胃・十二指腸潰瘍<食道・胃・腸の病気>の症状の現れ方

 自覚症状で最も多くみられるのは上腹部痛です。十二指腸潰瘍では、空腹時痛がよくみられ、とくに夜間にしばしば起こります。胃潰瘍では、食後30分から1時間たったあとの上腹部痛がよくみられます。
 しかし、すべての胃・十二指腸潰瘍の患者さんに上腹部痛が現れるわけでなく、20〜30%では痛みが出現しないことに注意する必要があります。とくにエヌセッド由来の潰瘍の場合は、上腹部痛が出にくいことが明らかになっています。
 潰瘍からの持続的な出血があると、吐血(胃酸と混じるためコーヒーの残りかす様のことが多い)または下血(タール便と呼ばれる海苔のつくだ煮様の黒っぽい便としてみられることが多い)として症状が現れてきます。出血症状が現れた場合は、急を要することが多いので、病院を早急に受診してください。
 そのほか、むねやけ、吐き気、嘔吐などがみられることがあります。食欲は、吐き気が強い時を除けば落ちてくることはむしろ少ないといわれています。

胃・十二指腸潰瘍<食道・胃・腸の病気>の診断と治療の方法

 胃・十二指腸潰瘍の治療は、大きく3つの時代に分けて考えることができます。

第1期「生活習慣病の時代」
 第1期は1980年以前で、治療は安静を保つことと胃に負担をかけない食事をとることが基本であり、それに加えて薬剤療法が行われていました。この当時の薬剤療法は、胃酸を中和する制酸薬や胃酸分泌を抑制する抗コリン薬が攻撃因子抑制薬として使用され、胃粘膜防御因子増強薬と呼ばれる薬剤と併用していました。この療法は一見理想的な治療法にみえますが、実質的な効果を伴っていなかったのです。

第2期「治療革命の時代」
 第2期は、ヒスタミンH2受容体拮抗薬(じゅようたいきっこうやく)(H2ブロッカー)の登場によって幕を開けます。この薬剤は、塩酸を分泌する壁細胞のヒスタミンH2受容体に作用して、胃酸の分泌を抑制できる画期的なものでした。これまで、どの薬剤によっても成し遂げられなかった夜間の酸分泌をほぼ完璧に抑制することができ、胃内の平均pHを確実に上昇させることができました。腹痛などの自覚症状は、1週以内に90%以上の患者さんで消失し、潰瘍も8週以内に80%以上の治癒率を示すことが明らかになったのです。
 その後、プロトンポンプ阻害薬(PPI)という究極の酸分泌抑制薬が開発されました。PPIは、壁細胞における受容体を経由して酸を産生するプロトンポンプそのものに作用し、酸をつくることを直接止めてしまいます。したがって、PPIはすべての酸分泌刺激に対して抑制を行うことが可能な薬剤なのです。PPIを使用すると、胃・十二指腸潰瘍の90%以上が8週以内に治ることが明らかになってきました。
 胃・十二指腸潰瘍が治癒したあと、何も治療をしなければ、1年以内に約70%が再発を起こします。そのため、潰瘍治癒後も、H2ブロッカーや防御因子増強薬による維持療法と呼ばれる潰瘍再発予防のための薬剤投与が行われていました。維持療法を行うと、1年の再発率が10〜20%くらいにダウンすることが知られています。

第3期「原因療法の時代」
 ピロリ菌の除菌療法により、維持療法なしでも1年後の胃潰瘍の再発率は10%、十二指腸潰瘍は5%と極めて低く抑えられることが日本でも明らかになりました。
 胃・十二指腸潰瘍のもうひとつの原因であるエヌセッドの服用による胃・十二指腸潰瘍の治療については、エヌセッドの服用を中止することが原因療法になります。しかし、関節リウマチなどの患者さんでは中止できないことが多く、そのため原因療法に準じる治療法として、エヌセッド投与によって減少する胃粘膜プロスタグランジンを補充する、プロスタグランジン誘導体の投与が行われます。
 このように、胃・十二指腸潰瘍の治療はこの20年の間にすっかり様変わりしてきました。昔は、夏目漱石など胃・十二指腸潰瘍で亡くなった人も多かったのですが、今では治療法が確立されてきたため、昔のように恐ろしい病気ではなくなりつつあります。