ある種の薬剤を服用すると、その副作用として、歯肉がはれて厚くなります(歯肉肥大あるいは歯肉増殖)。歯肉肥大を起こす薬剤には、抗けいれん薬(てんかんの治療薬)、降圧薬(高血圧症や狭心症(きょうしんしょう)などの治療薬)および免疫抑制薬(臓器移植などを受けた患者さんが服用する薬)があります。

ダイランチン性歯肉増殖症(せいしにくぞうしょくしょう)

薬物性歯肉肥大とはどんな病気か



 抗けいれん薬であるダイランチン(フェニトイン、アレビアチン、ジフェニルヒダントインなど)を服用した場合の副作用として、歯肉が硬くはれあがり、はなはだしい場合は、歯を完全に埋めつくすほどにはれることもあります(図40)。
 発現頻度は服用者の約50%であり、比較的若い人に多くみられますが、性差はないとされています。
 歯肉のはれる程度は、口腔清掃状態と関連があるといわれています。よくはれる場所は前歯の唇側(外側)で、口のなか全体がはれることもありますが、歯がなくなるとはれは引いてしまいます。

治療の方法

 原因は、ダイランチンの影響で歯肉中の線維芽細胞(せんいがさいぼう)が活発に分裂し、増殖や肥厚が起こると考えられています。
 したがって、この薬の服用を中止することも考えられますが、ダイランチンはてんかんの主治療薬なので、それができない場合もあります。歯肉のはれが、口腔清掃状態、すなわちプラーク量と関係があることから、治療の基本は口腔清掃指導から開始されます。
 次いで、スケーリングを行いますが、歯肉が線維性に肥大している場合は、はれがなかなか引かず、ポケットも浅くなりません。そのような場合は、口腔清掃をしやすい環境をつくるため、またポケットを浅くするために、外科的にはれている歯肉を切り取ります。
 適切な口腔清掃状態を維持することができれば、再発は起きにくいとされています。しかし、ダイランチンは基本的な運動機能も抑制するため、患者さんが口腔清掃を良好に維持することは困難になり、再発することが多くなります。

カルシウム拮抗薬(きっこうやく)による歯肉増殖症(しにくぞうしょくしょう)

薬物性歯肉肥大とはどんな病気か



 高血圧狭心症(きょうしんしょう)などの治療薬として使用されているカルシウム拮抗薬を服用している場合、その副作用として歯肉がはれることがあります(図41)。カルシウム拮抗薬には、ニフェジピン(アダラート)、ベラパミル(ワソラン)、ジルチアゼム(ヘルベッサー)、ニカルジピン(ペルジピン)などがあります。
 これらの薬剤は、血管平滑筋(へいかつきん)細胞内へのカルシウムイオンの取り込みを阻害して、血管収縮を抑え、血圧を下げたり、血行を改善します。ほとんどのカルシウム拮抗薬は、歯肉増殖を起こすといわれています。
 発現率は10〜20%程度であり、増殖の程度はさまざまです。前歯で最も頻繁にみられ、口のなか全体に起こることもあり、ダイランチン性歯肉増殖症と同じような所見を示します。
 歯肉増殖の原因はよくわかっていませんが、カルシウム拮抗薬によって活性化された歯肉中の線維芽細胞(せんいがさいぼう)が、基質を多量に産生することと関連があるらしいとされています。

治療の方法

 口腔清掃を基盤として、プラークコントロールをし、歯周基本治療を行います。そのあと再検査し、必要に応じてはれの引かない部位に小外科手術を行うことは、ダイランチン性歯肉増殖症と同じです。