昔、性病と呼ばれていた4大疾患(梅毒(ばいどく)、淋病(りんびょう)、軟性下疳(なんせいげかん)、鼠径(そけい)リンパ肉芽腫症(にくげしゅしょう))は現在、抑えられていますが、新たに問題になっているのが、エイズや尖圭(せんけい)コンジローマなどの新興ウイルス性疾患です。


 最近の性行為感染症(表4)の特徴は、性道徳の変化、国際化、風俗産業の潜在化などを背景に、感染者の低年齢化、性行動の多様化で未成年者や主婦などへ一般化し、家庭内への侵入が深く静かに起こっていることです。
 そこで最近、日本での感染症新法では、(1)エイズ、(2)梅毒、(3)性器クラミジア、(4)性器ヘルペス、(5)淋菌(りんきん)、(6)尖圭コンジローマの6つの感染症がSTDとして指定されました。したがってSTDは、単に泌尿器科、肛門科、婦人科ばかりでなく、消化器内科、眼科、耳鼻科などどの診療科にも関わりがある重要な感染症となったのです。
 具体的にいうと、アナルセックス、フェラチオ、クンニリングスなどによる陰茎(いんけい)や腟、肛門、口唇、咽頭の発疹、びらん、潰瘍(かいよう)の発生などです。
 肛門病変では、尖圭コンジローマ、エイズ、梅毒が重要です。

尖圭(せんけい)コンジローマ

性行為感染症(STD)に伴う肛門病変とはどんな病気か



 男性の肛門周囲や陰茎、女性の腟周囲に小さな乳頭状のいぼが散在または密集する病気です(図29)。

原因は何か

 ヒトパピローマウイルス(HPV)によるSTDとして知られています。80を超える遺伝子型のうち、尖圭コンジローマは6型、11型HPVによるものとされています。潜伏期間は3週〜8カ月(平均2・8カ月)です。HPVをもった相手との性行為によって感染し、その70%が発病するといわれています。
 海外では、肛門部発症者の多くが、同性愛者か両性愛者であったという報告もあります。新生児を含む小児の肛門部発症の報告例も多数あります。一般に男女比に差はありませんが、肛門周囲発症例においては圧倒的に男性に多いようです。
 最近の研究では、尖圭コンジローマ自体の悪性や、女性の外陰部に発生する扁平上皮(へんぺいじょうひ)がんや子宮(しきゅう)がんの原因として尖圭コンジローマが関係しているという報告もあります。
 10代の若い男女にも尖圭コンジローマが増えていること(尖圭コンジローマの15%)、出産時における産道での感染を思わせる新生児の発病もあります。性風俗の変化に伴い、口唇での発生が欧米を先頭に世界的に増加しています。

症状の現れ方

 小さく、やや白っぽい乳頭状疣贅(ゆうぜい)(いぼ)が散在または密集し、痛みやかゆみ、分泌物を伴います。
 本症の特殊な病変として、巨大尖圭コンジローマ(ブシュケ・ローエンシュタイン腫瘍)が有名です。乳頭腫(にゅうとうしゅ)が密集し、急激に増加して巨大な腫瘤塊(しゅりゅうかい)を形成し、悪臭を放ち、悪性化することもあります。約21%に悪性化を起こします。

検査と診断

 肛門部の診察が大切で、視診でほぼ100%診断できますが、紛らわしい時は組織検査をします。女性で会陰部(えいんぶ)に病変が及ぶ場合には、子宮がんの多発する子宮頸部(けいぶ)での発症が少なくないので、婦人科で診察を受ける必要があります。小児では、肛門皮垂(こうもんひすい)と紛らわしい場合もあります。

治療の方法


(1)外科的方法

 できるだけ正常な皮膚を残して、ごく一部の皮膚といぼをいっしょに切除し、開放創(そう)として自然治癒させます。肛門管に病変が及んでいる場合は、切除後の肛門狭窄(きょうさく)の防止に注意します。小さい場合やわずかな再発巣は、電気メスで焼きます。
 産婦人科では、炭酸ガスレーザーによる蒸散もよく用いられます。
(2)抗ウイルス薬軟膏塗布
 以前は、フルオロウラシル(5‐FU)軟膏の塗布が最も広く知られていましたが、創面が潰瘍を作り、疼痛や変形の原因となることがありました。最近はイミキモド軟膏が発売され、病変切除後の再発予防に有効なことがあります。ブレオマイシンの局所注射や軟膏剤の塗布などが有効との報告もあります。
(3)その他
 漢方薬であるヨクイニン(ヨク苡仁)の内服や、10%尿素含有軟膏(ウレパール)の外用が有効であるという報告があります。

性行為感染症(STD)に伴う肛門病変に気づいたらどうする

 性行為で相手に感染するので、性行為に際してコンドームをつけるなりして、防備を十分にしてください。6〜12カ月はパートナーも同時に治療が必要です。早急に肛門専門医または婦人科医、泌尿器科を受診してください。

エイズの肛門病変(こうもんびょうへん)

性行為感染症(STD)に伴う肛門病変とはどんな病気か

 エイズは、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)による感染症です。発症すると生体の感染防御能力を低下させ、自己免疫機構の中枢であるCD4陽性Tリンパ球数(正常は800μl)を減少させて、さまざまな日和見(ひよりみ)感染症を引き起こします。
 HIV感染者の85〜90%の人が、約10年でエイズを発症します。感染者の25%が死亡しています。
 診断は、発熱、咽頭痛、発疹などの初感染期症状と、HIV抗原・抗体検査の組み合わせで行います。
 エイズによる肛門病変としては、(1)日和見感染病変、(2)腫瘍性病変があります。(1)にはウイルス性、細菌性(梅毒)、原虫性(アメーバ赤痢)、(2)にはカポジ肉腫、悪性リンパ腫など複数の感染症が混在しています。具体的には痔瘻尖圭コンジローマ、梅毒性肛門周囲潰瘍、悪性リンパ腫、アメーバ症などです。

原因は何か

 ほとんどがHIV感染者との性的交渉が感染原因になっています。

症状の現れ方

 日和見感染症としては、CD4陽性Tリンパ球が500〜200μl前後では、口腔内カンジダ症、カポジ肉腫、トキソプラズマ症を発症します。200μl以下でカンジダ食道炎、カリニ肺炎、単純ヘルペス腸結核(ちょうけっかく)、悪性リンパ腫を発症し、75〜50μl以下では非定型抗酸菌症(ひていけいこうさんきんしょう)、サイトメガロウイルス感染症が合併しやすくなります。
 エイズでは不明熱、慢性下痢、体重減少が特徴的な症状ですから、下痢による肛門周囲膿瘍は要注意です。

治療の方法

 免疫の目安であるCD4陽性細胞数が200〜300μlになったら、抗HIV療法を開始します。基本的にはヌクレオシド系逆転写酵素(ぎゃくてんしゃこうそ)阻害薬2剤とプロテアーゼ阻害薬1剤を併用し、長期間継続します。最近は多剤併用療法(HAART)によって、感染症の予後はかなり改善され、死亡者は減少し、治るようになってきました。
 肛門病変は手術することもあります。

梅毒(ばいどく)による肛門病変(こうもんびょうへん)

性行為感染症(STD)に伴う肛門病変とはどんな病気か

 肛門周辺のしこり、痛み、かゆみ、分泌物、いぼ状隆起、肛門の潰瘍、鼠径部(そけいぶ)のはれなどを起こす病気です。

原因は何か

 トレポネーマ(細菌)に感染している人との肛門性交によって、精液、陰茎粘膜から出たトレポネーマが肛門から進入して感染します。

症状の現れ方

 初期硬結(しこり)は、肛門縁に切れ痔のような硬い腫瘍とさらさらした分泌物を生じ、感染後2〜3週間後に局所に出ます。これを第1期梅毒といいます。
 放置しておくと6週間で自然に消え、第2期梅毒へ移行します。肛門周辺には大豆大の扁平な丘疹(きゅうしん)(扁平コンジローマ)が多発して、梅毒血清反応が強陽性になります。この時がいちばん感染力が強く、そのため膀胱炎尿道炎腟炎、鼠径リンパ節炎などを起こしやすくなります。

治療の方法

 第1期梅毒では2〜6カ月、第2期では1年半の長期間にわたってペニシリン系抗生剤の内服が必要です。
 第2期梅毒では、完治させるために根気強い治療が必要です。

性行為感染症(STD)に伴う肛門病変に気づいたらどうする

 泌尿器科専門医または肛門科専門医に受診して、治るまでパートナーと同時にしっかり治療し、他人にうつさないマナーが必要です。