くが補聴器でも聞き取ることができる難聴なので、補聴器に十分満足している人には適応はなく、人工中耳は補聴器の装用感や音質に満足できない患者さんには有効といえます。

現在の有効性

 補聴器装用者と人工中耳装用者の聞き取りを比較すると、音質では前者が「自然」と評価した人10%に対して、後者では63%に及び、声の聞き取りでは「よい」と評価した割合は、それぞれ41%、94%であり、人工中耳のほうの評価がよくなっています。
 このように人工中耳は、生活の質(QOL)の改善に大きな役割を果たしていますが、対象とする人口が限られているため、保険の適応になっていません。人工中耳の性能の発展は、機器の進歩によるところが大きいといえ、聞き取りの改善も含めて、最終的な完全埋め込み型を目指して、今後の改良、開発が期待されます。